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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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98.状況整理、後に休息

「アル、シルヴィア。そっちで楽しく話をするのも良いけどそろそろ本来する予定だった話がしたいんだけど、大丈夫か?」


「あ、うん。僕は大丈夫だよ、アッシュ」


「あはは……恥ずかしい姿を見せちゃったね……僕も大丈夫だから、話を聞かせて欲しいな」


「わたくしも勿論、大丈夫ですわ」


 俺の言葉にそう返した三人は先ほどまでとは違って真剣な様子で俺を見てくる。

 これならば話をしても問題ない。


「よし、それじゃさっきの続きになるけど野営地には雨が降っていて、その中にはヒュプノスローズの花びらが混ざっていた。アナスタシア、野営地の東はどうだった?」


「ちょっと待ってくださいまし……そう、ですわね……月明かりだけでしたので断言は出来ませんけれど、ヒュプノスローズがなかったような、そんな気がしますわ」


「ということは……もしかして、その雨の中のヒュプノスローズは……」


「野営地の東に群生してたっていうヒュプノスローズ?」


「その可能性が高いだろうな」


 そのことを考えると、盗賊団には当然のように俺たちがいることがばれていて、今夜の襲撃に対する準備をきっちりとやっていたことになる。

 こうなってくると完全にグィードが黒だと俺は思うのだが、シルヴィアはグィードのことを知っていて大丈夫だと言った。本当に信じて良いのだろうか。

 いや、今はそういうことを考えている余裕はない。


「それにしても、雨の中にヒュプノスローズ……となると、口を布で押さえて、というのは意味がありませんわね……」


「あぁ、花粉を吸わなくてもヒュプノスローズの蜜や花びらに触れれば眠気に襲われることになるからな。雨に溶けたのが肌に触れただけでまともに戦える状況じゃなくなったはずだ」


「だから、誰もまともな抵抗が出来ずに連れ去られた。抵抗をしていないから殺される。ということもなかった。ということかな?」


「そういうことだと思いますわ。どうにも、用意周到だった、といった風に思えてしまいますわね……」


「ギルドが募集をかけるくらいだからな。当然、相手も準備くらいしてるだろ」

 

 相手は準備くらいしている。それはわかっていたが、流石に今回は行われたことの規模が想像以上であり、対処のしようなどなかったのかもしれない。

 どうやればヒュプノスローズを混ぜた雨を降らせるなどと思うだろうか。普通は思わないし、やろうとも思いつかないのではないだろうか。


「それはわかってるけど、流石にそんなことをするとまでは誰も思わなかったんじゃないかな……」


「わたくしもアルさんと同じく、誰も想像出来ていなかったと思いますわ」


「うん……それに、その話を聞いても、実物を見ないと俄かには信じがたいよね……」


「全員ほとんど同じ感想ってことは、相手の方が上手だったってことだな……」


 やはりと言うべきか、誰一人として想像していなかったらしい。


「まぁ、とにかくそういうことがあって、全員連れ去られた。となると俺たちがするべきことは何だと思う?」


「みんなを助け出すことだよね!」


「いえ、それは最終目標の一つ、もしくは二つ手前ですわね」


「え?」


「こういう場合は……まずは野営地を調べることかな?」


「正解だ。誰か逃げることが出来た冒険者がいるなら俺たちと同じように野営地を調べに戻ってくるかもしれないからな」


「当然、そのまま逃げ帰る可能性もありますわ。ただ……」


「この状況で逃げ帰ると最悪、盗賊団の一味だと疑われるかもな。他は全滅、逃げ帰ったのは自分だけ、なんて状況だとな」


 そうした疑いをかけられるということが完全にないとは言い切れないので余程自分の命が惜しいという場合でもなければとりあえず何があったのか調べるくらいはするだろう。

 そして何があったのかをギルドに報告する。これをやるだけで盗賊団の一味だと疑われる可能性は低くなり、情報を持ち帰った優秀な冒険者。ということになる。

 成果の一つでも持って帰ることの出来ない冒険者というのは、得てして無能の烙印を押されるのだから仕方のないことではあるのだが。


「そういう場合でも成果の一つでもあれば状況は好転しますのでとりあえず調べる。ということくらいはすると思いますわ」


「そっか……なら僕たちもすぐに……じゃなくて、盗賊団の人間がいなくなってから野営地に戻る。で良いのかな?」


「でもすぐにはいなくならないと思うから、ひとまずは動けないよね……」


「つまり、お二人が落ち着くまで待ち、それから話が終わったら待機。ということになりますわね」


 二人を落ち着かせて、話が終わっても盗賊団の人間が野営地を離れるまで俺たちに出来ることは何もなく、はっきりと言ってしまえばただこの場で待機という名の休憩をするしかない。

 ただ、俺とアナスタシアは大丈夫だと断言出来るのだが、アルとシルヴィアはこのまま徹夜で野営地の調査をし、場合によっては盗賊団のアジトに潜入する。というのは厳しいと思う。

 少しでも良いので、この二人には仮眠を取らせるべきだと、俺は考えている。


「そういうわけだから、まだ調査には行けないな」


「そっか……うん、わかったよ」


「でも、それならこれからどうするんだい?」


「わたくしとしましては……とりあえず、アルさんとシルヴィア様には仮眠でも取っていただければ。と思っていますわ。アッシュさんも同じではなくて?」


 やはりというべきか、アナスタシアも俺と同じ考えだったようで二人に対してそう言った。

 それから確認を取るように俺を見たが、それに釣られるように少し驚いた様子のアルとシルヴィアまで俺を見ていた。

 大方、いきなり仮眠を取れ。と言われたことがその理由だろう。


「まぁ、同じだな。俺は多少寝なくても動けるし、たぶんアナスタシアもだと思う。でもアルとシルヴィアには厳しいんじゃないか?って思ってるからな」


「ということなので……お二人は仮眠を取ってくださいまし。周囲の警戒はわたくしとアッシュさんが行いますわ」


「え、でも、僕たちだけ休むのは……」


「良いから休め。それに自分たちだけ休むのが申し訳ないとか思うなら、今後活躍してくれればそれで良いさ」


「ええ、わたくしとしましてもお二人が万全の状態、とまではいかずとも充分に戦える状態になっていただいた方が助かりますものね」


 充分に戦える状態になってもらえれば助かる。と言っているが実際はそうなってもらわなければどうしようもない。ということがある。

 だからこそ仮眠を取ってもらおうとしている。二人が遠慮しようと関係なく、休ませることが俺とアナスタシアにとっては必要なことだと考えている。


「それなら……少しだけ、休ませてもらおうかな……」


 遠慮していたシルヴィアだったが、自身でも仮眠を取らないと動けないと判断しているのか素直に休もうかとしているようだった。

 アルも少し考えて、必要なことだと判断したのかシルヴィアと同じように休むようにという言葉に従うことにしたようだ。


「うん、わかったよ。僕も、シルヴィア様も一度仮眠を取らせてもらうね」


「あぁ、空が白む頃にでも起こすから、それまでは休んでてくれ」


「周囲の警戒はお任せくださいまし」


 そうした会話をしてから、玩具箱(トイボックス)の中から折りたたまれた毛布を二枚取り出してアルいルヴィアに渡す。


「流石に何もない地面で寝ろ、ってのは言えないからな。これでも使ってくれ」


「あ、ありがとう……」


「それは助かるけど……アッシュは色々用意してるんだね……」


「玩具箱、ですわね……確かに使い勝手の良い魔法だとは思いますけれど、アッシュさんのように多用する方には会ったことがありませんわ」


「使い勝手が良いんだから多用もするだろ。それに備えあれば憂いなし、ってな」


「まぁ、確かにそういった系統の魔法は便利ですものね……わたくしも嫌いではありませんわ」


「玩具箱……僕も覚えてみようかな……覚えられるかな?」


「シルヴィア様は魔法に対してもある程度は才能がある。と言われていますから可能かと思いますよ」


 玩具箱の評価は上々、といったところだろうか。

 それとシルヴィアは魔法の才能もあるようで、流石勇者とでもいえば良いのか何なのか。

 いや、今はそういうことを気にしている場合ではない。さっさとこの二人には休んでもらおう。


「玩具箱は覚えるのは簡単だぞ。その後のどれだけ容量を増やせるかは使い手次第だけどな」


「アッシュさんはその容量が多そうですわね……」


「散々使って来たから当然だろ。とりあえず俺は焚火を用意するから、アナスタシアは警戒しておいてくれ」


「ええ、わかりましたわ」


 焚火を起こした場合、盗賊団の人間に見つかってしまう可能性も充分に考えられる。それでも毛布一枚だけで二人の体温が下がってしまう。という方が問題だろだろう。

 そう考えて焚火の準備を進めている間に、アルとシルヴィアの二人は毛布に包まって休む体勢になっていた。


「えっと、それじゃ、おやすみなさい」


「申し訳なく思うけど……ごめん。少しでも休まないとダメそうだから、おやすみ」


「あぁ、おやすみ。休めるうちにしっかり休んでおけよ」


「ええ、おやすみなさいまし」


 言葉を交わしてからすぐにアルとシルヴィアは目を閉じた。このまま放っておけばそのうち眠りに落ちるだろう。

 アナスタシアは周囲の警戒をしているが、俺が焚火を起こせば離れて周囲の索敵に移行するつもりだと思う。

 俺も焚火の炎と煙を見て盗賊団の人間が来るかもしれないので警戒に移るつもりだ。

 本当なら焚火は敵に居場所を知らせることになるので起こすべきではないのだがアルとシルヴィアのことを考えると起こしておいた方が良いだろう。


「アナスタシア、あんまり離れすぎるなよ」


「わかっていますわ。アッシュさんこそ、その焚火を起こした後に周囲の警戒をするからとあまり離れてはいけませんわ」


「はいはい。それじゃ、頼んだぞ、アナスタシア」


「ええ、お任せくださいまし」


 どうにもアナスタシアには周囲の警戒ばかりしてもらっているが、それに対して不満はないようで少し不思議に思えてしまう。

 まぁ、単純にアルとシルヴィアとそこまで関わるつもりがない。ということなのかもしれないので俺があれこれと口にする必要はないだろう。

 何にしても空が白むまでは大人しくこの辺りで盗賊団を警戒するとしておこう。


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