第三話
「舐めているとは、どういうことかな?ツバキ嬢」
「とぼけないで頂きたい。こちらは遊びに来たのではありません」
「何のことかな。こちらとしてはとぼけているつもりなど無いのだが、言いたいことがあるならはっきり言ってもらって構わないが?」
…ああ、こいつの話はいちいち腹が立つ。人を馬鹿にしているにも程があるだろう。団長さんに同情する。言ってやれ団長さん。僕の分まで!
「私達クシナダからの戦力は私達だけです。勿論本軍は別に向かっています」
しかし、と続け、
「あなた方リーンブルグ側の遊撃隊…隊とは言いませんね…そんなひ弱そうな男一人とはどういう了見ですか?」
おい、僕に毒吐いてんじゃねえよ!僕だってお前らとなんか一緒に行動したくねーよ!
「私達、いや、うちのメンバー一人分も満たしてなさそうな…不釣り合いにも程があります。チェンジで。正当な戦力を要求します」
おい‼
「おい!なんだお前!僕たち初対面だよな⁉なんだ⁉僕が何かしたか⁉」
「そこのあなた。私は大事な話をしているの。少し静かにしてくれるかしら」
「………………」
いや、静かにしろと言われたからではなく。絶句した。空いた口がふさがらないとはこのことか。
「………クックックッ」
おいそこのオヤジ笑うんじゃない。
「それで、どうなんですか、アベル王。私の要求は聞き入れてもらえるのかもらえないのか」
確かにこの女はムカつくが言っていることは正しい。そしてこの要求が通った方が僕にしてもありがたいのだ。さて、このクソオヤジはどう答えるか…
「まあ、率直に言うとだ、要求を聞く気は無い。リーンブルグからの遊撃兵はここの男一人だけだ」
うわダメだこいつ折れねぇ。
「ではこの件は私達の雇い主であるクシナダ本国に通達しますがよろしいですね?」
「そう焦るなツバキ嬢。まだ、話は終わっていない」
その言葉にツバキ・ヒメノは訝しげな顔をする。
その反応にまた、クックッと笑いながら、
「要するにこの男の強さを証明できればいいわけだろう?」
この男はニヤッと笑いながら、
「勝負といこうかツバキ嬢。そちらは好きな数だけ戦力を用意してもらって構わない、この男は一人でそれに立ち向かおう、どうかね?」
「どうかね?じゃねーよ!勝手に決めるなドヤ顔するな!」
「うるさい少し黙れ」
くそっ、こいつらは…
「そちらが勝てばこの男の代わりに別の戦力を用意しよう。ただし勝てなければこの男と共に行動してもらう」
「…試すまでも無いと思いますが、わかりました。ただし、私は団員は使いません。戦い前に団員の体力をこんなくだらないことに使わせたく無いので」
そこでようやくこちらを向いて言った。
「私一人が相手になりましょう。一騎打ちです。まあ、相手になるかはわかりませんが」
まさか、こんな面倒臭いことになるとは…
「決まりだな。では明日、正午にこの城の鍛錬場で決闘だ。くれぐれも相手を殺すことの無いように」
その言葉を聞くとすぐにツバキ・ヒメノは俺を一瞥することもなく謁見の間から去って行った。
「くそっ勝手言いやがって…僕ももう行くからな」
「ああ、こっちも忙しいから早く行け」
腹が立つなぁ…
憮然としながらも僕は扉を開き、自分の部屋へと帰って行った。
その日の夜。
お腹が空いた僕は外食に行こうと思い街に下りてきていた。
ブラブラしながら適当な店に入る。と、歩いていると少し、いや、ずいぶんと賑やかな料亭が見えてきた。
「…まあ、あそこでいいか」
少し歩き店に入ると、
「すいませーん!このジュースおかわりー!」
「あなたまだジュースとか飲んでるの!お酒でしょお酒!もう一杯持ってきてー!」
「ああっ!それ私の〜…」
「…このシチューを三つ…お肉と…お魚を二つ……あと…サラダを五つちょうだい」
『あんたは食べ過ぎ!』
………なんだここは?
男一割女九割ってとこか。殆どが女性客で埋め尽くされている。
「すみません、お客様。現在団体のお客様がいらっしゃってまして…少々騒がしく、相席となってしまいますがよろしいでしょうか?」
うーん…今から違う店探すのも面倒だしな…
「あー、はい、良いですよ」
「恐縮です。ではただいま席の状況を見てきますのでもう少々お待ちください」
ふう。
ホント、お腹が空いた。
明日は何故か決闘とかいう妙な事になったしな…
あれ?でも決闘って僕がわざと負ければ全部が全部うまくいくんじゃないか?
うーん…でもなあ…あの女に負けるのは癪に障るな…。どうするかなあ。
「お待たせしましたお客様。こちらのお席にどうぞ」
「ああ、はい。どうも」
おっと考え事をしている間に用意ができたようだ。相席の相手も勿論全員女性だった。
「すみません。相席になっちゃって。食べたらすぐに出て行きますんで」
「いやいや、遠慮しないでいいよ。こちらこそ悪いね。店の中うるさくしちゃって。今日はアタシたちのおごりだからさ、じゃんじゃん頼んじゃっていいよ」
応えてくれたのは褐色肌の長身の女性だった。なんというか、随分フランクな感じがある。
「いやいや、それはやっぱり悪いし…」
「いいっていいって、それにお兄さん結構イケメンだしさ、今夜はアタシたちと一緒に飲み明かそうぜ!」
「えーなんすか先輩も狙ってたんすかー?」
「男に興味あったんですねー」
「じゃあ私達向こうの席で遊んできますねー」
「おいコラ!…ったく、あんまり騒ぎすぎるんじゃないよー」
『ハーイ!』
さっきまでここに座って飲んでた女の子達は皆キャーキャー騒ぎながら向こう側の席へ行ってしまった。
「さて、食べようか。あ、ホントに遠慮しなくていいからね。食べ物も酒も好きに頼んでいいから」
「…それじゃあ、お言葉に甘えて」
「うん!あ、ごめんね。自己紹介もまだで。アタシはカリヤ・モモカ。よろしく」
「僕はキリノ・カイト。よろしくカリヤさん」
「モモカでいいよ、カイト。さて、それじゃあ飲もうか!」
そこからモモカさんは一気に料理と酒を注文し始めた。
「ハッハッハッ!カイト、あんた良いやつな上なかなか面白いね!」
「そうか?まあ、そう言われて悪い気はしないな」
最初の注文を頼んでから一時間弱。僕とモモカさんはすっかり打ち解けあった。
「ところでカイト。あんた普段は何をしてるんだい?」
うーん、どう答えたものか。
「えーと…今はこの国の城で働かせてもらってるかな」
「へー、お城勤めか。いいね」
「モモカさんは、えっと、皆は何をしてるんだ?見たところ明らかに女性だけだよな?」
これは本当に気になっていた。女性だけでこんなに大勢で。一体どんな集団なんだ?
「ん?ああ、そうか。まだ言ってなかったっけ。アタシたちはね、クシナダで傭兵をやってるんだ。変わってるだろ?女だけで」
ん?あれ?クシナダ?傭兵?
おいまさか…
「《断罪の乙女》⁉」
「ん。よくわかったね。アタシは《断罪の乙女》副団長をさせてもらってるよ」
驚いている僕の目の前でモモカさんはあれ?と首を傾げ、
「もしかして、明日団長と決闘する男っていうのはカイトのことかい?」
あー…ばれたか…
でもまあ、明日にはわかることだしなあ…
「ハッハッハッ!ああそうか、団長がえらい不機嫌でね、ああ面白かったよ!」
面白かったのか。モモカさんなかなかやるな。
「カイトは明日決闘なんだろ?死なないように気をつけろよ、団長鬼のように強いから」
「あ、ああ…ありがとう?」
「何変な顔してんの?まあいいや、それじゃあ明日団長とやる前にまずは今夜アタシと勝負してもらおうか」
「は⁉」
「さてそれじゃあ、勝負だ!」
ーーー飲み比べで。
って酒かよ。
拙い文を読んでくださりありがとうございました。良ければこれからもよろしくお願いします。