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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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97.仲間外れではなく

 シルヴィアの頭を撫でながらアルの様子を窺うと、俺がそうした行動を取っているせいか何とも言い難い微妙な表情を浮かべていた。

 アルは俺のことを友人として見ているようだが、流石に第三王女であり勇者でもあるシルヴィアの頭を撫でる。という行動には思うところがあったのだろう。それでもシルヴィア本人が嬉しそうにしているので何も言えない。といったところだろうか。


「アル、言いたいことがあるみたいだな」


「え……?あ、あぁ……うん、少し、思うことがあってね……」


「まぁ……流石に王女の頭を俺みたいなろくでなしが撫でる。ってのは騎士としては見過ごせないか」


「いや、そうじゃなくて……」


 流石に不敬だと言われるか。と思ったのだがどうにもそうではないらしい。


「その……何て言うのかな……こんな状況なのに、仲が良さそうで良いなぁ……と、思ってしまって……」


「は?」


「いや、アッシュとシルヴィア様が仲良くしてくれるというのは嬉しいよ。けど、ほら、何て言えば良いのかな……僕だけ仲間外れにされたような気がして……」


 アルは一体何を言っているのだろうか。確かにこうして三人残っている状況で、俺とシルヴィアだけが話をしていたのは一人だけ仲間外れにされたように思えたのかもしれない。

 だがそれは今言うべきことではないと思う。あくまでシルヴィアを落ち着けるためにこうしているだけなのだから、それを察して黙っておいても良かったのではないだろうか。


「あ、でもシルヴィア様が落ち着けるように、というアッシュの気遣いだってことはわかっているんだよ?ただ、その、本当にどうしてそう思ったのかわからないけど、そう思えてしまって……」


「……アル、まずは落ち着け。完全に混乱してるだろ、それは」


「うっ……や、やっぱり、自分では平気なつもりでもちゃんと落ち着けていなかったのかな……」


「たぶんそうだと思うぞ。だからまずは深呼吸をしろ。流石にさっきの様子から今の状態になるのは情緒不安定過ぎて見てて怖いからな、落ち着いてから話をしよう」


 俺から見て表面上は大丈夫でも内面は落ち着けていない、といった程度だと思っていたが更に酷い様子だった。

 先ほどまではシルヴィアと同じように俺たちを巻き込めないと強く言ってきたのに、いきなり仲間外れにされたような気がして、という本人も困惑している様子を見せた。

 どうにも情緒不安定な様子なので、このままではまともに話も出来ないような気がする。だからどうにか落ち着けるように深呼吸をするように言った。

 目の前で深呼吸をするアルを見ていると、どうにも様子が普段とは違うと思ったのかシルヴィアまでもが心配そうにアルを見ていることに気づいた。もしかするとシルヴィアよりも重症なのかもしれない。


「よ、よし……少しは落ち着いて来たような気がするよ」


「本当かよ……あぁ、とりあえず言っておくけど、俺は別にアルを仲間外れにしたつもりはないからな?あくまでもシルヴィアが落ち着くようにってことで頭を撫でてやっただけで、それ以上の意味はないぞ」


「そうだよ!アッシュが僕の頭を撫でてて、くれたのは……撫でて……」


 俺の言葉に便乗するように声を挙げたシルヴィアだったが、どうしてか徐々に声が小さくなり、何があったのかと目を向けると赤くなった顔を隠すようにして蹲っていた。


「おい、いきなりどうしたんだ?」


「な、何でもないよ!?何でもないから気にしないで!!」


「いや、何でもないわけが……いや、あぁ、そういうことか……」


「本当に何でもないから気にしないで!それと今は僕を見ないでくれると助かるんだけどね!?」


「はいはい……アル、暫くシルヴィアのことは放っておこう」


「え……?ど、どうして……?」


「察してやれ」


 シルヴィアとしては、冷静に自身の状況を見ることが出来ていなかったので俺に頭を撫でられていても気にしなかったのだと思う。

 それが少し落ち着きを取り戻し、客観的にどういう状態なのかを理解した途端に恥ずかしくなったのではないだろうか。

 俺が勝手に撫でているだけ、という状況ならまだマシだったかもしれないが、自分から撫でて欲しいとおねだりをした。というのは年頃の少女には恥ずかしいものがあるだろう。

 それを理解したので暫くは放置するしかないと判断したのだが、アルはわかっていないようだった。


「察して……えっと、状況としてはシルヴィア様はアッシュに撫でられていて、そのことを自分で口にしてこの状態になったということは……あ」


 状況整理をしながらどういうことなのか、それを考えていたアルは漸く答えに行きついたようだった。


「シルヴィア様……その、えっと……あ、あまり気にせずともよろしいかと……」


「何でもないから、気にしないでくださいお願いします……!」


 アルがどうにかフォローを入れようとしているが、むしろ逆効果のように思える。

 こういう場合は本当にそっとしておいた方が良いと思う。ただ、シルヴィアのことがあったからかアルは落ち着きを取り戻しているような気がする。

 こういう方法もあるのか、と的外れなことが一瞬脳裏を過ぎったが状況が限られてしまうのでやろうと思って出来ることではないだろう。


「アル、放っておいてやれ。下手なフォローは傷口を抉るだけだぞ」


「……下手な、フォロー……うん……」


 下手なフォロー、と言われたことがショックだったのか、アルは傷ついたようにしながらシルヴィアへのフォローをやめた。

 事実としてフォローとしては下策だったのだから仕方ない。


「とりあえず……アルも落ち着いたみたいだな」


「……アッシュ、今の僕を見て落ち着いた。と判断するのはどうかと思うよ?」


「落ち着いただろ?さっきよりは、って意味だけどな」


「むっ……確かに、さっきよりは落ち着いているけど、別のことが理由で落ち込んでいるんだよね」


「そうかそうか。まぁ、事実なら仕方ないだろ」


「事実でも、もう少し遠回しな言い方とかして欲しかったなぁ」


 アナスタシアとの会話のように、とまではいかないまでも少しだけ遠慮と配慮を削った言葉を投げかけるとこのくらいならば問題ないようでアルも軽快に言葉を返してきた。

 落ち込んでいる。と言った割にはこうした会話が可能なので大したことはないのだろう。と思った。


「悪かったな、こういう性格なんだ」


「んー……そういう性格なら仕方ないのかな?」


「あぁ、どうしようもないだろ?」


「そうか……うん、それなら仕方ないね」


 お互いに意味のある言葉を交わしているわけではないが、俺としては思っていたよりも軽口を叩いても大丈夫なことに感心し、アルとしては仲間外れだとか言うほどだったのでこうした会話が出来るのは楽しいのかもしれない。

 そうした言葉を交わしている間にシルヴィアも徐々に冷静になって来たのか、時折俺とアルの様子を窺うようにしていた。

 これならばもう二人とも大丈夫だろう。そう判断して、話を進めることにした。


「よし、二人とも大丈夫だな?」


「え、あ……う、うん……だ、大丈夫だと、思います……」


「うん、アッシュと話をしていて何だか落ち着いて来た気がするよ」


 シルヴィアはまだ赤さが残っているが、それでも話をすることは出来そうだった。

 そして、アルは本当に大丈夫そうに見えた。というか、大丈夫なのだろう。先ほどまでの余裕のなさは消え、普段通りの姿を見せてくれている。

 いや、それどころか先ほどの会話が功を奏したのか、何処となく楽しそうにすら見える。

 そんなことを考えていると木々の隙間から人影が現れた。敵ということはなく、アナスタシアが戻ってきただけなのだが。


「戻りましたわ。それにしても……随分と楽しそうですわね?」


「おかえり、アナスタシア。あぁ、仲間外れにされたような気にでもなったか?」


「いえいえ。そのようなことはありませんわ」


「そうか。そういったことはないそうだぞ、アル?」


「アッシュ?ちょっとチクチクと突いてくるのはダメだと思うよ?」


「あらあら……もしやアルさんは仲間外れにされたような気がして寂しくなった。ということでして?」


「アナスタシアもアッシュに便乗しないでくれるかな!?」


「あ、アルは寂しがり屋なんだね!」


「シルヴィア様まで!?」


 俺とアナスタシアがアルを弄って遊んでいると、先ほどの下手なフォローに対する意趣返しなのかわからないがシルヴィアもそれに便乗してきた。

 そうすると焦ったように、もしくは驚いたようにアルが反応を示した。それが面白かったようで、シルヴィアはくすくすと小さく笑って、非常に楽しそうに見えた。


「ふふ……ごめんごめん。でもほら、さっき僕のことは気にしないで、って言ったのに聞いてくれなかったからね。そのお返しだよ」


「うっ……そ、それを言われると……その、先ほどは申し訳ありませんでした……」


「ううん、良いよ。ちゃーんとお返しも出来たからね!」


 自分に非がある。と思ったアルが謝ると、シルヴィアは悪戯っぽくそう返した。

 見ていて思うが、この二人は随分と仲が良いようだった。元々知り合いだったようだが、なかなかに親密な関係だったのかもしれない。


「……やはりアッシュさんに任せて正解でしたわね?」


「押し付けて、の間違いじゃないのか?」


「さて、何のことかわかりませんわ」


「そういう反応だと思った。で、周囲の警戒は?」


 軽快に、というほどではない言葉の応酬をして俺としては本題の周囲の状況を聞き出すことにした。


「特に盗賊団の人間の姿はありませんでしたわ。ただ……」


「ただ?」


「いえ、少し高いところから野営地の様子を見てみたのですけれど……随分と異様な状況でしたわ」


 今いる場所は少し高いところから見ただけで、野営地の状況が見えるような場所ではないはず。


「見えたのか?」


「ええ、わたくしはこれでも目が良くて遠くまで見えますわ。ですから充分に見えましたわ」


「そうか……」


 本当に見えたのであれば野営地を覆うようなヒュプノスローズの花びらが見えたことだろう。そして、きっと特に荒らされた形跡がない状態も。

 そして、それを見たのであればこれからする話もスムーズに進むことだろう。

 本当に、本当に漸く話さなければならないことが話せる。どう動くのか決まってはいないのでここからが大変だが、それでも今のアルとシルヴィアの状態であれば良い方向に進めることが出来るのではないか。

 そんな風に思えてくるだけ、まだ救いがある。そして、戦力としても多少は頼れそうなので、立ち回り方次第では大団円まで目指せるような気がしている。

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