嘘つきな赤ちゃん天使
『菜須さん、けんた君の検査結果を看護記録で確認して』
指導看護師から指示が出ました。言われた通り看護記録に目を通す。横に外泊許可「不可」の文字。
お家に帰りたかったんだ。と何気なく見た生年月日。あっ、お誕生日だ。
誕生日に合わせて外泊許可の申請をしていた様子。きっと「検査結果」が良かったら、お家でお誕生日をお祝いしてもらいたかったんだろう。と思うと悲しい気持ちになりました。
どうして指導看護師は担当でもない、けんた君の看護記録を見なさいと言ったのか正直言うと謎でした。看護学生は、その日自分の担当する患者様の看護記録を見て把握する事はあっても、担当外の患者様の看護記録は見ることも触ることもしないからです。
きっと私の顔に出ていたんでしょう。指導看護師さんが
『何か、不思議そうな表情ね。担当外だもんね。理由は直ぐにわかるわよ』
そう教えられました。答えは教えてもらえませんでした。臨床でしか味わえない感覚と実践。教科書通りにいかない臨床現場。看護学生にとってインターンシップは臨地実習とは違った、別のことを学べる大切な機会でした。
指導看護師の謎の指示の答えを直ぐに知る事になりました。
ナースステーションを出て各病室をラウンド(見回り)してくるように言われました。各病室を見渡し声をかけたりかけられたりしました。指導看護師は、私の少し後ろから様子を見守って下さっています。(何か困った事があっても頼れるから私は嫌いではない。人によっては緊張すると言う人も居るようです)
『新しい看護師さんだぁ』
『看護師さん 誰の担当なの?』
『明日も来る?』
等と質問や言葉がけにも必ず返事をしているけど、この病室だけに居るわけにはいかないので、うまく切り上げる術を身に付けさせて下さっているんだと思い、その思いに応えるべく頑張る看護学生よつ葉。
ある病室をラウンド中に
『ねぇねぇ看護師さん! ボクお家に帰れる?』
と質問を受けました。ネームプレートで名前と主治医を確認する。あっ、けんた君だぁ。後ろを振り返ると指導看護師が私を厳しく見ているのが見てとれました。私が伝える事ではない。と思いましたので、けんた君には
『けんた君、おはよう。朝の回診の時に主治医の先生に確認してみようね』
と伝えました。けんた君は、回診いつ?もうすぐ? と外泊許可の事を聞きたくて仕方ない様子に申し訳ない気持ちになる。心の中で「ごめんね」と呟きました。
こうして色々学んで看護師になっていく看護学生。
患者様に嘘をついたよつ葉。
指導看護師さんに
『あの病室に行ったら聞かれるだろうなぁ……って思っていたの。菜須さんがどう対処するのか見たかったのよ。完璧でした。以前に担当した学生は、自分で話してしまったり、あからさまな嘘をついたりと目に余る行動をする事が多い中で菜須さん、あなたは患者さんに嘘をつくこともなく知っていることも顔に出さず回診で主治医に聞こうと説得したことは素晴らしいこと。自分の行動に自信を持って望みなさい。しっかりフォローするから』
と言って下さいました。前回小児外科病棟で失敗しているだけに嬉しかったです。
臨床でたくさんの事を学ばせていただきました。この経験を応用臨地実習で活かしていきたいと思います。