どうやら異世界転生したらしい ~前世人間、今世婬魔~
徹夜のテンションで書いてみました。
色々拙いですが…
いわゆる前世の記憶が蘇ったのは、俺が今世に生まれて五年が経った頃だった。
それまでは、自分が妙に落ち着いていたり、周りの同年代に比べて優秀だったりする事に軽い疑問を抱く程度だった。
それもまぁ、自分が人間では無く悪魔。それも婬魔≪インキュバス≫で貴族に相等する立場だから、そう言うものか程度に無理に自分を納得させていたのだけど。
そして、前世となやらを思い出す切っ掛けとなったのは、俺が将来仕える事となる婬魔の女王にお目通りし、城に泊まる事となったその日の晩の出来事だった。
まず、女王に対する最初の印象は、『麗しきわが女神』…要するに一目惚れである。ただ、問題はこの女王が血縁上は俺の母親であり祖母であり曾祖母である事。
俺のいる国における貴族の大多数は女王と血縁関係にあると言って良いだろう。だが、そんな事はどうでも良いとばかりに惚れ…いや、崇拝せずにはいられない魅力が女王にはあった。
見た目は十代の幼い少女ながら醸し出す色気は並の女婬魔≪サキュバス≫等は足元にも及ばず、整った顔立ちは勿論の事、婬魔でありながら穏やかに微笑みを浮かべる表情は汚れを知らぬ清楚な少女の様であり、神話の美の女神にも引けを取らない。
つまり、一瞬で正気を奪われるレベルだった。
魅了の魔力を抑える為の呪印が刻まれたドレスを着ていて尚それなのだから、本気を出されて抵抗出来る悪魔はまずいない気がする、男の悪魔は勿論女の悪魔であっても…。
そして、前世の記憶を取り戻す切っ掛けなのだが…
女王に会った時の興奮が未だに冷め無かった事と城に泊まる事の緊張から眠る事も出来ず、気晴らしに城の庭園を散歩している時に見た光景が原因である。
昼間、俺が一目惚れした女王が多数の婬魔達と……性の営みをしているのを見てしまったのである。しかも、男婬魔だけでなく女婬魔とも……
いくら悪魔と言えど、生まれて五年のしかも母親で且つ一目惚れした相手のそんな姿を見たら…普通は絶望して女嫌いやら自分の種族を嫌うやらしてもおかしくは無いだろう、普通なら。
当然、心にトラウマレベルの強い衝撃を受け、それを切っ掛けに前世の記憶が蘇った。
前世の俺は、ファンタジーが好きで、クラスからハブられていたぼっちであり、わが道を行くマイペースで色々ズレた考えをする人間だった。
そして、前世を思い出した後に出てきた結論が、『神話とかに出てくる女神にも性に奔放なのいるし、まぁ良いんじゃね』と言うものだった。
今の俺はこんな事で絶望はおろか怒ったり悲しんだり等はしない。
元々、婬魔と言う悪魔は性に奔放なそう言う種族であるのだ。俺が勝手に描いた女王に対する期待や幻想で、失望するのは愚かしき事である。
それからの俺は、ただ女王様の為に尽くす忠臣として、王政に不満を持ったレジスタンスと言う名のダニどもやクーデターを企てた俺の父親を含む一部の貴族どもを叩き潰し、父親から奪って引き継いだ領地を内政チートと悪魔らしからぬ善政で富ませた。
そして数十年後には、女王様から信頼を寄せられる側近の一人として取り立てられるようになった。初恋の感情も妙に拗らせ過ぎて信仰のレベルに到達し、女王様からの御慈悲も今のところは全て断っている。
自分がまだ御慈悲を受ける存在に値しないとか青臭いものも絶賛拗らせ中だったりする。
余談として、同僚の悪魔からは、同性愛者疑惑をもたれて引かれたりソッチ系に誘われたりしたが。毎回、俺はただ女王様を懸想しているだけと説明し、その点をバカにされたり気持ち悪いがられたりするけど。
そんなある日、女王様に呼び出され俺は直々にある事をお願いされた。命令で無くお願い…受ければほぼ左遷の様な内容のお願いであり、他の側近達は断り最後に新参の俺へと話が来たとの事らしい。内容と言うのが、女王様には人間との間に生まれた娘がおり、人間の住まう地上界へ行って娘を護って欲しい、と言った感じの事である。
悪魔的には、女王様の娘とは言え、たかだか人間の為に左遷同然に地上界へ行くのは嫌なのであろう。
仮にその娘が何らかの事で死のうが我らは勿論、女王様にも何ら影響を及ぼさない些末な存在なのだ。
そんな、メリットが皆無でデメリットしか無いお願いを、如何に女王様の側近と言えど受ける者など居やしないだろう、多分俺以外は…。
俺は人間の住まう地上界へと向かう為、領地を自分の家臣や親類に任せ、万一無事に戻って来ない場合は女王様に領地を返還する旨を伝えた。
また、お願いを聞く代わりとして、女王様にも万一の場合は領民達の保護をお願いし、左遷同然に地上界へ向かった。
俺の女王様に対する信仰…もとい忠誠心はマックスであり、女王様の為ならこの身を犠牲にする事にも抵抗は無いのだから。
地上界に着き、人間の姿に変装をし終えると、俺は目的である女王様の娘を探す事にした。
手掛かりはだいたいの住んでいる場所と名前、後は女王様の遺伝子を受け継いでいるだろう容姿と…
冷静になって思ったのだが、これで見つかったら苦労はしない気がする。
悲しいかな、女王様は時々致命的に抜けたドジっ娘だったりするのだ。また、そこが魅力的でたまらないと感じる俺も大概と言えるのだけど。
それはさておき、女王様の娘を探す為に人間の街をさ迷っていると、不意に女性の助けを呼ぶ声が聞こえてきた。
それに気付いたのは俺以外にいないようで、半ば仕方なしに声のする方へ向かった。
案の定と言うべきか、そこには女性一人に対して複数の野郎どもが取り囲んでいた。
合意の上の好き者なら放っておくのだが、女性の表情には悲愴と嫌悪が浮かんでいた。
何より、男なら紳士たれと思っている俺としては、こう言う状況は激しく嫌悪するものだった。
とりあえず、野郎どもは徹底的に痛め付けて半殺しで済ましておいた。さすがに殺すのは、後処理が大変と思ったので。
そして、本来は奴等の身に付けた衣服を全て燃やすところをズタボロに切り裂く程度にとどめ、震える女性を抱きかかえながら公園のベンチまで運び出した。
まぁ、前世でも今世でも乱暴を働かれて震える女性は初めてな為、どうすれば良いか分からずとりあえずな行動だったのだが…。
少しして落ち着いたようで、女性…十代半ばくらいの少女は俺に対して御礼を言ってきた。ただ、その目には警戒の色があり、俺から離れた位置に座り直した事からもその警戒っぷりもよく分かる。
よくよく観察すれば少女は、人間で言えば美少女の部類であり、幼さが残る中にも色気も備わっており、清楚で男受けする感じである。…以前何処かで似た感じの印象を受けた事がある気がするが、まぁそれはさておき。
そんな美少女が俺を警戒しているのだが、それも何と無くだが分かっていたりする。
野郎に言い寄られたり襲われたりするのは、別に今回が初めてでは無いのだろうと。人間と言うのは、見た目が良いとそれはそれで苦労があるのだろう。
とりあえず単なる余暇ならば、少女の警戒を解く為に行動するのも一興だったのかもしれないが、俺には女王様よりお願いされた事があった。
そのため、さっさとこの場を去ろうかと思っていたが、名も名乗らず去るのはやや紳士的に欠けるとも思い、少女に自分の名を名乗る事にした。
そうすると、少女の様子に変化が見られた。
警戒の色は更に強まったが、驚いた様に目を開き、口からは「ありえない」と言う台詞がこぼれてきた。
何がありえないかは分からないが、美少女とは言え単なる人間に長々と構ってはいられず、さっさと立ち去ろうとベンチから立ち上がった。
その瞬間、「ちょっと待ちなさい」と、この少女に腕を掴まれた。それもワリとかなり強めに。
少しイラッとしつつ、紳士たれと自分に言い聞かせ、再びベンチに座って少女の話に耳を傾ける事にした。
少女は「電波だとは思うだろうけど、黙って話を聞いて」と前置きを言った後、話を始めた。
曰く、この世界はゲームの世界であり、少女は自分をそのゲームのヒロインなのだと。
そして、俺はそのゲームにおける悪役の一人と名前が同じなのだと。
これで種族が違ったりするのなら単なる電波女で片付くのだが、種族である男婬魔や『麗しきわが女神様』の事まで一致するのだから驚きである。向こうは、俺を人間と思っているから半信半疑と言ったところだろうけど。
何より容姿と性格がゲームの俺と今の俺では全然違うらしい。
ゲームでの俺は、男婬魔でありながらブクブクと肥太り、陰湿で女と言う女を目の敵にし、女王様にことごとく反抗して悩ます身中の虫であり、人間や悪魔の少年を好むショタコンらしい。
そして、今ここにいる俺は言うと、男婬魔としては並だが人間で言えばイケメンな部類。性格はワリと紳士的(自己評価)で、食べた以上に太りやすい体質なので日々の鍛練は欠かさない、何より女王様の忠実な狗(これが最重要)である。
単なる異世界の魔族転生と思ったら、転生した魔族が悪役だったでござる。まぁ、ゲームの俺と実際の俺は別の人格だから別にいいけど。
後、この少女が俺の探していた『女王様の娘』だった様だ。なるほど、よくよく見ると似てる気がする。…女王様と比べたらただの小綺麗な小娘にしか見えないが。
少女からの話を粗方聞き終えた後、今度は俺が少女に事情を話した。
自分が男婬魔であり、恐らくはゲームの俺と同一人物である事。いわゆる自分が転生者である事。
そして、女王様のお願いにより、少女を護る事になった経緯を。
少女は俺の話を聞いてる間も胡散臭げに俺を見ていたものの、少女の口から語られていなかった女王様の名前と攻略対象の一人らしい今は俺の家臣をしている魔族の名前を伝えると驚きつつもとりあえず納得した様に警戒の色を薄めた。
その後、場所を移して少女の家で改めて色々話をする事となった。
なったが、会って間もない男を家に招くのはかなり無用心過ぎやしないかと若干の不安を感じたりもした。
一応、俺も男なのだが…。
話の内容も始めは少女の今までの生い立ちやら男に対する不満やらだったが、適当に相槌打って流しているとどう言う流れでそうなったのか、俺はこの少女の家で居候する事で話が終わってしまった。後、何故かお兄ちゃん呼ばわりもされた…異父兄妹だから間違ってはいないけど。
もはや、警戒心ゼロの少女…妹の考えの甘さに、護衛としても兄としても不安には思うものの。その分俺が頑張って護れば良いのだろと勝手に納得する事にして。
意思は必要と、「絶対護ってやるから、安心しろ」的な事だけ告げて頭を撫でたら何故か顔を真っ赤にして怒られた。
微妙なお年頃で子供扱いが嫌だったのだろうと、とりあえず謝っておいたが…なかなか機嫌が直ってくれずに大変だった。
それから、正式に女王様からの遣いがやって来て妹と共に国に戻る事となるまでの間に、色々あったが俺は無事に勤めを果たす事が出来た。
何故だか知らないが、この妹から全幅の信頼を寄せられてるようになり、国に戻った後も面倒をみる様にと女王様より仰せつかう事となり、俺の将来の地位は安定したものとなったらしい。
後、久方ぶりの女王様のお姿に見惚れていたら妹に足を強く踏まれたり、その事を家臣達に話すと女心が分かっていないと呆れられたりしたのは余談である。
【誰得な設定説明】
○ネーヴェ・ローズウェル
婬魔の貴族、ローズウェル家の三男。元々の継承権は低いものの、父親を実力で倒した事で下克上が成立して彼が当主に着く事に。
女王に対する感情はある種狂信的でありつつ、間違いは間違いと諌める程度には冷静な忠臣。
ゲームの強制力により、太りやすく痩せにくい体質なのに逆手に取って燃費が良い体質に。(摂取した以上のエネルギーを得ながら、消費されるエネルギーはかなり低い)
後、婬魔なのに経験は無し。
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ゲームにおける設定
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初恋相手である女王の情事を見てしまった事で女に失望、最終的に男児性愛に走ったアレな魔族。
本来はハイスペックながら、鍛練を怠り享楽な日々に溺れた事でオークにも似た豚魔族に。
性格も強い者に媚び、弱い者を虐げ、部下など使い捨てるクズである。
不人気投票で不動の第一位であり、典型的な小物。