「妹さえいればいい。」第4話を見て、節税について調べてみた
目次
1 はじめに
2 大野先生のお言葉
3 必要経費の定義
4 再び、大野先生のお言葉を見てみる
5 参考裁決事例の場合
6 参考裁決事例のまとめ
7 まとめに変えて
1 はじめに
先日見たアニメで、税理士(大野アシュリーさんじゅうにさい:女性)が作家(20歳:男性:妹もの好き妹もの作家)から、資料について聞き取り(セクハラ)をするというシーンがありました。
日本アニメ史上、ここまで税理士が節税について生々しく語るシーンがあったでしょうか。
いや、ない。
ていうか、アニメに税理士が出てきたところ自体、見たことない。
ずいぶん踏み込んだことまで書くのだなと思いつつ、大笑いしながら見ていました。
で、「実際にそこまで経費になるものなのかな?」と、例のごとく疑問が沸きました。
まあ、仮に税理士の発言に誤りがあったとしても、「大野先生はそのように思っている(思っていることにした)」というだけの話なので、エンタメとしてはこれでOKなのですが、真に受けてマネすると痛い目に会いそうです。
そこで、「そもそも、必要経費と認められるものはどのようなものか」を調べたところ、国税不服審判所(注1)の公表裁決事例(注2)集に、参考となる事例(平13.3.30裁決:注3、注4)がありましたので読んでみました。
結論だけ読みたい方はいきなり7をお読みください。
2 大野先生のお言葉
(「妹さえいればいい。」第4話 12:45~17:50より、一部引用)
税「まあ、必要経費と認められるものをどれだけ増やせるかが、税理士の腕の見せ所なのだけど。本は当然これまでも?」
作「はい」
税「本以外はどうしてきたのかしら」
作「うーん、まあそりゃ、資料として買ったものだけを経費に」
税「そう、いい子なのね。
そんないい子ちゃんを邪悪に染めるのは私大好きなの」
作「えっ?」
税「ここに飾られているのは全部妹キャラなの?」
作「はい」
税「ふーん。だったら資料扱いで、問題なさそうね」
作「だめだっ! この子たちは純粋に俺が愛でるために買ったものだっ!」
(中略)
税「経費にすれば、還ってきたお金でまた新しい妹フィギュアが買えるわよ」
作「このフィギュア達は正真正銘の資料です。よろしくお願いします!」
税「この『お兄ちゃんのことが大好きな妹は(中略)しちゃうの』というのはどんなゲームなのかしら。」
作「おっ、お兄ちゃんのことが大好きな妹が(中略)しちゃうゲームです」
税「あなたはどんなゲームをやっているのかしら?」
作「妹レギオンです」
(中略)
作「もしかして魔石(筆者注:ソシャゲの課金)も経費になったり?」
税「そのゲームはあなたの作品に活かされているのかしら?」
作「いえ、まったく」
税「だったら活かしなさいな」
作「は?」
(中略)
税「主人公がソシャゲにはまってることにするのよ」
作「台無しだっ!」
(中略)
税「しかたないわね。ソシャゲについてはこちらで適当に理由をでっちあげておくわ」
作「それができるなら最初からやってくれ!」
3 必要経費の定義
歯科医の必要経費について争われた参考裁決事例に、必要経費ついて説明があるので、その部分をまとめます(本文は注4)。
必要経費とは、以下のものを指します。
・売上原価
・収入を得るため直接に要した費用の額
・販売費
・一般管理費
・業務について生じた費用
ところで、以下のものは原則的に必要経費になりません。
・家事費=個人の消費生活上の費用である家事上の経費
・家事関連費=家事費に関連する経費
そして、家事関連費のうち以下の場合は、例外的に、明らかにした部分を必要経費として認めています。
・主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その部分を明らかに区分できる場合
・取引の記録等に基づいて業務の遂行上直接必要であった部分が明らかにされる場合
(著者注:雑所得を除く)
4 再び、大野先生のお言葉を見てみる
税「まあ、必要経費と認められるものをどれだけ増やせるかが、税理士の腕の見せ所なのだけど。
本は当然これまでも?」
作「はい」
税「本以外はどうしてきたのかしら」
作「うーん、まあそりゃ、資料として買ったものだけを経費に」
税「そう、いい子なのね。
そんないい子ちゃんを邪悪に染めるのは私大好きなの」
作「えっ?」
作家は、資料として買ったもの(業務の遂行上直接必要なもの?)のみを経費にしていました。
税理士は、グレー部分を経費にできることを仄めかしています。
税「ここに飾られているのは全部妹キャラなの?」
作「はい」
税「ふーん。だったら資料扱いで、問題なさそうね」
作「だめだっ! この子たちは純粋に俺が愛でるために買ったものだっ!」
作家は、フィギュアを私的なもの(家事費)として購入したと説明しています。
税「経費にすれば、還ってきたお金でまた新しい妹フィギュアが買えるわよ」
作「このフィギュア達は正真正銘の資料です。よろしくお願いします!」
作家が邪悪に染まりました。
税「この『お兄ちゃんのことが大好きな妹は(中略)しちゃうの』というのはどんなゲームなのかしら。」
作「おっ、お兄ちゃんのことが大好きな妹が(中略)しちゃうゲームです」
「妹もの=資料」とする方針を作家が了承したので、関連性の確認をしています。
税「あなたはどんなゲームをやっているのかしら?」
作「妹レギオンです」
(中略)
作「もしかして魔石も経費になったり?」
税「そのゲームはあなたの作品に活かされているのかしら?」
作「いえ、まったく」
税「だったら活かしなさいな」
作「は?」
(中略)
税「主人公がソシャゲにはまってることにするのよ」
作「台無しだっ!」
(中略)
税「しかたないわね。ソシャゲについてはこちらで適当に理由をでっちあげておくわ」
作「それができるなら最初からやってくれ!」
流石に、妹もののソシャゲ課金を、いきなり資料だとするのは難しいと判断したようです。
以上をまとめると、大野税理士は、フィギュアやゲーム、ソシャゲの課金を「業務の遂行上直接必要なもの」または「業務の遂行上直接必要であった部分が明らかにされた部分」だと主張するようです。
5 参考裁決事例の場合
続いて、参考事例で争った歯科医の支払いについての、審判所の判断をまとめます。
長いので、面倒な方は6へ進んでください。
A 同窓会の会費
事実認定
・同窓会の活動目的は、歯科医学等の向上、会員相互間の連絡及び情報交換、福祉厚生
・同窓会の活動が請求人の業務に直接関係するものに限定されていると認めることはできない
・同窓生としての私的な立場で入会しているものと認めるのが相当
判定
・会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない
・主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできない
・よって、必要経費に算入することはできない。
B 共済負担金
事実認定
・福祉共済年金制度の趣旨に基づいて各医師会が徴収しているもの
・火災共済に係る共済負担金(必要経費の額)と死亡共済等負担金(家事費)の額とに明らかに区分することはできない
判定
・共済負担金は家事関連費であると認められるが、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできない
・よって、必要経費に算入することはできない。
C 連盟会費(歯科医師政治連盟)
事実認定
・連盟会費は、政党又は公職の候補者の後援のためのもの
判定
・連盟会費を支払うことにより、保険制度の改正等の情報の入手ができるとしても、その会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない
・仮に家事関連費であるとしても、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできない
・よって、必要経費に算入することはできない。
D 英会話研修費
判定
・英会話能力の保持のために継続して研修を受けることが歯科診療の業務の遂行上不可欠なものとまでは認められない
・外国人患者の来院や問い合わせにいつでも対応できるよう、長期に渡り継続して研修を受け、英会話能力を保持しておく必要があるということだけでは、請求人の歯科診療の業務の遂行上直接必要な費用とはいいがたい。
・医療知識を修得するために海外における学会のビデオを購入し、それを講師と共に視聴して教授を受けることや海外の学会における活動のために自己の発表する原稿の英文表現の内容等のチェックを受けることは、請求人の業務の遂行上の必要があるとみることはできるが、英会話研修費のすべてが所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない。
・また、英会話研修費が家事関連費であるとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできない
よって、必要経費に算入することはできない。
E 研修費
事実認定
・研修の内容については記憶に残っていない
・パンフレット等の資料も手元にない
・領収証以外に証拠資料の提出がない
・研修の事実の有無を含めて支出の内容が明らかにならない
判定
・領収証の摘要欄の記載のみをもって、当該支出が、請求人の業務に直接関係する研修に要した費用に関する支出と認めることはできない。
F 接待交際費等
事実認定
・同窓会主催のサイパン旅行の費用
・参加者は請求人及び請求人の妻で、他の従業員等は同行していない
・旅行日程の中に歯科診療業務等に関係した研究会や勉強会等の実施は含まれていない
判定
・旅行の際に請求人の業務に何らかの利益をもたらす情報を得られたとしても、当該旅行に参加することが、請求人の業務の遂行上直接必要なものとは認められない
・仮に、当該旅行に係る費用が家事関連費に該当するとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるとはいえず、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできない
・よって、必要経費の額に算入することはできない。
6 参考裁決事例のまとめ
国税不服審判所は、同窓会費、研修費、同業者との旅費等について、「業務の遂行上直接必要なものとは認められない」、「家事関連費であるとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできない」と判断しています。
7 まとめに変えて
必要経費として認められるものは、「業務の遂行上直接必要なもの」か、「業務の遂行上直接必要な部分」です。
大野先生はフィギュアやガチャが「業務の遂行上直接必要なもの」か、「業務の遂行上直接必要な部分」だと考えることにしたようです。
一方、裁決事例(上記6)では、歯科医の場合、同窓会や英会話研修程度では、「業務の遂行上直接必要なもの」はなく、「業務の遂行上直接必要な部分」は明確化されていないと判断されています。
また、チャットレディの事例(注5)ではパソコン・衣服・写真・家具・化粧品・健康食品・ダイエット用品の支出が、弁護士の判例(注6)では弁護士会の会合の二次会費用が、必要経費として認められていません。
世の中には、年間で数百万円、数千万円単位で課金している廃課金兵の方もいます。
ジャンルが一致していれば、作中でコメントしていれば「業務の遂行上直接必要」と言えるのか、判断する参考にしていただければと思います。
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(注1)国税不服審判所とは
「国税の賦課徴収を行う税務署や国税局などの執行機関から分離された別個の機関として、国税に関する法律に基づく処分に係る審査請求について裁決を行い、納税者の正当な権利利益の救済を図る機関」(審判所の概要http://www.kfs.go.jp/introduction/より一部引用)。
(注2)公表裁決事例とは
国税不服審判所が公開している、「納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資するとの観点から、先例となるような裁決」のこと(公表裁決事例集http://www.kfs.go.jp/service/index.htmlより一部抜粋)。
(注3)参考事例の概要
請求人(筆者中:納税者)が支出した諸会費等が家事関連費に該当するとしても、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができないから、必要経費の額に算入することはできないとした事例
請求人は、同人が支出した諸会費等(同窓会費、共済負担金、英会話研修費、旅費交通費、同窓会主催旅行の参加費用等)は、請求人の業務の遂行上必要な経費であるから、必要経費の額に算入すべきである旨主張する。
しかしながら、支出した経費が、業務の遂行上直接必要である場合はもちろんのこと、それが家事関連費であっても、[1]その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合、及び[2]青色申告であれば取引の記録等に基づき業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができる場合に、それぞれその明らかな部分を必要経費に算入することができることとされているところ、請求人の主張する諸会費等はいずれも家事費又は家事関連費と認められ、家事関連費に該当するとしても、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることはできないから、これを必要経費の額に算入することはできない。
(http://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0403130000.htmlより一部引用)
(注4) 必要経費の額について(本文一部抜粋)
所得税法第37条第1項は、事業所得等の金額の計算上必要経費に算入すべき金額を、当該所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定し、同法第45条第1項第1号において、個人の消費生活上の費用である家事上の経費(以下「家事費」という。)及びこれに関連する経費(以下「家事関連費」という。)は、原則として、必要経費に算入することはできない旨規定している。
そして、所得税法施行令第96条《家事関連費》は、家事関連費のうち、〔1〕その主たる部分が所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合、また、〔2〕青色申告者については、〔1〕のほか取引の記録等に基づいて所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分がある場合には、それらの部分は必要経費とされない家事関連費から除く旨規定している。
そうすると、支出した経費が、業務の遂行上直接必要である場合はもちろんのこと、それが家事関連費であっても、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合、及び青色申告者であれば取引の記録等に基づき業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができる場合は、その部分を必要経費の額に算入することができることとなる。
(平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 129頁《裁決書(抄)》「3 判断 ロ 必要経費の額について (ロ)」http://www.kfs.go.jp/service/JP/61/12/index.htmlより引用)
(注5)チャットレディ(平成26年5月22日裁決http://www.kfs.go.jp/service/JP/95/06/index.html)
(注6)弁護士会での懇親会の一部が経費として認められた事例(東京高裁平成24年9月19日判決)
こんな税理士先生のいる事務所で働きたいだけの人生だった。
あと、税理士業界で32歳って超若手。
平均年齢60歳とかいう業界なので(OB税理士が押し上げてる)。
全然BBAとかじゃないからな!