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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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96.丸投げ後の対応

 俺がシルヴィアを落ち着かせようとしている間にアナスタシアが周囲を警戒しつつアルに話しかけていた。

 アルはアルで少し様子がおかしいように見えるので落ち着かせようとしてくれているのかもしれない。


「アルさん、シルヴィア様はアッシュさんに任せるとして、貴方も落ち着いた方がよろしいのではなくて?」


「……僕は落ち着いているよ」


「そうは思えませんわね。落ち着いていると自身では思っているようですけれど、状況の変化について来ることが出来ていないように思えますわ」


「そう、かな……」


「ええ、落ち着いているようには見えますわ。見えるだけ、だとは思いますけれど」


「そうか……君がそう言うのなら、そうなのかもしれないね……」


 どうにもアル本人としては落ち着いていると思っていたようだが、俺とアナスタシアには落ち着いているようには思えなかった。

 いや、表面上は非常に落ち着いているように振る舞っていたのだが纏う雰囲気や、シルヴィアを心配して自分がどうにかしなければと思い込んでいる様子は見ていて痛々しい物があった。


「とはいえ、簡単に落ち着けるようなものではないと理解していますので……アッシュさんと話をしてみるのがよろしいのではなくて?」


「は?」


「アッシュと?」


 アルが落ち着けるようにと話をしていると思ったらいきなり俺に対してキラーパスを仕掛けてきたアナスタシアに、つい短いながらも声を挙げてしまった。


「わたくしと話をするよりはアルさんも落ち着けると思いますわ」


「えっと……その、アナスタシアには失礼かもしれないけど、その可能性は確かにあるね……」


 アルとしてはまだ良く馴染めていない二人のうち、先に知り合っていた俺の方が話をしていて落ち着くことが出来る。と考えたのかもしれない。

 確かに俺の方がまだマシ、という風に考えてしまうのは仕方のないことだが、シルヴィアを落ち着かせながらアルの話し相手をする。となると流石に面倒だ。


「では、そういうことですのでどうぞ話をしてくださいまし。わたくしは周囲の警戒をしなければなりませんので少し離れさせていただきますわ」


 そう考えている間にシルヴィアはそれだけ言って一人で本当にさっさと離れて行ってしまった。本当に周囲の警戒をしてくれるのは何となくわかるが、今のアルとシルヴィアの状態を考えると完全に押し付けられたようにしか思えなかった。

 アナスタシアとしては二人の相手は面倒で、警戒に当たった方が楽だと思ったのか、もしくは本当に俺が適任だと思ったのかわからないが、俺に二人を押し付けたと言う事実は変わらないので、そのうちこのことでアナスタシアを突いて留飲を下げるとしよう。


「アッシュ……君から見ても、僕は落ち着いていないように見えるかな?」


「あー……そうだな、表面上は落ち着いてるように見える。ただ内面はそうじゃないだろ。シルヴィアがこんな状態で、状況の悪さが多少わかって、どうにかしないといけないって一人で背負い込もうとしてるんじゃないか?」


「……うん。確かにそう思ってるよ」


「はぁ……良いか、俺はお前に依頼されて何かあった際に手を貸すってことになってるだろ。勝手に一人で背負い込もうとするなよ」


「でも、僕がその話をした時に思っていたよりもずっとずっと状況が悪すぎるんだ!だからアッシュに迷惑をかけないように僕がどうにかしないといけないだろう!?」


「確かに状況は悪いけど……よし、とりあえずアルとシルヴィアはそこに座れ」


「え?ぼ、僕も……?」


「アッシュ!話を逸らさないでくれないかな!!」


「良いから座れっての。二人にとりあえず言わないといけないことがあるからな」


 困惑するシルヴィアと、話を逸らされたと思い語気を強くするアルにそういって、何とか二人を岩の上に座らせることが出来た。

 お互いに善良な人間で、他人を巻き込むわけにはいかないと思っているようだが、それについて俺の考えというか、現状での俺の思っていることを伝えて納得してもらわなければならない。


「良いか、まずは黙って話を聞けよ」


「う、うん……」


「……わかったよ」


 とはいえ、未だに困惑していたり、話を聞くことに納得していない様子だったりと、俺の思っていることを伝えたからと言って素直に納得してくれそうにはなかった。

 だが納得してもらわないと困る。主にぐだぐだとこの二人が巻き込むわけにはいかないだとか何とか言ってくるからだ。


「よし、ならまずは確認するけど二人は危険なことに俺たちを巻き込むわけにはいかない。って思ってるんだよな?」


「うん、僕の勝手な事情でアッシュとアナスタシアを危険なことに巻き込めないからね。勿論、君もだよ、アル」


「シルヴィア様!僕はシルヴィア様のお力になるためにこうしてこの場にいます!巻き込むことが出来ないなどと言わずに、僕にも協力させてください!」


「アル……」


 シルヴィアは誰も巻き込むことは出来ないと言い、アルはシルヴィアの力になるためにいるのだから協力させて欲しいと言う。まぁ、これを部外者が見れば随分と良い雰囲気になっているように見えるのかもしれない。

 ただそうした良い雰囲気のようなそれは、精神的に負担がかかった状態の人間二人が作り上げているので実際は放っておくと大変なことになるような気がした。

 まぁ、そんな気がしたがそれは置いておくとして。俺が話をするとから黙って聞けと言ったのにこの二人は何をしているのだろうか。


「おい、そろそろ話の続きをしたいんだけど良いか?」


「え、あ……ご、ごめん……」


「あぁ……うん、続けてもらっていいかな」


「話の腰をへし折った奴の言葉じゃないな……で、巻き込むわけにはいかないとか言ってるけど、俺は俺の事情があって盗賊団のアジトに潜り込まないといけない」


「盗賊団のアジトに?」


「そうだ。きっとアナスタシアもそうだろうな。だから巻き込むわけにはいかないだとか言われても俺たちは盗賊団のアジトに潜り込む。そのついでにシルヴィアに手を貸すくらいはどうってことないだろ」


「で、でも……」


「でもでもだって、何てのはやめとけ。良いかシルヴィア。お前がどう言おうと、どう思おうと、俺とアナスタシアは自分の事情に関わるから手助けをする。巻き込むだの、巻き込めないだの、そういうのはなしにしろ」


 元々俺はフローレンシア・フランチェスカの依頼を受け、フィオナとシャーリーへのお礼として盗賊団の討伐に参加している身としてはこの二人が何と言おうと盗賊団のアジトに潜り込み、目的を達成しなければならない。

 アナスタシアはアナスタシアでわざわざ俺に依頼までして潜り込んだ以上は必ず目的を達成しなければならない、と思っているので必要と判断すれば手を貸してくれるだろう。

 いや、シルヴィアに何かあった場合帝国に対しての抑止力がなくなってしまう、ということを危惧しているようだったので既に手を貸すのは必要なことだと思っているのか。

 

「アッシュ……本当に、危険な状況なんだよね?それなのに手を貸してくれるの……?」


 自分たちでどうにか出来るとは思っていなかったであろうシルヴィアは、俺が自身の事情も関わって来るので手を貸すことを伝えると、不安そうに聞いて来た。

 アルに少しだけ目を向ければ表面上は普段通りにしていたが、その瞳にはシルヴィアと同じように不安の色が見て取れた。


「あぁ、手を貸す。安心しろ、危険なことにはアルとシルヴィア以上に慣れてるからどうってことはないさ」


 それを安心させるように、もしくはしつこく同じ問いをされないために危険なことには慣れていると言い、それで良いのかわからないがシルヴィアの頭に手を乗せて軽く撫でる。

 シャロであればこれで多少なりと誤魔化されてくれるので、もしかするとシルヴィアも同じように誤魔化せるのではないか。と思っての行動だったが、どうなるだろうか。


「そ、そっか……なら、一緒に皆を助け出して欲しい。君の力を、僕に貸して欲しい」


「任せろ。シルヴィアが思ってる以上の活躍をしてやるよ」


「ふふ……うん、きっとアッシュなら本当に僕が思っている以上の、僕では出来ないような活躍をしてくれるような、そんな気がするよ」


 どうやら俺の言葉と行動によって落ち着きをある程度取り戻し、俺に力を貸して欲しいと言えるようにはなったようだった。

 そして、そう言ったシルヴィアは先ほどまでの弱々しいものではなく、何処となく安心したような、温かみのある笑みを浮かべていた。これを見る限り、シルヴィアは大丈夫そうだ。

 となれば、後はアルが落ち着いて物事を考えることが出来るようにしなければならない。アナスタシアに押し付けられたとはいえ、見過ごすことの出来ない問題なのだから。


「よし、シルヴィアはもう大丈夫だな」


「え?……ま、まだ大丈夫じゃないよ?けど、もう少し頭を撫でていてくれるなら、大丈夫になるような、そんな気がするんだけどなー…………だ、ダメ?」


 大丈夫ならもう頭を撫でる必要もない、と判断して手を放そうかと思っていると、何故かシルヴィアはまだ大丈夫ではないと言い始めた。

 そして撫で続けて欲しいという旨を伝えながら見事な上目遣いを披露してくれた。


「はぁ……もう少しだけだからな」


「うん!ありがとう、アッシュ!」


 パァッと明るい笑顔に変わるシルヴィアの頭を撫でてやるとふにゃっと表情を緩ませる姿には年相応の物を感じた。尚、今回のこれは緊急時ということで行っただけで、決して上目遣いに絆されたとか、そういうことは決してない。

 こうしてやることでシルヴィアが落ち着くのであれば、という奴だ。もしくはこの後のことをやりやすくなるように、ということでもある。


「えへへ……うん、少しずつ落ち着いて来たかもしれないね」


「はいはい。まぁ、これくらいで落ち着いてくれるならお安い御用だ。って奴かな」


 既に充分に落ち着いているのでご機嫌取りのようなものだろうか。何にしてもこれでシルヴィアは大丈夫のはずだ。

 残っているアルについては、これから何かしら手を打たなければならない。

 シルヴィアのように頭を撫でてやれば、ということはないのでちゃんと話をして、冷静さと心の余裕を取り戻してもらうほかない、と思っている。

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