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或る恋の話をしようか 1821年

作者: 篁 霞流

「ねぇ、どうしてそこまでするの?」

「そうしたいから、ではダメでしょうか?」

困ったように言う彼から私は目をそらす。

「もし、私が、死んでほしいと言ったらどうするの?」

「死ぬでしょう」

「死んじゃダメって言ったら?」

「貴女が生きているその時まで決して死ぬことのないようにするでしょう」

「ついてきてっていったら?」

「地の最果てまでお供します」

矢継ぎ早な質問に動じない彼に、無性に腹が立って、思いついた意地悪をぶつける。

「じゃあ……ついてこないでって言ったら?」

「ついていかないでしょうね」

自分が望んでいなかった答えを真正面からぶつけられて心が竦んでしまった私をまっすぐに見つめる瞳。

「けれど、そうおっしゃらないことを私は知っております」

「……本当に?」

「はい」

短い答えがなんだかむかつく。

けれど、ひどく安心する。

「あなたって女ったらしね」

投げつけた嫌味を、彼は首をかしげて受け取った。

「絶対に言ってあげないんだから」

宣言したら不敵に微笑まれたけれど、それはそれで楽しかった。






「ねぇ」

「はい?」

「外って広いのかしら?」

「広いのではないでしょうか」

「あら、あなたでも知らないことがあるのね」

「貴方が見えていないものを、見ることなど出来ませんので」

「うそよ、あなたはいつも見て、守ろうとする」

「はい、嘘です」

素知らぬ顔して答える。

ポンポンと軽快に跳ねまわる会話は、彼との間だけ気持ちがいい。

「そうなの?」

「いえ、やはり本当です。……見たくもないもので」

「本当に?」

「はい、本当です」

「安心ね」

「はい、安心です」

「……私以外はいらない?」

「はい」

疑う気持ちはあるけれど、真実を知っている心は平静を保ったまま会話を途切れさせた。








「ねぇ、どこが好き?」

「全てがと申し上げては不満でしょうか?」

「不安なだけ」

「……呼ばれる瞳が、呼ばれる声が、呼ばれる想いが、」

「それって、単に呼ばれたいだけじゃない」

「呼ばれる事以上の喜びを知りませんので」

「だれでも?」

「まさか、です」

彼の声はいつだって私を平穏に導く。









「やっぱり広いんですって」

「そうですか」

「やっぱりついてきてくれる?」

「望まれるのであれば」

「明日も明後日も?」

「望まれる時まで」

「明日出るの」

「では、そのように」

そうして、私は森に出た。









「ねぇ?」

「はい」

「もったいないわ」

「そうでしょうか?」

「私は、あなたを腐れさせている」

「においますか?」

「甘いわ」

「では、発酵というものかもしれません」

「使わなければ何の意味もないのよ?」

「存じております」

「だったら……」

「私にとって重要ではないので」

「何が大事?」

「使いたいと思える相手にございます」

「私は大丈夫?」

「甘いかと」

私は結局、甘やかされた。









「ねぇ、私の事好き?」

「はい、とても」

「後悔する?」

「後悔してはいませんが」

「そんなことは知っているわ。これからもしない?」

「断じて」

「ならいいわ。永遠にそうでいて」

「はい」

そうして、私は心を安定させる。









「ねぇ、とっても眠いの」

「では、そのように」

「落ちていくの」

「では、掴んでいましょう」

「怖くはないのよ?」

「では、見守るだけに」

「ねぇ?」

「はい」

「今度は、同い年がいいわね」

「なぜ?」

「私の意地も、貴方の遠慮もない方がいいわ」

「そうかもしれませんね」

「ウソツキ」

「なぜです?」

「未来なんて信じていない癖に」

「はい」

「軽々しく言わないで」

「もし、未来があるなら貴方の傍で。必ず、と誓いましょう」

「そう?……まぁ、いいわ。貴方、約束だけは守るもの」

「はい」

あぁ、とても眠い。

彼の体温も彼の声も彼の雰囲気も、眠い。




「ねぇ」

「……」

「愛しているわ」




「遅すぎるような気も致しますが……よしとしましょう」

はるか昔の賭けに勝った男は小さく微笑んだ。

それから、ちょっと泣いて。

約束を果たすためにキスをして。



「願わくば、ともにあらんことを」

横に寝転んだ。

続きを思いついたらシリーズで投稿してみます。

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