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LIGHT 8:四天王アラキモデウス(1)

 2月某日。

 勝利と瑛子は学校の屋上でお昼の時間を過ごしていた。

「……さみぃ」

 勝利が体を縮めて呟いた。隣りに座っている瑛子は何食わぬ顔で、空になった弁当箱を片付けた。

「何でこの寒い時期に屋上なんかで食べるかなぁ?」

「あたしがここを好きだから。嫌なら断ればよかったじゃない?」

 瑛子が口を尖らせた。

 屋上の床はコンクリートでひんやりとしている。空気も冷たく、風がないのが不幸中の幸いだ。勝利は寒いのが大の苦手なのだ。

「ヒーローが寒いのが苦手って、何だか笑っちゃう」

「うっせぇよ。ヒーローって言っても、俺も普通の人間なんだよ」

 そうだね、と瑛子はにこりと笑った。勝利はぴったりと瑛子に寄り添い、頭を瑛子の肩に乗せた。勝利の貴重で大切な、一時の安らぎだ。

 しかし、そんな安らぎの時間が終わってしまうことに勝利は気が付いた。ふいに立ち上がった勝利を瑛子は見上げた。

「お仕事?」

「そうみたいだな……」

 勝利は制服のズボンに付いた埃を払った。瑛子も立ち上がり、勝利の隣りに並んだ。

「気をつけてね」

「おぅ」

 そう答えた勝利は、瑛子の額にキスを落とすと、あっという間に白い光に包まれて姿を消した。

「勝利……気をつけてね」

(何だろう、嫌な予感がする……)

 瑛子はぎゅっと、両手を胸の前で組んだ。




(ワルーモノの気が強い……ここらへんかな)

 勝利はゆっくりと空から地面に足を着けた。辺りは見通しが良く、緑に囲まれた広場のようだ。ここなら、どこにワルーモノが現れても容易に見つけることが出来る。勝利は周囲に目を配った。

 ――あれ以来。瑛子が倒れて無事に退院した日以来、勝利は木山所長と顔を合わせていない。毎月のメンテナンスのために、研究所を訪ねることはあったが、木山所長も顔が合わせずらいらしく、勝利がやって来ると奥の部屋に隠れてしまう。

(じっちゃんの言ってること、本当は分かるんだ。でも俺は瑛子を守りたいから……)

 勝利は神経を集中させたまま、瑛子と木山所長のことを考えた。

 木山所長は、瑛子とワルーモノは何らかの繋がりがある……と考えている。それは初めて言葉を話すワルーモノ、四天王リヴァウスが現れたのがきっかけだった。

 リヴァウスを目の前にした瑛子は一時的だが、人が変わった。最初は生まれ初めてワルーモノを見たショックだと思っていたが、検査のために入院した病室でこのような言葉を呟いていたという。


――ワルーモノが再び地球を手に入れる――


 勝利もあのときの瑛子の異変には驚いた。けれど、退院してからの瑛子の調子は順調で、何も心配することはなかった。

(そうだ、やっぱりワルーモノに近付きすぎたせいなんだ。俺がしっかり瑛子を守っていれば何の問題もないんだ)

 勝利は邪念を振り払うように頭を横に振った。

 それにしても、ワルーモノが一向に現れる気配がない。ただワルーモノが発する気は感じている。勝利はしばらくじっと動かずにいたが、何かに気が付きはっとした。

「軍がいない……?」

 そうなのだ。いつも真っ先に駆け付けているはずの日の丸軍隊がいない。

 その理由に、このワルーモノの気配に気が付かない、ということは当てはまらない。何故なら、木山研究所がワルーモノが発する電波を感知し、軍隊の本部に知らせが入るようになっているからだ。だから、軍が気が付かないということはない。だとしたら、木山研究所が?

(じっちゃんに限ってそんなこと……。こんなに大きな電波なんだ、気が付かないわけがない)

 だとしたら何なんだ? ワルーモノはどこにいる?

 勝利の神経にさらに緊張が走った。もしかしたら、すでにワルーモノは近くにいて、こちらの出方を窺っているのかもしれない。

 用心に越したことはないと、勝利は無闇に動くことをやめた。その場でじっとしていれば、そのうち向こうから姿を現すだろう。

 この勝利の考えが的中した。しばらくしてゆらりと周りの風景が歪み、だんだんと真っ暗な世界に変わっていった。

「結構、頭がいいみたいじゃねぇの?」

 勝利の前方から声が聞こえた。いやにねちねちした声だ。勝利は眉をひそめた。

「お前は?」

「俺の名前は四天王ベルガ」

(四天王だって?)

 勝利の額に冷や汗が流れた。当たりたくなかった敵に当たってしまったようだ。次第に暗闇に目が慣れ、勝利の両目が四天王ベルガの姿を捕らえることが出来た。

 人間の姿によく似ている。歳は14、5歳といったところか。ただ手足など細かい部分は人間に似ても似つかない。岩のようにごつごつしているように見える。ときどき、ベルガの両耳に付けられている金属の装飾品がカチンと音を響かせた。

「ふぅん。あんたがリヴァウスの子どもを倒したって? そうには見えねぇなぁ」

「子ども? どういう意味だ?」

「お前、何も知らないでオレ達と戦ってたわけ? バカらしい」

 ベルゼはくっくと笑った。

「リヴァウスの次はお前が相手ってわけか」

 勝利はぐっと腰を落としてベルゼを真正面から睨んだ。ベルゼは大きな赤い瞳を細くして、

「残念だけど今回はオレじゃねぇ。今のお前がオレの相手をするなんてバカらしい。……おい、そろそろ出て来いよ」

 と、くいっと後ろを振り返った。するとベルゼの背後から、激しい鼻息の音が聞こえた。何かがいるようだ。それも、とても大きな何かがいる。

(この感じ……もしかして新しい四天王か?)

 だらだらと勝利の額には大量の汗が流れた。まさか同時に、二人の四天王に遭遇するなんて……。勝利はぎゅっと構えた拳に力を入れた。

「お、お前が、地球の光かぁぁ……」

 ふごぉぉっと荒い鼻息の音を引き連れて現れたのは、勝利が想像していたよりも遥かに大きなワルーモノだった。

(な、なんだこいつ。有り得ない、こんなでかいワルーモノは初めてだ)

「驚いたか。お前がこれから相手をするのはこいつ、アラキモデウスだ」

 ベルゼはそう言うと高く飛び上がり、四天王アラキモデウスの肩にちょこんと座った。

「アラキモデウス、ここでなら思い切り暴れられる。お前みたいな図体のでかい奴が地球に降りただけでぶっこわれちまうからな」

「そ、そ、そうなのか? ここでなら大丈夫なのか?」

 独特な声をしたアラキモデウスは、大きな口から涎を垂らしながら笑った。その表情は目を背けたくなるぐらい、卑しく下品なものだった。

 アラキモデウスは見た目からしても、知性が全く感じられない。巨大な体に立派な角を持ちながら、どこか気弱な感じが受け取れた。それはきっと奴のどもり癖のせいだろう。

「よ、よぉし。オレがお、お前を倒して、ワルーモノ様に、ほ、褒めてもらうぞぉ」

 アラキモデウスは両手を高らかに上げて、天に向かって吠えた。その尋常じゃない声に勝利は思わず耳に手をやった。その鳴き声は世界が壊れてしまうほどの声量で勝利は唖然とした。ベルゼの言うとおり、アラキモデウスが地球に降り立っただけで、地球にひびが入り簡単に壊れてしまいそうだ。

(……勝てるか?)

 勝利はアラキモデウスを仰ぎ見た。とてもじゃないが、簡単に勝負がつきそうな感じではない。今までのワルーモノとは強さの次元が違う。

(けど俺がやらなくて誰が瑛子を守る?)

 勝利の瞼の裏に瑛子の笑顔が見えた。とても暖かで、とても愛しい。……そうだ、俺は瑛子を守ると決めたんだ。勝利はぱんっと頬を叩いて気合いを入れた。

「アラキモだか何だか知んないけど、地球を狙う奴は俺が許さねぇ」

「ぐふっ。ち、小さなお前に、何が出来るのかなぁ?」

 アラキモデウスが肩を上下に動かして笑った。

「小さな光、バカらしいけどお前らの言葉で言うと、今日がお前の命日ってやつだな」

 アラキモデウスの肩に座っていたベルゼはそう言い残すと、すぅっと奴の体が周囲に解けて消えた。

「じゃ、じゃあ、さっそくやるぞ」

 アラキモデウスがぐっと両腕に力を入れて構えた。

 ――こうして四天王アラキモデウスとの激しい戦いが始まった。

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