第一話
現状確認。
王国某所とある扉の奥。
僕はため息をつく。
「OK、もう一度確認しよう」
僕キリノ・カイトはここ、リーンブルグ王国の遊撃兵として条件付きで雇われている。
この大陸には四つの大国がある。
リーンブルグ王国、クシナダ連合国、リュカオン王国、そしてエルンスト帝国だ。
リーンブルグ、クシナダ、リュカオンは現在同盟を結んでおり友好国として付き合っている。
そして、エルンスト。
ここは強大な勢力をもって三国同盟に対抗してきて、度々戦争をしかけてくる。
ここで重要事項を確認しておこう。
僕の遊撃兵としての条件に、《エルンスト帝国との戦争、もしくはその兆候があった場合は必ず出撃の許可を出すこと》、
《指揮に従う必要はない自由に動ける遊撃兵扱いにする》という項目があったはずだ。
「だよな?アベル」
「ああ」
良かった気のせいではなかった。
「なにこれ契約不履行じゃないの?」
「いいだろう別に」
うわ開き直りやがった!
ここにいる偉そうな男、アベルに命令されていることはこうだった。
ーーー次の出撃に別に雇った傭兵団と共に行動しろーーー
「全然自由に動けねーじゃねーか」
王宮内に僕は部屋をもらっている。
僕一人には少し広いくらいの部屋。
奴らに対する情報が入ってこない間はいつもこの部屋で装備の手入れをしているか、誰もいない時に鍛錬場で鍛錬するか、下の街にでてぶらぶらしているかの3パターンである。
今日は鍛錬場はこの国の兵士たちが一日中使っているはずで、なんとなく外に出る気分でもなかったので部屋で装備の手入れをしていた。
そんな時僕の部屋の中にノックの音が飛びこんできた。
「開けるよー」
返答をしていないにもかかわらず僕の部屋に勝手に入って来たのは黒髪ショートカットの小柄な少女だった。
「おい、フウカ。勝手に入ってくるな」
「え?開けるよって言ったけど」
こちらが返答する前にドアを開けたらノックの意味がないだろう。
この少女はそんな簡単な事もわからないらしい。
いや、もしかしたらわざとかもしれないが。
「それで?何の用だ?僕が恋しくて会いたくなったのか?」
まあ、こいつが来る要件など1つしかないのだが。
「あはは。君にとっては残念ながらそうではないよ親友」
いや、別に残念ではない、決して。
「知ってるよ、何か情報が入ったんだろ?」
そう、この少女は僕御用達の情報屋である。
ちなみに先ほどからフウカの事を少女と言っているが実はそうではない。
僕は現在20歳だがこれは僕より年上である。
正確な年齢は知らない。
前に年を聞いたら本気で怒られた。
これが僕より年上だという事実は認められないので僕は心の中では少女だということにしている。
こいつにはばれているかもしれないが。
「まあ今回は私の情報じゃないんだけどね、ただの伝令だよ」
そう言って、
「エルンストが動いたらしいよ。それに今回は奴らも動きそうだ」
フウカの話はこうだった。
三日前リーンブルグ、クシナダ、エルンストの国境付近に向かっているエルンストの大規模な兵団が目撃されたという情報だった。
その兵団の中には僕の標的が混ざっている可能性がある。
当然行かないわけにはいかない。リーンブルグにしてもクシナダにしてもエルンストには多少手を焼いている。
唯一の強大な敵がまた動こうとしているのだ。
両国ともに神経質にならざるをえないかもしれない。
まあ、僕には関係ないが。
僕は僕で勝手に動くだけだ。
「と、いうわけで。僕は出るぞアベル」
「おい待て、まだ話は終わってない」
「ん?なんだよ」
「実は今回、クシナダからも傭兵団が派遣されている」
「ふーん、そうなのか。別に興味ないけど」
そう、今回エルンストの奴らが現れ、恐らく戦場になろうである場所はリーンブルグとクシナダの国境付近である。
これはリーンブルグだけの問題ではない。
だけど僕には関係ないと思うが…
「現地にはその傭兵団も向かわせる。お前にはそれに同行してもらう」
は?
「は?」
待て待て待て。
どういうことだ?
「おい、それは少しおかしいんじゃないか?」
「何がだ?」
えー………
そして僕はため息をついたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
拙い文ながらゆっくり細々と更新していく所存でございますので何卒よろしくお願いします。