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ハイヒールでダンスできる人ってすごいよね

 煌びやかなシャンデリアが光を放ち、真っ赤な絨毯が地を覆い、芸術品に囲まれたそこはまるで別世界だった。

 誰もが輝いていた。

 豪華なドレス、ビシッと決めた燕尾服、程よいメイクをつけて、優雅に立ち振る舞う。

 彼らは、自分こそが主役だと主張せんばかりに目立ち、己の存在をアピールする。――そう、俺は戦場に足を踏み入れようとしている・・・・・・。


 なんていうことはなかった。



 確かに参加者は全員上品な服装を着用し、上流階級のオーラを醸し出してはいるが、所詮はうち主催の舞踏会。貧乏貴族が自分は貴族だと証明できる数少ない催し事であり、彼らの小さなプライドを守るための最後のあがきでもあった。

 一度、旅行で都会の方へ行ってみた事があるのだが、そっちのがこっちよりも会場は広いし、手入れもされているし、なによりも豪華だったのだ。


 つまり、この舞踏会にはそこまでの上位貴族は来ない。

 ここにいるのはほとんどが顔見知りの人ばかりで、近状報告も兼ねた交流会に近い。もちろん、婚活する気満々のお嬢様がたはたくさんいると思うけど。



「それでは、皆様の健康に祝して、乾杯!」

 お父さまがグラスを持ち上げて宣言する。

「乾杯!」

 合図をきっかけに周りが次々とグラスを傾け盛り上がる。舞踏会の開始のようだ。



 お父さまは常に挨拶を簡潔にする方だ。たぶん思いつかないだけなんじゃないかな、と邪推してみる。

 とはいえ、ごちゃごちゃと喋られるよりはマシで、挨拶時はお父さまの後ろで待機することになっているから、時間が長くなればハイヒールで足が死亡する。

 そう。黒でも色気の出ないドレスを着て、ハイヒールで足をプルプルさせ、顔が痛みで引き攣ってるのが俺です。

 

 こっちの世界では高身長のがモテるらしい。

 それは男女関係なく、身長も一ステータスとして数えられ、そのまま優劣に繋がる。

 そのため、俺のような低身長のチビはこうしてハイヒールで誤魔化さないと、相手すらしてもらえないのだ。



 ハイヒールを履いたからといって相手してもらえるとは言ってない。


 男女ペアのダンスであぶれたんですがそれは・・・。



 悲しいかな。どうやら俺はお見合い時点で拒絶されたらしい。

 男性が女性をダンスに誘い、手をつなげばカップル成立なのだが、誰からも誘ってはもらえませんでしたとさ。参加者0人かな。

 既に曲は鳴り始めているし、今更入れるような状況じゃないし、なにより相手いないし、俺もうね・・・諦める。


 

 近くにあった椅子に腰かけ、ひらりとスカートを捲って座る。

 疲れ切った足に休息を与えつつ、先ほど取ってきた夕食をぱくぱくと食べることにした。

 ダンスホールでは男女が手を取り合い、リズムに合わせてターンしている。そして曲の転調に合わせて軽快なタップを踏み・・・これもしかしなくてもハイヒールのままじゃダンスできなかったんじゃないかな。

 こう考えるとちょっと心が安らぐ。みんな気を使ってくれたんだね。

 


 自分に嘘を言い聞かせて気分がよくなったところで知り合いを見つけることにした。

 あっ、あのおじさん見た事ある。この前うちに来てお土産くれた人だ。

 こっちは先月も見たおばさんだ。まだ結婚できていないらしい。

 そしていよいよ探してた人物に目をやる。俺の姉だった。

 燃え盛る赤い髪をツインテールにし、真紅のドレスで情熱さをアピールする。顔も美人な方で、胸も大きい(重要)。今年で16になるはずだから恋人探し真っ最中の年頃だ。

 踊る姿にくぎ付けになっている男性も多い。あぶれている男性は彼女のパートナーを羨ましく眺めている。そんな若い男子が俺のそばにも一人っと、というか、あぶれてまで俺と踊りたくなかったわけですかそうですか。



 なんだか急に不機嫌になってきたぞ。

 踊りたいかと聞かれればNOと答えるけども、誘ってもらえないというのはなんだか自分の存在を否定されたようでイラっとする。

 ジュースのおかわりをして来よう。

 ――そう思って立ち上がろうとした矢先、後ろに束ねていたポニーテールを尻に敷いていたことを忘れて、文字通り後ろ髪を引かれてバランスを崩した。

 ただでさえ慣れないハイヒールを履いているのにバランスを崩したら、簡単に転んでしまった。幸い人にはぶつかっていないようだ。


 恥ずかしいところを見られてしまった。

 羞恥で顔が真っ赤になり、消え去りたい気分になる。

 このまま舞踏会が終わるまでトイレで隠れていようか、そんなネガティブな考えまで浮き上がってくる。

 さっさと立ち上がって逃げようとも思ったが、先ほどコケた時に足を捻ったようでうまく動かない。



「大丈夫ですか?」


 そんな時に誰かが現れた。

 優しい笑顔を浮かべて手を差し伸べてくる。

 キラキラした金髪が眩しいくらいに主張するから金髪イケメン野郎と呼ぶことにする。

 

 反応できずにいると俺が足を抑えてる所を見て、右手を近づけてきた。


「動かないで、今治療するから」

 そう金髪野郎が言うと、手に何かを集中させる。詠唱が終わるとすぐに淡い光が足を包んだ。

 数秒してから、ぽわあと優しい光が弾け飛び痛みが消える。回復魔法の類だろうか。

 


「あ、ありがとう・・・ございます」


 知らない人間にこんな事されたのは初めてで、戸惑いながらも礼を言う。

 身体を支えて助け起こしてくれた後、彼は跪いて俺の右手を握り、手の甲にキスをしてから、こう尋ねてきた。



「私と踊ってくれませんか、お姫様」



 ぞわわっと背筋に悪寒が走った。


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