夢現
四月馬鹿で夢落ちです。夢落ちです。
ピピピッ、ピピピッ、と目覚まし時計の鳴る音で目が覚める。
心地好い眠りを邪魔され、微妙に微睡みの中にいる俺は手を伸ばして目覚ましを切るために手を伸ばした。
いつものように目覚まし時計の固い感触が手に伝わる。と思っていたのだがサラサラと触り心地の良い何かの感触がした。
それが何かわからないまでも、何も考えずに手を動かしてその触り心地を堪能していた。
「ふへへ……あーもうマジ最高かよ……!」
だが聞こえてきた声に手を止める。
誰かがいたから。ということではなく、単純にその声によって自分が何を触っていたのか理解したからだ。
二度寝してしまいそうな布団の甘く柔らかな誘惑を振り切り、のろのろと声の主の姿を確認する。
「……おはよう、父さん」
「おう!おはようアッシュ!」
やはりと言うか、鍵をかけていたはずなのに父さんが部屋の中に侵入していた。
まぁ、いつものことなので大して気にせず、ぐいぐいと頭を押し付けてくる父さんを撫でる。というよりも髪の手触りを堪能する。
「あ~……やっぱり寝惚けてるアッシュは可愛いなぁ!これはヤバい本当に据え膳としか……!」
少しずつ頭がはっきりとしてくる。
すると父さんがぎらぎらとした目で俺を見ているのがわかった。ついでに言うとじりじりとベッドに横たわる俺ににじり寄って来ている。
「はぁ……馬鹿なこと言ってると母さんに怒られるぞ」
「怒られるとしても!据え膳食わぬは男の恥って言うからな!あ、でも食われるのはむしろ俺の方……いや、襲うのは俺だから美味しくいただくって意味では俺が食う方だな!」
「初めてが父さんって……」
「大丈夫、俺も後ろの初めてが息子ってことになるから!」
「大丈夫じゃないんだよなぁ……」
ため息交じりにそう返してからベッドから抜け出し、着替えを始める。
「うっひゃー!生着替えだ生着替え!!」
「うるさい。母さん呼ぶぞ」
「よーし、静かに鑑賞して脳内にアッシュの生着替えを刻み込まないとな!」
そう言って俺が着替えようとするのをガン見してくる父さんに呆れてしまうが、俺からは特に何も言わない。言う必要がない。
何故ならば音もなく父さんの背後に忍び寄る影が一つ。
「もう、降りてこないと思ったら……何してるんでしょうねぇ」
「…………あ、アッシュを見て興奮してたとかそういうことじゃないから!というか手を出してないからセーフ!セーフ!!」
「アッシュくんのお着替えをガン見してるような変態さんはアウトですよねー」
「あははー……アッシュ助けて!」
「アッシュくんはセクハラを受けた被害者なので助けてはくれないと思いますよー?」
「いや!たぶんきっとおそらく助けてくれるはず!!」
そう言って父さんは俺の背に隠れた。
母さんはニコニコと楽しそうにしながら謎の威圧感を出してそんな父さんを見ている。
「はぁ……朝から本当に元気だよな、父さんも母さんも……」
「え?それは当然だろ?最高の嫁と最高の息子がいるんだからな!!」
「あ、それはわかりますよ!私も素敵な旦那様と素敵な息子がいますからね!!」
「……あー……うん、まぁ……俺も、父さんと母さんがいてくれるから、何となくわからなくもないよ」
言っていて照れ臭いし恥ずかしいが、流れとしては俺も口にするべきだと思った。
まぁ、心の底から思っていることなので余計に気恥ずかしい。
「……やっぱりアッシュは最高の息子だな!大好きだぜ!!」
「ええ!本当に!!アッシュくんは本当に素敵な私たちの子供です!!」
そう言うや否や背中には父さんが抱き着き、正面からは母さんに抱きしめられた。
まぁ、だいたい毎日こんなことをやっているのに本当に飽きないな、と思ってしまう。
ついでに言えば、その飽きない、というのには俺も含まれているので何だかんだで悪くないと思っているのだろう。
「あー……もう本当に桜花とアッシュが家族とか最高かよぉー……!」
「そうですねぇ……白亜が旦那様、アッシュくんが息子。ええ、本当に素敵な家族です!」
そう言って父さんと母さんは狐耳をピンと立て、もふもふふさふさの尻尾をふりふりと左右に振っていた。
まぁ、昔からその尻尾をもふもふしたり抱き枕にしていたこともあるので手を伸ばしたくなるが自重しておこう。
「ところで……父さん、母さん」
「ん、どうした?」
「何かありましたから?」
「いや、学校に遅れるから着替えたいんだけど……」
その言葉を聞いて父さんと母さんは顔を見合わせ、父さんは徐々に表情が引き攣り、母さんはにっこりと笑みを浮かべた。
「はーい、白亜は下に降りますよー」
「あぁ!アッシュの生着替え!生アッシュの生着替えがぁ!!」
俊敏な動きで母さんは父さんを捕まえるとそのまま部屋の外へと出て行った。
引きずられる父さんを見送ってから着替えを再開する。
うん、まぁ。こんな日常も悪くないな、と思ってしまい小さく笑みを零す。
さて、今日も一日、きっと良い日になるだろう。そう思いながら着替えを終えて父さんと母さんがいる下の階へと降りることにした。
▽
「おーい、アッシュー?」
「アッシュくんが居眠りなんて珍しいですね……大丈夫ですか?」
二人の声を聞いてすっと目を空ける。
「……おはよう、父さん、母さん……?」
何か夢を見ていたような、と思いながら白亜と桜花の二人に言葉を返す。
「…………桜花ぁ!!」
「…………白亜!!」
するとほぼ同時にお互いの名前を呼んだ二人に驚いて、はっきりと目が覚めた。
それと同時に自分が何を言ったのかをはっきりと自覚した。
「あ、いや、悪い。寝惚けてるみたいで変なことを言ったな……」
しくじった。と思ってそう言ったのだが二人は聞いていないようだった。
「聞いたか!?アッシュが父さんって!!」
「はい!ばっちり聞きましたよ!!母さんって呼んでくれました!!」
「いや、寝惚けてただけだから……」
「これはもはや俺たちの子供ってことで良いんだよな!?」
「はい!名実ともに私たちの子供ですよ!!」
「人の話聞けよな……」
そう呆れて言葉を零すが当然のように二人には届かなかった。
とりあえずは放っておこう。どうせ暴走した二人を止めることは俺には出来ないのだから。という結論を出す。
それにしても、先ほどは何か良い夢を見ていたような気がするのだが、一体どんな夢を見ていたのだろうか。
暴走する二人のことを考えないように、現実逃避をするように先ほど見たはずの夢へと思いを馳せた。
本当に、本当に良い夢だったような、今と大して変わらないような、何とも言えない漠然とした何かした思い出せない。
まぁ、夢に囚われる必要もないので思い出せないなら思い出せないで構わないか。そう思いながら更なる暴走をしそうな二人を止めるべきか。と少し頭を痛めるのだった。
仲良し親子(違)