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貴族って自由に恋愛できないイメージあるよね

 高価な装飾品が並ぶ、赤を基調とした広い執務室の中、銀髪の少女が白髪の中年男性に頭を下げていた。

 ていうか、前者が俺だった。


「ジャンナよ、誕生日が近いらしいな。いくつになるんだったかな?」

「翌月の15日で15才になりますわ。お父さま」

「なるほど15才か。つまりは成人を迎えるというわけだな。実におめでたい」

「ありがとうございます」

「ジャンナも大人の仲間入りを果たすわけだが、手始めに明日開催の舞踏会に参加してみないか。今のうちに礼儀作法の確認をしておけば、成人の儀でも恥をかかずに済むだろう」

「いえ・・・、お父さ――」

「ならば決まりだ。明日夕方七時には会場に来るように、身だしなみにも気をつけるように。もう行ってよいぞ」

「・・・・・・わかりました。失礼します」




「ウオオオオオオオオオオオオ――!」


 気づけば自分の部屋で枕を抱えて唸っていた。

 バイブスは別に満タンじゃないけど、自分の無力さを嘆いていた。

 そんな年頃の女の子みたいな事をしていると気づいて俺はまた頭を抱えた。


 名前を略さずに言えば、ジャンナ・ルーサー・ステュアート。苗字つきからも分かる、貴族生まれだ。

 四人兄弟の三女に生まれ、末っ子として可愛がられて育てられたのが俺だ。

 お母さまの燃えるように赤い髪と、お父さまの眩しい金髪がどう組み合わされば俺の銀髪になるのかじっくりと考え込んでみたい所だが、前世の記憶持ちという点で異質は俺の方だとすぐに分かる。姉や兄の髪も金や赤に近い色合いをしていることから確定してもいいだろう。

 


 生まれてからはや14年、礼儀作法を学んで勉学に励んで人付き合い習って成長促して一生懸命に生きた結果、銀髪碧眼貧乳ロリ少女の完成というわけですか。

 なるほど、何かがおかしい。

 身長も体重も平均以下、髪の伸びも異常に早いしで、女の子の生活は未だに慣れません。ライダー助けて!

 

 鏡の前に立って、ひらひらとしたスカートに似た寝間着の裾を持ち上げてみる。

 そこに現れたのはもっこりとしたボクサーパンツ・・・ではなく、かわいいリボンつきの白ぱんつでした。白い肌に白いぱんつとはミスマッチな気がしないでもないが、パンツ選びは慣れないので適当にしている。

 今更違和感を感じることも無くなってきたが、男の尊厳が行方不明になればたまには寂しくなる。身体は既に女の子だというのに。


「ん?」

 そこにふとした違和感を感じた。

 何千回と見た自分の姿なのに、どこか別の場所で見たような覚えがしたのだ。

 何かのキャラクターだったか、自分とは別の人間のように感じるが、結局それを思い出せずじまい。

 あるいは前世で見た人だったかもしれないが、10年以上も経てばさすがに覚えていられない。

 生まれた時に変な神さまと出会った夢を子供の頃の日記に書いたのだが、今ではその夢の内容を思い出せない。

 くぅ~、5000兆円より完全記憶能力がほしい!



 話を戻して舞踏会だ。

 一見喜ばしい出来事に聞こえるが、その実態がただの婚活パーティーだと分かれば拒絶したくなる気持ちも分かるだろう。

 ステュアート家は貴族とはいえ、他と比べればかなり小規模で、いわゆる端くれというやつだ。

 そんな所の三女が家督を継げるわけもなく、かといって何かの役には立たねばならない。

 有力な貴族と結婚させて関係を結ぶ程度の道具扱いが妥当といえば悲しくなるが、この世界ではそれが一般常識のように黙認されている。


 というより、結婚せずに家にいても匿ってくれるほど世の中は優しくない。取り残された貴族の娘はあるいは自立するか、追い出されるかの二択になる。

 貴族の子供としてぬくぬく育てられた生娘が自立できるはずもなく、家を追い出されたら結果はほぼ目に見えている。

 そんな訳で自ら舞踏会に参加しに行く人も少なくない。



 これらを踏まえてさっきの会話を簡潔にすればこうなる。



「ジャンナ、お前もそろそろ成人するよな?」

「あっ、そうですね」

「うちの経済難は知ってるだろ?お前もどこかと結婚して、役に立たにゃいかんとちゃうんか?」

「い、嫌です・・・」

「嫌って言ってもするんだよ?」

「えぇ・・・(困惑)」




 悲しいかな。これが現実です。

 いつかは来ると思ってはいたが、まさか成人前から自分の娘を売るわけか。経済難で巻き添えを食らうのは勘弁してくれー。

 まあ、俺も自立できないから文句は言えないけど、さすがに早すぎないですかね?

 

 とはいえ、言われた事はある程度真面目にやるのが個人的な主義である。

 男と結婚して、ゆくゆくはあんな事やこんな事をするのはさすがに想像できないし、したくもないが、初回から結婚してこいなんて無茶な要望は出ないはずだ。

 ならば、ある程度の参考になると思って他の人の動向を盗み見るのも悪くはない。


 ドレスの準備は欠かさない。アイロンがけされた埃一つない漆黒のドレスを持ち上げてみる。ナイトパーティー御用達の色気むんむんのデザインだが、俺の体系に合わせてオーダーメイドしたら色気がログアウトしたらしい。

 髪のセットにだって時間はかかる。髪形は照明や雰囲気で持たれる印象がかなり変わるので、これは当日に参加者を確認してから決めよう。

 もちろん、メイクだってしなければ一端のレディーとは認めてもらえない。まあ、童顔のせいでメイクのし過ぎはむしろ逆効果になるけど。



 そんなこんなでそれなりにノリノリで準備をした結果、俺の人生は大きく変わることになる。


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