第2話 地獄の特訓開始
サフィラ
「グラウンド100周!!
腕立て伏せ、腹筋、背筋1000回!!
日没がタイムリミットだ!!」
エンリル
「そ、そんなぁぁ!!」
何なんだ、こいつは?
サフィラは黙ったまま、目の前で命乞いをしてくる悪魔を見下ろす。
光を反射してキラキラと光る、銀の髪。
血のように紅く、艶のある瞳。
そして、頭に生えている黒い角に、漆黒の大翼。
この風貌でランクC?
サフィラは信じられないモノを見るような目で悪魔を見下ろす。
その形でランクCだというのは、この悪魔がどれだけ雑魚なのかを表す。
しかも、もう、10代も後半だろうか。
ランクAかBで生まれて、落第したというのだろうか。
ひ弱そうな悪魔を見下ろすサフィラの顔が怖い
「あ・・・・・・あの、天使・・・・・・さん?」
恐る恐る、サフィラの表情を窺いながら声を掛ける、悪魔。
こんなに怖い天使が今まで居ただろうか。
目尻に涙を浮かべ、サフィラを見上げていると、頭を掴まれる感覚がした。
「え・・・・・・?」
そう、サフィラが悪魔の頭を鷲掴んで、持ち上げたのだ。
悪魔の頭を自分の頭の高さに持っていく、サフィラ。
近くで見ると、サフィラの顔は綺麗で、一瞬、状況を忘れて見惚れてしまった。
それは、サフィラが口を開いたことで、現実へと引き戻される。
「貴様、それでも悪魔かっ!?」
いきなり、天使に叱咤される、悪魔。
こんな悪魔が曾て居ただろうか。
いや、居た筈がない。
悪魔とは本来、恐ろしい獣の象徴なのだから。
それこそ、サフィラみたいな。
サフィラの叱咤はまだ続く。
「悪魔たるモノ、天使を見たら立ち向かっていくモノだろう!!
その大翼は飾りか!?
その格好は見てくれか!?
貴様はAランクだっただろう!?」
サフィラの剣幕に気圧され、悪魔は何も言えなくなる。
悪魔が天使に叱咤されるなど、聞いたこともない。
「貴様を矯正する!!
弱音も一切認めん!
解ったら、返事は「ヴァ ベーネ」だ!!」
「ヴァっ、ヴァ ベーネ!!」
サフィラの剣幕に、思わず頷いてしまった悪魔。
悪魔は思わず出た言葉を訂正しようとしたが、どんな形であれ、強くなることは必須だ。
でなければ、生まれてこの方、何回食らったか解らない降格をまた強いられるであろう。
それだけは避けたい。
そして、何も言えないまま、悪魔は天使に拉致られた。
歩くこと数分。
森の奥に、一つの一軒家が見えた。
そこは、サフィラの宿泊施設。
サフィラはたまに悪魔狩りに夢中になりすぎて帰れなくなることが多々ある為、知り合いに頼んで他に3件ほど建てて貰った施設だ。
サフィラは扉を開けると、悪魔を家に入れた。
「今日から、此処がお前の家だ。
訓練は昼過ぎに行う。
食料等は私が定期的に調達してこよう。
何か質問はないか?」
淡々と説明をする、サフィラ。
質問はないか、と訊かれて、悪魔は少し考える素振りを見せると、思いついたように訊く。
「あ、あの・・・・・・天使さんの事は何て呼べばいいですか?」
今まで、自己紹介をしていないし、されていないことに気付く、サフィラ。
すると、サフィラの口から、冗談とも取れるような言葉が出てきた。
「サフィラ様」
「サ・・・・・・サフィラ様・・・・・・ですか・・・・・・?」
悪魔が素っ頓狂な声で聞き返す。
それもそうだろう。
いきなり、自分のことを様付けで呼べ、なんて、言われたら誰だってフリーズする。
まぁ、作者なら、そんな奴とは関わらないだろうが。
それはさておき、サフィラは黙った。
暫く沈黙が続いて、漸くサフィラは口を開く。
「・・・・・・やっぱり、「サフィラ」で良い」
言った言葉にため息が混ざる。
それもそうだ。
単純すぎる、この悪魔。
サフィラは、自分が「サフィラ様と呼べ」と言って、反抗的な態度を取る輩には無理矢理そう呼ばせようとするが、この悪魔みたいに素直に言う事を聞こうとする輩は従わせても面白くない為、強要しようとは思わない。
「取り敢えず、今日は食料を2食分置いていくから、そこから動くなよ。
いいな?」
サフィラは、野戦食料をテーブルに置くと、悪魔の顔を見る。
悪魔が頷いたのを確認すると、サフィラは微笑んだ。
その微笑みが凛々しくて綺麗だと思い、悪魔は一瞬、ドキッとする。
「今日の所は野戦食料しか持って無くてな。
明日、まともなモノを持ってきてやるから、我慢しろ。
それと、お前の名前も聞いておこうか」
悪いと思ったのか、サフィラは野戦食料しかないことを説明する。
そして、まるでついでだと言う様に、悪魔の名前を訊いた。
「え・・・・・・エンリル・・・・・・
一応、Cランクです」
「エンリル、な。
女々しい名前だな。
何かの神話の神の名前だった気がするが・・・・・・まぁ、悪くない名前じゃないか」
サフィラは微笑むと、エンリルと名乗った悪魔の頭を撫で、森の奥へ消えた。
ミカエル(100/♀)
大天使。
サフィラの母親で、昔、仲間の天使の愚行にキレてその天使を魔界に突き落とし、魔界で暴れたとされる。
サフィラを溺愛するあまり、周りの天使からは「親バカ大天使」で有名。
童顔で、左目尻に†のタトゥーがある。