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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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100.調査

 野営地へと戻ると、泥濘んだ地面にはヒュプノスローズの花びらが大量に散らばっていて、一夜過ぎたはずなのに未だに甘い匂いが充満していた。

 とはいえ、花粉や蜜などは雨によって流されてしまっているので布で口元を押さえる必要はなさそうだ。

 野営のために張られたテントは倒壊している。ということはなく、ほとんど全てが元のまま残されていた。本当に、誰も抵抗出来なかった。と考えて良さそうだ。


「さて……まずは……」


「足跡、ですわね」


「だな」


 俺とアナスタシアはそれだけの言葉を交わして泥濘によってはっきりと残った足跡を見る。


「足跡?」


「それを見て何がわかるんだい?」


「人数ですわ」


「細かい違いがわからないと正確には数えられないけどな。ただこれだけ泥濘んだ地面なら体重の違いや装備の違いでわかるもんだ」


 勿論、慣れや知識も必要になってくるが俺にとってはそう難しい話ではない。

 アナスタシアも同じようで事も無げに言葉を返してから地面を見ている。


「…………全部同じに見えるんだけど……」


「僕もです。アッシュ、アナスタシア、本当にわかるのかい?」


 アルとシルヴィアにはわからない、とわかっていたので期待はしていない。

 信じられないといった様子の二人を一瞥して野営地を歩き回って足跡を確かめる。

 それを不安そう、もしくは半信半疑で邪魔にならないように見守るアルとシルヴィアだったが野営地自体がとても広い。というわけではなのでそれもすぐに終わりとなった。


「アナスタシア」


「アッシュさん」


 そして同時に二人で名前を呼び合った。

 声に混ざっているのは疑念の色。ということは同じ結論に至った、ということだ。


「おかしいよな」


「ええ、妙ですわね」


 何が、という主語を置き去りにして言葉を交わす。


「僕らにもわかるように話をしてもらえないかな?二人が短い言葉で言いたいことをお互いに伝えることが出来るとしても僕たちには何のことなのかさっぱりだよ」


「人数が思っていたより少ない」


「こうした場合であれば二十人から三十人ほどは最低でも人手が必要になってくると思いますけれど、足跡を見る限りでは十数名、といったところですわ」


「往復したような足跡もあるけどそれも少ない」


「内通者がいたような足跡もありませんわね。泥濘の中に残った足跡は全て野営地の外から来たものばかりですもの」


「だから野営地の中にいた人間を全員数十名で連れ去ったことになる。慣れがある、ってだけじゃなくて相当訓練されてないと難しいんじゃないか?」


「わたくしも同じ考えですわ。だからこそ、妙だ、と口にさせていただきましたわ」


 野営地の外からの足跡は少なく、冒険者の物であろう足跡は非常に乱れていて、足の大きさ、靴底の形、歩いたルート、その他にも色々と見て俺とアナスタシアは同じ判断を下した。

 ただこうなるとただの盗賊団ではない可能性が出てきた。

やけに手際が良く、普通では思いつかないような手段を取った。クレイマンが関わっているからこのようなことになった、ということでもなさそうだ。


「何か、想定外の状況になっている。ということだよね」


「まぁ、想定外ってだけで逃げるわけにもいかないんだよな」


「そうですわね……」


 アルに想定外な状況になっていると聞かれた。俺とアナスタシアはそれに対してそう言葉を返してからこれからどう動くかを考える。

 盗賊団に捕まっていない冒険者がいるのであれば合流して戦力を増やす。ということをしたいのだが望み薄だろう。


「あ!ちょっと三人ともこっちに来て!!」


 そう考えているとテントの中を覗いていたシルヴィアが声を挙げた。

 何か見つけたのかと思いながら三人でそのテントまで行くと、シルヴィアがテントの中から明るい茶色の髪をした一人の少女を連れ出してきた。

 少女とはいえ前衛職なのかスカートではなくハーフパンツを履いていて、少年のようにも見えるがあれは少女だろう。


「無事だった冒険者がいたのですか!?」


「うん!さっきまで意識を失ってたみたいだけど……荷物の陰に隠れていて無事だったみたいだよ!」


 そんな都合の良いことがあるわけがないと思いながら、その少女の様子を窺う。先ほど目が覚めたようで、状況が掴めていない。というような様子だった。


「僕はシルヴィア。君の名前を教えてもらえないかな?」


「えっと……テッラです。シルヴィアということは勇者様ですよね……?」


「うん。でもあんまり気にしないでくれると助かるよ。今は畏まってるような状況でもないからね」


「はい、わかりました」


 テッラと名乗った少女はシルヴィアの言葉に素直に頷いていた。

 アルは無事だった冒険者の存在を喜んでいるようで、表情が明るくなっているがアナスタシアは非常に胡乱げにテッラを見ていた。


「……怪しいですわね」


「そうだな。とはいえ……王都に帰るならそれで良いけど、ついて来るって言うなら拒否も出来そうにないぞ」


「はぁ……そのようですわね。勇者様とアルさんの様子を見ればわかりますわ……」


 二人とも非常にテッラの存在を喜んでいて、何を言おうと、何も言わずとも、可能な限りはテッラを同行させようとするだろう。


「まぁ、良いだろ。わざわざこんなところにいたんだ。盗賊団の人間ってわけじゃないだろ」


「それは……ええ、足跡もこのテントの中には向かっていませんものね……」


「何にしても……ある程度事情がわからないと背中を預けて良いかどうか判断出来そうにないな」


「え、あ、そう、ですわね……確かに事情というか、どういう方なのかわからないと信用出来ませんわ」


 とはいえ現状では戦力になる人間というのは貴重なのでアナスタシアも疑いつつ同行には賛成するはずだ。


「テッラ、この二人がアッシュとアナスタシアだよ」


 テッラに俺とアナスタシアのことを紹介するシルヴィア。

 アナスタシアはそれに対して小さく会釈をし、俺はテッラを正面から見据える。

 すると数秒ほど目が合っていたが、気まずくなったのか目を逸らした。それを見て小さく笑って俺は口を開いた。


「よろしく頼むぞ、テッラ」


「は、はい……よろしくお願いします……」


「アッシュ!テッラは起きたらこんな状況になってて不安になってるんだから、そんな態度は良くないと思うよ!」


 テッラが小柄な少女、ということもあってかシルヴィアは俺に対してそう苦言を口にした。

 何と言うか、いじめっ子から妹を守る姉、とでも言えばわかりやすい構図になっている。まぁ、シルヴィアがテッラの容姿と状況から庇護欲を掻き立てられでもしたのだろう。

 だが言わせて欲しい。別に脅したりきつい言い方をしたわけではなくただ見ていただけだ。


「はいはい。それよりも、状況がわからないなら説明しながらでもアジト方面に向かうぞ。ここに残ってても他には何もなさそうだからな」


「それでよろしいかと。人が見つかっただけでも充分過ぎる成果ではなくて?」


「うん……確かに、無事な人がいて、それを見つけることが出来たのは上々じゃないかな?」


「そうだね!あ、でも……テッラは僕たちに同行するなんて言ってないのに、それで良いのかな?」


「私は構いませんよ。察するにこれから盗賊団のアジトに向かうんですよね?」


「その通りですわ」


「元からそのつもりでしたから。それに……」


 そこで言葉を切ってからテッラは俺を見た。


「アッシュさんは頼りになりそうですから、一緒に行動した方が良さそうです」


 そんな言葉を続けたのだからアナスタシアたちは非常に驚いていた。

 初対面で、どういう人間なのかわかっていないはずのテッラがいきなりそんなことを言ったのだから当然か。


「へぇ……頼ってくるのは良いけど、裏切ってくれるなよ?」


 そして俺もオブラートに包むことなく裏切るな、と言った。それに対してもアナスタシアたちは驚いているようだった。

 まぁ、これくらいの言葉をかけても問題ないと判断しているのでそうしただけで、それを知らない三人が驚くのも無理はない。


「大丈夫ですよ、そんな裏切るなんて、しませんから」


「そうか。だったら……約束だ。出来るか?」


 テッラの目を見て聞くと、テッラは少しだけ笑顔を浮かべてから頷いた。


「はい、約束できます」


「よし、なら盗賊団のアジトに向かおう。どういう地形になってるのかわからない状況だと攻めようがないからまずは偵察だな」


「ええ、わかりました。偵察は誰が行いますか?」


「アナスタシア、離れた場所からでも良く見えるんだったよな?」


「え、ええ……それよりも少し待ってくださいまし。裏切らないという、そんな口約束を信用しても?」


 何をするべきなのか。それをテッラと話しているとアナスタシアが信じられない。というような様子でそう口にした。

 まぁ、そうなるのもわかる。アルやシルヴィアは普通に驚いているだけのようにも見えるが、それでも信じられないというような気持ちもあるのだろう。表情を見ればわかる。


「あぁ、大丈夫だ。信用出来ないってのもわかるけど、約束したからな」


「あはは……はい、アッシュさんと約束しましたから、裏切るようなことはしませんよ」


「…………まぁ、アッシュさんがそういうのであれば構いませんわ。大丈夫と口にしながら内心では人を疑うことが出来る方ですものね」


 何処となく怒っているような、もしくは拗ねているような。そんな雰囲気を纏いながらアナスタシアは皮肉気に俺に対してそう言った。


「僕はテッラのことを信じるよ。アッシュと約束したからね」


「僕は……うん、シルヴィア様がテッラを信じるのなら、僕はアッシュを信じるよ」


「そいつはどうも。何にしても大丈夫だろ」


 楽観的とも取れる俺の言葉にアナスタシアは納得していない。

 それでも何か考えがあるのだろう、ということで見逃してもらえている状況だ。と、思う。

 まぁ、考えがあるというか、事情があるというか。何にしてもテッラのことは信用しても大丈夫なので大丈夫だとしか言いようがない。


「ほら、行くぞ。情報を集めないと動くに動けないからな」


「はぁ……わかりましたわ。では高台、もしくは場所によっては崖の上からでも見ることが出来れば上々ですわね」


「その時は見つからないようにしないとな」


 言いたいことがある、思うこともある。それでも今は切り替えなければならないということでアナスタシアは既に今後の行動について考えている。

 流石というか、やはりというか。何にしても今この場で一番頼りになるのはアナスタシアなのかもしれない。

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