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5件目:使えるものは使わなきゃ持ち腐れです

 風呂場で貞操と尊厳と人生とノンケとしての危機をどうにか回避してから半年…。

立ち直ったマイスはギルドランクをメキョメキョ上げていき、

アイタリエ王国では事実上最高である金枠+緑白赤三色トリコロール評価となった。

全世界のギルドでの評価最高クラスは金枠からになるので、その点を踏まえると

若干16歳で金枠なんてのはやはりチートだと思う。ちなみに本当の意味での

ギルドランクの最高位には光翼金剛晶というモノがあるが、あれは文字通り

単独ないし極少数で魔物大氾濫みたいな災厄を退けた人外どもにしか出ない。

まぁマイスならフツーにもらいそうで怖いけど。


「ふひゃぁ…マイス凄ぉ…!」

「金枠でも衝撃的なのに…!」

「国王陛下から送られる緑白赤三色とかマジキチ」

「そ、それは褒め言葉なんだよねセラムちゃん…?」

「………」


 マイスが一歩進むと二歩下がって俺の後ろに隠れるセラム。

気持ちは分かる(?)が止めて差し上げろ(悦)(外道注意)


「いやはや…将来のアイタリエ王国大将軍を見る日も近いかもしれませんな」

「あ、どうも…」


 チッタ支部の小太りなギルドマスターが何となく揉み手である。


「できることなら我が支部専属金枠ランカーとして

活動していただきたいものですが…若い才能を飼い殺すなどできませんな」


 いぶし銀な片眼鏡のサブマスターがあとに続く。


「恐縮です…」


 わかっちゃいるんだが何か面白くないです。


「気がつけばもう7万Irlaを超えたな」

「うん! この調子なら来年には王都も夢じゃないよルシオ!」


 マイスが一歩近づけば俺は三歩下がった。


「ル…ルシオ…?」

「すまぬ、なんか…つい…」


「ふー…! ふぅぅー…!」


「あ、アリア…?」

「あら? 何でしょうかルティナさん?」

「え、ちょ…え…? 気のせいかしら…?」

「フフフ…オカシナえりるサン…」


 何も言わずセラムが俺にしがみついた。ダメっすわ。もう完全に手遅れっすわ。

無機質さんもう偽ぇロース殺っちゃっていいです。っていうかおながいします。


「ともすれば…マイサロン殿なら良いかもしれませんな」

「何の話ですか?」


 先の揉み手じみた動きから一転して真剣な顔つきになったギルマスに

俺も少し戦慄しそうになった。まぁしょうがないと割り切れたけど。


「我がギルドでも数えるしかいない金枠三色評価のマイサロン殿にお願いします。

どうか我がギルドのⅩ級恒久討伐クエストを受注していただけませんか?」


> > >


 普通恒久討伐クエストなんてのはGDSがほぼ専属なゴブリン探し殺しを含めた

放置すると大繁殖しちゃうような間引き系が普通なのだが…

この世界でそいつらだけが栄えてるわけも無いので、基本塩漬けになるが

決して出されないままなんてのが無い恒久討伐クエストってのも少なからずある。


「しかし、ワイバーンか…」

「銀枠評価なあたしやルティナにセラムならまだしも…単独評価は銅枠な

アリアやルシオには危険なんじゃないの?」

「…エリルの言いたいことはわかるよ。でも、僕らが王都に行くのを

少しでも早めるならパーティで受けなきゃいけないクエストなんだ。

それは理解してほしい…」

「あ、あたしがマイスに反対するわけ無いじゃん!!」

「そうだぞマイサロン! それは絶対に絶対だ!!」

「他ならぬマイス兄の為ですから…私も同意見です!」

「ありがとう。エリル、ルティナ、アリア…僕は幸せ者だ」

「「「ッ!!」」」


 マイス は すてきなほほえみ を くりだした!


 エリルは顔を真っ赤にして嬉しそうに震えている!


 ルティナは「はわわわわ!」と真っ赤になって嬉しそうに震えている!


 アリアは瞳を潤ませ、頬を染めてマイスに魅とれている!!


「「…」」


 セラム は すごく どうでもよさそうだ…。


 ルショーノ は めが しんでいる…。


 おれも がんめんチート が ほしいです…。


「ルシオ。おなかすいた」

「そうだな。そろそろ昼飯でも食おうか?」


「!? そうだね…目的地に着いたら暇もなくなるだろうし…

…皆もそれで良いかい?」


「もちろん!」

「英気を養ってこそ一流だ!」

「マイス兄のお弁当は人生に必要ですから!」


 あ、反吐が出そうなんだけど。ここはセラムの顔を見て癒されよう。


「何? どしたのルシオ?」

「いや、特に意味はない」

「そう…?」


「…」


 見てないがマイスが何か感情をチラリと俺に向けてきた気がする。

このロリコンめ…! え? 俺? 称号を見ろよわかるだろ?

俺はロリ"も"好きなんだお!! 言わせんな恥ずか死(にた)い!!!


「…魔法の道具袋でもあれば良かったんだが…」

「ハハハ…確かにそうかもね? まぁ、あれを買ってたら

100Irlaも残らないだろうからもう少し我慢してくれルシオ」


 俺にはそういう系のチートはつかなかった。

まぁチッタでまったり生きる分には正直無用の長物だったので…。


> > >


 そんな感じで談笑しつつ昼飯を済ませ、いよいよ俺達はギルドで受けた

「ワイバーン間引き」の依頼を本格的にこなすこととなる。

場所はチッタの隣町からさらに西へ行ったヴェスピオ火山である。

火山といってもここ三百年は何の音沙汰も無いどころか煙すらほとんど

観測されることの無い休火山である。だが、その休火山状態なのが問題なのだ。

活発的な火山に好んで住もうとする生き物は魔物でもまずいない。

しかし休火山だけは別だ。休火山とて火口の先は煮えたぎるマグマであり、

それゆえに山の地熱は高い。そしてそのような状態の場所を好む魔物は結構いる。

その筆頭なのがワイバーンなのだ。こいつらはその休火山の地熱を利用して

自らの力を高めたり繁殖に生かしてくる。ワイバーンが住み着いた山は

山は当然として周辺の魔物が激減するので一概に悪いとは言えないが…

だからといって放置しては先のゴブリン大繁殖に匹敵する状態になる。

ワイバーンが沢山子を増やせば当然親子共々大量の餌が必要なのだから。

今更なので蛇足かもしれないが、ワイバーンの危険度はⅦ超えであり、

討伐には銀枠以上のパーティかクランが必要だ。ちなみに俺たちのパーティは

マイスとエリルウィンダルティア、ルティナ、セラムの金枠一人、

銀枠三人がいるので俺とアリアの銅枠評価を差し引いても立派な銀枠パーティだ。

ギルドからの依頼は一体以上のワイバーン討伐なので、当然実行不可能ではない。


「中腹までは闇黒大熊オルソディスクロ深森大狼アルベロマレルポ…六合目からは大狂乱土蜘蛛キーィンヴィタランテラ複合死霊ヒュージレイス

そして八合目からは……目標のワイバーンの不意打ちに気をつけるんだ…」


 名前からして俺が一人なら1400%くらいで死ねそうな異名ネームドクラスの

モンスターが出てくる出てくる出まくる出すぎだ馬鹿…こんなの糞雑魚ルショーノ如きは

やっさいもっさいおっさおっさ(そこ退け×2、おお、そうだよ×2)である。


「調子に乗ってごめんなさいっ…!」

「弱気になるなエリル…! 私たちにはマイスがいる!!」

「ああ…! 危ない魔物は僕に任せて、皆は警戒に集中してくれ…!!」


 これまでの討伐なら俺とアリア以外の三人も余裕があったりしたが、

今回はその比じゃない。何しろ先ほど挙げられた魔物は全てが危険度Ⅵ超…。

銀枠パーティでも苦戦するクラスの魔物だ。そしてそんな魔物を意に返さないのが

このヴェスピオ火山の生態系ピラミッドの頂点に君臨するワイバーンなのだ。


「……不安。それだけの魔物の気配が探知できない…」

「……うむ…これは油断できんな」


 超おうちかえりたい。だって斥候職なはず弓士の俺より普通に斥候Lv高い

魔術師のセラムがそんなこと言うんだぜ? 何このハードモード。


「少しでも異常異変を感じたら迷わず僕に言ってくれセラムちゃん!」

「言われるまでも無い……ルシオ? どう? 何か感じる?」


 そう言って俺に若干引っ付くセラム。状況が状況じゃなければ

背丈と顔以外は相応以上に発育したその幸せな感触を堪能すr集中しろバカ!!


「………く、空気は間違いなくおかしい…虫の声すらしない」

「マイス。いつでもあの必殺剣(瞬獄一刀)出せるようにしといて」

「任せてくれ!」


 マイスの気合が凄まじいな。それがどんな理由からなのかは今だけは目を瞑る。

だって今に限ってはそんな馬鹿な感情で死にたくないもん。


「……な、何か臭わないか…?」

「何かって何よルティナ?!」

「…言われてみれば薄ら生臭い…………ッ!? 来るぞ!!」

「「「「「!!」」」」」


 薄ら生臭い…鮮血の香りだ…! これは端くれとはいえ山師の勘を信じた

俺の判断が功を奏した。


「ッルルルルルルルオオオオオオオオオン!!」

「「「「「「!!」」」」」」


 俺たちの目の前に、異様に高い叫びとともに件のワイバーンが降りてきた!

口からは分かりやすい涎と、ほんの少しばかり血が垂れていた。

多分軽く…それこそ腹の足しにならないレベルで魔物を食ったのだろう。

だが、それは最悪だと思う。真面目に飢餓状態なら判断力も鈍るが、

ほんの少し腹にモノが入ってるから苛立ちこそあれど冷静そうだった。

「こいつぁちょうどいいオヤツだな」とでも言いた気なワイバーンは

デロリと舌なめずりをして俺たちの様子を伺う。


「僕の大切な人達に手出しはさせないッ!! 瞬獄一刀ぉッ!!」

「GYYYYYAAAAAAAAAAAAッ!?」


 マイスの固有スキル、剣から魔力を初めとした巨大エネルギーの刃を放つ

瞬獄一刀が繰り出される。その一撃は確かにワイバーンに命中し、

その命を即座に奪うと思われた…が。


「Gyoooooooooooo!!」

「くっ!? 直撃してない!?」


 いかにチートなマイスの攻撃とて、ちゃんと当たらなければ意味は無いのだ。

失念していたが、マイスは俺と違って前世の記憶は持ってない。

故にワイバーンとの戦い方なんて知るはずも無いのだ。すなわちそれは俺が

聞いていた以上のワイバーンの機動力を痛感させられた瞬間でもある。

確かにマイスの必殺剣は命中したが、それはヤツの片翼を切断したに過ぎない。


「セラム!!」

「"古の力、我らの敵の猛威猛攻を防ぎは魔道の神の御力みちからにて!

其は守護の防壁! 彼の敵の凶器にて爪と牙を阻まん!! 大魔導障壁(グランデムーラギュラ)!"」


 激怒するワイバーンがグワン! と体を大きく反らす…

…恐らくブレス攻撃と判断した俺はセラムの名を叫ぶ。

セラムは高速詠唱を以って俺達の前に分厚そうな魔力の防壁を出現させる。


「バオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 タイミングはギリギリだった。ワイバーンが体を反らしてから

即座に胸が大きく膨らみ、けたたましい叫びとともに緑色の火炎ブレス攻撃。

ちょろっと火がこちらに飛んだかどうかという頃にそのブレスは防がれた。


「ん……くぅぅ…!」

「今度はし損じない!! うおおおおおおおおおおおおッ!!」


 ブレスの勢いが落ちたところを見計らってマイスはワイバーンの横に回る。


「ゴァッ!?」


 ブレスを完全に吐ききった後なら対応もできたろうが、やはり自分の喉を

焼いてしまうのは生物ゆえか、ワイバーンがビクリとした時に全てが決していた。


「うるぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

「ギャぼッ――!?


 鬼の形相のマイスが繰り出した瞬獄一刀はワイバーンの半身を

綺麗に切り取ったように吹き飛ばした。


 ったく…やっぱりお前が主人公だぜ。マイス。


「やったねマイス!! でも怪我とかしてない…?」

「流石はマイサロンだ! 私の出番なんて無かった!」

「セラムさん…魔力譲渡マナプールを施しますね…?」

「ん…ありがとアリア」


 マイスは剣の構えこそ緩めたが、周辺の警戒は忘れない。無論俺もだ。

マイスは確かにチートステータスだが、未だに俺みたいに

感知系のスキルは持ってない。まぁ必要ないせいもあるが…とはいえそのおかげで

俺も微力ながら活躍できる…まさかお前はこれを見越してたりしてないよな?


「……はぁ、それにしてもマイサロンが居なかったら

とてもじゃないが無理な話だったな…」

「ルティナ…怖い思いをさせてごめんよ…」

「気にするなマイサロン!! お前のお陰で私はまた新しい目標が出来たんだ!」

「…そうねっ! いつかマイスの隣に立つためにも…!」

「ん?」

「あ?」


 はいそこそういうの後にしましょうねー?


「セラム。もういいのか?」

「これ以上はアリアが干上がる」

「……はひぃ~…」

「…少しは加減してやれ」


 いくら何でも貰いすぎだろ…ただでさえパーティ中は一番体力低いんだから…。

普通に倒れそうじゃねぇか…あーもーこれ俺が背負ってやらにゃダメじゃん…。


「……うん。何はともあれ討伐部位を取って下山してしまおう」

「異議なし。というかアリアを背負ってやらねばまずいレベルだ」

「すみませんルシオ…」

「気にするな」


 俺としてはいろんな意味でオイシイからな(この外道!)


> > >


 そういうわけで俺達は取るものを取ったら遭遇も避けられる限り避けて

さっさとヴェスピオ火山を下山していく。


「…北東側に熊、西に狼郡」

「…ワイバーンが死んだらこれか…全く…逞しいな」

「となると…すこし東に回り道しないとダメだね」


 ガッツリとアリアから魔力を譲渡されたセラムが斥候能力に感知魔法も駆使して

周辺を索敵し、マイスがすばやく進行方向を定める。普段は(主に一方的に)

セラムがマイスを避けるが、戦いのときの二人は相性がいい。

それは年甲斐も無く妬けるほどだ。まぁゴブリン相手まらそこに俺も加わるが。


「一体くらいなら私の魔法剣の錆だが…」

「大丈夫よ、三体までならあたしとルティナだけでも殺せるわ!」

「とか言って調子に乗ってジャンプスピアーはやめてくれよ?」

「舐めないでよ!!」

「最後まで油断しないでくれ二人とも…」

「わかってるわマイス! ほらぁ! 怒られちゃったじゃん!」

「言われるまでも無いさ!! というかマイスは怒ったわけじゃないだろう!?」


 気合は十分だな。俺としてはこのまま下山してアリアとセラムを

しっかり休ませてやりたいのだが。


「?! 伏せて!!」


 セラムの言葉に俺達はその通りにする。


―…ルオオオオ…!…―


 間違いなくさっきのワイバーンの仲間だ…。虫の声さえ消えたのがそれを示す。


「………音量からして遠いようだな…」

「でも魔力漲ってた…だからすぐ感知できた。さっきみたいだったら危なかった」

「…運が良かったといえるわけだね?」

「調子には乗っちゃダメね…」

「…私も同意しよう」

「すぅ…すやぁ…すぴぃ…」

「「「「「………」」」」」


 魔力を大分持ってかれたせいかアリアは俺の背中で寝たままだった。

だが、それが他の皆の緊張をほどよく解してくれたようだ。


「本当に危なければアリアも勘が良い方だからね? 飛び起きるよ?」

「チッ…否定できない」

「セラムw舌を打つな舌をw」

「あんたも顔がニヤけてるわよルティナ?w」

「お前こそw」


 …ったく、この女子どもは…! まぁ、一名セラムを除いてライバルだからな。

無理も無いかこの思春期どもめ。


> > >


 とまぁ、そういうわけで俺達は以降随分と静かになったヴェスピオ火山を

無事下山し、後は近くの町で酒でも引っ掛けるだけとなった。


「報奨金が報奨金だったから…つい三体くらい倒せるかと思ったんだけど…」

「マイス甘すぎ。下手したら全滅。やはり所詮マイスか…ハァ…」

「ぐはッ!?」


 セラムさんや、言いすぎ。だがGJ。許されるなら抱きしめてキスしたい。

……………いかんいかん。微妙に疲れてるせいかムクムクしちゃうぜ(下品注意)


「あのさーセラム…? あえて聞かなかったけどマイスの何が気に入らないの?」

「全部」

「即答ッ!? 迷いが無さ過ぎて逆に感心してしまったぞ!?」


 俺、やっぱりセラムが大好きだ。超結婚したいわ。

アリアを背負ってなかったら今すぐ抱きしめてるもの…って肩がめっちゃ痛い!?


「ちょっと流石に聞き捨てならないです…!」

「おはアリア、起きたならルシオの背中わたしのしていせきから降りて? ルシオも疲れてる」

「あ、おはですそれは失礼しまs…って流されませんよ?!」


 ぬををををッ!? いくらレベルが上がってるからってこの握力は

普通の女子のモノとは思えないんですがッ!?


「ルシオ。大丈夫?」

「え? あ…いや、俺は…」

「さり気無く無視するのやめてもらえませんかね…?」


 痛でででででででッ!? ちょ、首の近くは流石に我慢できないから…!?


「全部って何ですか全部って!? 貴方にマイス兄の何が分かるんです!?」

「分かりたくも無いから全部と答えた、何が悪いの?」


 ちょ…!? 待って待ってお嬢さん方ぁ?! おい何してんだ貴公子マイスゴルァ?!


「母さん…カナ姉ぇ…リリン…全部って…全部って…?」


 …ってまだ何処かに飛んでんのかーいッ!? そんなにセラムに断じられた事が

心底ショックだったのかこのロリコン野郎ッ!? 気持ちは痛いほどわかるがッ!

今は立て! 立つんだ勇者マイサロンッ!


「それこそ全部ですッ!! マイス兄を全否定とか頭おかしいんですか!?」

「ぬをぉ!?」


 何で俺の首に手を回すのぉ!? 死ぬって?! 俺死ぬってばよ!?

厳密に言えば後頭部に天国むにぽよと首に地獄ギリギリがぁぁぁぁぁぁぁ!?


「そう、私は頭おかしいの。戦ってるとき以外のマイスは全部嫌い」


「ぐっはぁッ!?」

「ま、マイスッ!?」

「どうしたんだマイサロン!? や、やっぱりさっきのワイバーン戦で…?!」


 崩れ落ちるマイスを他所に俺から降りたアリアはセラムと舌戦をやめない。


「総受けから下克上とオールラウンダーで戦えるマイス兄は

全てにおいて最高なのにそれを全否定とか貴方の頭の中はどうなってんですか!」

「だから認めた。私は頭がおかしいって。ところでどいてくれない?

ルシオが辛そうなの」

「なっ!? 待ってください話は終わってま………ッ!!」


 アリアの絶句は無視されたことが原因じゃなかった。何故ならアリアは

ふと空を見上げた拍子に絶句したのだ。


「そんな…どうして…?」

「? ……ッ!?」

「…!」


 ゾワリとした虫の知らせが俺もアリアの様子から空を見て知った。


「「「ルルルルルルルルルルルルオオオオオオオオオオオン!!!」」」


「…嘘でしょッ!?」

「何でワイバーンが群れで…!?」

「皆…ッ! 逃げ…!」


 あの状況と落ち込みから即座に立ち直れたマイスは流石だと思ったが、

色々と遅かった。


「ブルァオオオオオオオオオオオオ!!」


 空を滑空していたワイバーンの群れの一体が、今度は空中から電撃ブレスを

ブチかましてきたのだ。


「「「「「うわぁあぁぁぁぁあぁ!!」」」」」


 位置的に俺は皆から少し離れていたため、俺は直撃を避けたが…。


「嘘だろ…!?」


 俺以外のメンバーはその電撃ブレスで全員動かない…。


「う…うぅ…」


 いや、まだだ…マイスは立ち上がったし、他の皆もどうにか動いている…!


「ルシオ…! 逃げろ…! 逃げてくれッ!!」

「ばっ…!? 馬鹿を言うなマイスッ!?」

「時間は稼ぐ…! だから無事な君が人里へ…! 助けを…!」


「「「ルルルルルルオオオオオオン!!」」」


 そのやりとりさえ無駄だというのは十は超えてるだろうワイバーンが

次々に地上に降りてきたからだ。


「ルルルルルルルルルルゥゥゥゥン!!!」

「バオオオオオン!!」

「ブルゥアアアア!!」


「やらせないッ!」


 ワイバーンの数体がまだ満足に動けない女子達を食らおうと動き、

マイスがそれをどうにか阻んでいる。でも、それがどうなるかを

俺は見届けられるかは定かではない。


「ルルルルルウウウウン!!!」


 何故なら俺の前にも当然ワイバーンがいるのだ。


<Maisuron Side>


 最悪だ! 最悪だ! 早く帰ろうなんて言わなければ…!

ヴェスピオ火山はワイバーンの巣窟なんだ! 単独なんて"はぐれ"だけだ!!

皆を……セラムをちょっとでも安心させたい気持ちが裏目に出るなんてッ!


「ルルルルルルルルルルゥゥゥゥン!!!」

「バオオオオオン!!」

「ブルゥアアアア!!」


「やらせないッ!」


 僕は全神経を集中させる! 活路を開かなければ!! 僕はどうなってもいい!

でも! セラムを! ルシオを! そしてアリア達を生きて返すためにも!

こんな所でッ!! こんな所で負けるわけにはいかないッ!!


「ルルルルルウウウウン!!!」


 数が多すぎ……ルシオッ!? くそぉッ!! 距離が開きすぎているッ!!


「あああああああああッ!!!」


 僕は反動も気にせず瞬獄一刀を発動しまくった!


「ギャオオオオン!?」

「グオォォオオン!?」

「ゴアァァァァッ!!」


 ワイバーンは高い知能があるはずだというのに…!

どうして仲間が数体倒されたにも拘らず一体も逃げようとしないんだ!?


「ルシ…ッ!?」


 ワイバーンの一体と相対してしまったルシオの姿は他のワイバーンに

さえぎられて見えなくなった…! 最悪だ! 最悪だ最悪だ最悪だッ!!


「ルシオォオオオオオオッ!! 退けよオマエラァァァアアァァァ!!」


 どれほど怒気を発して攻撃してもワイバーンは倒れても退く気配を見せない。

何故だ?!! 何がお前らをそう掻き立てているんだ!?


「ヴァオォォオオォォオォォオオン!!」

「ッ?!」


 ワイバーンは群れる。群れるということはボスがいる。つまり…


「そういうことか…!」


 倒れ伏したワイバーンの一体を踏みつけつつも、僕の前には明らかに

他とは一線を画したドラゴンにも匹敵する巨体のボスワイバーンが現れた。


「ヴァオォォッ!!」


 ボスは他のワイバーンに何かを伝えるよう短く吼える。

すると存命なワイバーンたちは僕を襲うのをやめ…!


「やめろおおおおおおお!!!」


 僕は瞬獄一刀を奴らに放つが…ボスワイバーンが魔法障壁を展開して阻む…!

クソぉッ…! ここに来て反動無視の影響が…ッ!!


「畜生! 畜生! ちくしょおおおおおおおおおお!!」


 ルシオが死んでしまう!! 僕のたった一人の親友が死んでしまう!!

誰もが……チッタの皆ですら僕を僕とは見てくれない中で!

…ずっと唯の幼馴染マイスと見てくれたルシオが…!


「…ふざけるなぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!!」


 嫌だ嫌だ嫌だ!! 独りになるのは嫌だ!! 退けよ!! 退いてくれよ!!

何が勇者だ! 親友の一人も守れないなんて!!


「ルシオは誰にも渡すものかぁぁぁぁぁ!!」


 僕は動いた…手足の一本くらいくれてやる! 


「例えここで死んでもルシオはお前らになんか渡すものかぁぁぁぁぁぁぁ!」


「誤解を招く言い方は大概にしろぉぉぉおおおおおおおお!!!」


「…へっ?!」


―ガガガガガガガガガガガキュウウウウウウウンン!!


「「「「「グギャガガガガオオォォォォン!?」」」」」

「ヴァオォン?!」


 ボスワイバーン背後から夥しい数の見たことの無い色の閃光の線が迸った。

ルシオとは思えぬ叫び声に僕は一瞬素に戻ってしまったが、

僕はボスワイバーンと同じタイミングでルシオのいた方を見た。


「な…!?」


 そこは、全身を穴だらけか無残な肉塊と化したワイバーンの死屍累々だった。

距離が距離なのでハッキリは見えないが、ルシオはその手に不思議な輝きを放つ…

あれは…何だ? ……まるで神話に出てきそうな邪悪な大方舟アルカ級の

ドラゴンロードを髣髴とさせるような意匠の…アギト…?

駄目だ形状が知らないものだからなんともいえない…!


 だけど、一つだけ言える事があった。その得体の知れない邪竜のアギトのような

魔法の武器の力でワイバーンの死屍累々な惨状が生じたことである。


「ヴァオオォォォオ!!」

「サスネッ!! カナヘビの分際でホイドたがってんでねェバフタレがぁ!」

「!?」


 ルシオは……僕が今までに聞いたことの無い言葉を喋った?!


> > >


 まさか、こんな形でヴァイスヴァリアントガンを使うことになるとは…。

ワールドAtoZウィキで調べ、そのえげつなさから人前で使わないと決めたのに…。


「ヴァオオオオオ!」

「あー混乱してイライラするカチャクチャネェ!! 喋んなっつってんだろ馬糞垂バフタレ!!」


―ガガガガガガガガガガガキュウウウウウウウンン!!


 あ、いけね…前世の方言と同時にトリガー連射しちゃった。


「ヴァォォ?! アギャギャギャギャアアアアアオオオンン!?」


 …ふむ、バリアか…一応威力を極小で連射したからか全部は届かなかったのか。

…しかし極小でワイバーンを穴だらけないし肉塊ってどんだけなんですかコレ?!

こんなもんチートどころかただの大量破壊兵器きょうあくなきけんぶつじゃん?!

何? これくらい無いと今回の俺の人生って穏やかに暮らせないとでもいうの?!


「ヴァ…ヴァオオォオオ…!!」

「しつけぇ…大変タンダでネーってグレェ駄目マイネベジャ…?」


 ちょっとルショーノがショックで引っ込んじゃったせいで殆どがショウ

それも昔の怖いもの知らずなモツケが出ちまってるなぁ…。


「ヴァオオオオオオオ…!」

愚者ホンズナスケ? …驚愕だワイハ救い様が無いドンダンズ…!」


 とりあえずブレスとかされたら厄介なのでトドメを刺すことにした。


それじゃあヘバさようならシタラナ?」


―ガキュウウウゥゥゥゥ……ン!


「ヴァ…!?」


―ドズゥゥゥン!


 俺がトリガーを引いてこの馬鹿でかいワイバーンが倒れたのは殆ど同時だった。

見てみればちゃんと眉間に穴が空いてたので殺し損じってのはなさそうだ。

………そろそろ落ち着いてきたかな…? って…それ以前に皆は大丈夫なのか?!


「ルシオ…? 君は…本当にルシオなのかい…?」

「…あ、生きてた」


 マイスイケメンは無事か…まぁ、今回こいつが無事じゃなかったら

セラムも無事じゃないだろうから…うん。自重自重。


「ルシオ…君は…君は本当に…ルシオなの?」

「………」


 メンドくせぇ…。


「今はそんな事よりアリア達が先だろう?」

「……ッ!? そ、そうだ…皆…!?」


 マイスは未だ倒れているアリア達に急ぎ駆け寄る。様子を見る限りは

そこまで大した怪我をしてなさそうだ…流石は御大層な御歴々の血ってやつかな?


「ルシオ…!」

「っと!?」


 ぼすんと下腹に来たので見てみればセラムがいたので俺は遠慮なく抱きしめた。


「い…痛い…」

「む、すまん…」

「いい…でも、次はもう少し優しく…」

「善処する」


 不思議とこれ以上のことはしたくない気分だ。今までの俺ならコレ幸いと

今なら許されるかもとさり気無く尻とかに手を回しちゃいそうなんだが…。

不思議とそんな気が沸かなかった。魔力ってやっぱ心に影響あるのかな?

ヴァイスヴァリアントガンを撃ちまくったら、なんかドン勝連射乱射

(下品注意)しまくった後の気分に似てるんだよね…。

あれ最高出力でブッパしたらどうなっちゃうのかな…? ガチで死ぬ系?

あとでウィキっておくか。


「そろそろ離れろ」

!」

「これ以上は親友マイスが可愛そうだ…」

「どういう意味?」


 ふとマイスを見れば…あ、大丈夫だ。あっちはあっちでどうにか立った三人娘を

ギュッとして三人娘が仲良く顔真っ赤の三面リーチしてたわ。


「「「ほあああああああッ!?」」」

「良かった…! 本当に良かった…!」


「………傍目から見てるとウザいな」

「…禿同」


 そんな四人と同じことしてるんだと同時に思った俺とセラムはスッと離れる。

離れた瞬間にマイスと俺の目が合い、何か色々と気まずかった。


Next…6件目:王都へ

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