LIGHT 3:四天王
この回で四天王が全員登場します。名前が片仮名なので、読みにくいうえに、覚えにくい……かもです。覚えやすいように作ったつもりなのですが……心配です(¨;)
そこはとても暗かった。
光など届かない、永遠の闇がその場所を包んでいた。
ここは地球から遠い星、ダーズ星。ワルーモノたちがいる星だ。ダーズ星は緑や青といった、鮮やかな色はなく黒一色の星だ。
この星の頂点に立つもの、それがワルーモノだ。ワルーモノには四天王と呼ばれる4人の高度な知識と力を持つ者がいる。その四天王の下にいるのが、地球で暴れまわる手下の奴らだ。
「ワルーモノ様……」
四天王4人の中で最も品があり、誰よりもワルーモノを慕う四天王リヴァウスが、暗闇のなかでポツリと口にした。ギラリと鱗の尻尾が鈍く光った。
「ここにいたのですか」
リヴァウスははっとして振り返った。
リヴァウスの後ろには、青白い肌の色をした四天王ルシガルがいた。ルシガルはワルーモノたちのなかでも、地球の人間に近い姿をしており、黒のマントをいつも身につけている。この星自体が暗闇だというのに、ルシガルは全身黒ずくめの格好なので、青白い肌がくっきりと見える。切れ長の目で、鼻筋が通っている。
「何しに来た?」
リヴァウスは少し不機嫌になった。ルシガルはくすくすと笑った。
「そんなに嫌な顔をしないでください。私達は同じ四天王の仲間ではありませんか」
ルシガルはすっと手を広げて見せた。
(何が仲間だ。私は信じない……)
リヴァウスはふんっと顔を横に振った。そしてルシガルの横を通り過ぎた。すると、パシッとルシガルがリヴァウスの腕を取った。
「! 何をするっ」
「今から四天王だけの会議を開きます。王の間にお越しください」
「離せっ」
リヴァウスはルシガルの腕を払った。ルシガルはにやりと笑い、その場から一瞬にして消えた。リヴァウスは、カッとなってしまったせいか、はぁはぁと肩で息をしていた。
王の間。
ここはダーズ星の頂点である、ワルーモノがいる部屋だ。
部屋はとても広いのだが、やはり暗い。一応の灯りは所々にあるのだが、あまり意味がない。その灯りは輝かしいものではなく、軽く息を吹きかけてしまえば、簡単に消えてしまう程の明るさだ。
リヴァウスが部屋の頑丈なドアを開けた。ぎぎぎ……と重たい音が、今歩いてきた冷たい廊下に響いた。
「ま、待ってたんぜ」
一番にリヴァウスに声をかけてきたのは、四天王アラキモデウスだ。とても大きな図体の持ち主で、立派な2つの角を生やしている。瞳は血のように赤く、鼻息が荒い。また、口からは鋭い牙が見え、いつもだらしなく唾液がこぼれている。
「私で最後か?」
「いや、まだアイツが来てねぇよ」
アラキモデウスとは違う声が部屋の柱の影から聞こえた。そこから出てきたのは、最後の四天王ベルゼだ。
ベルゼはひたひたと裸足で床を歩き、リヴァウスの隣に並んだ。姿はルシガルと同様、地球の人間によく似ている。人間で言うならば、14、5歳の少年のようだ。ただ、手足は苔のような深い緑色で、瞳はアラキモデウス同様、真紅に染まっている。両耳は尖っていて、耳たぶにはいくつもの装飾品があった。
「招集かけておいて、当の本人が遅刻? バカらしい」
ベルゼはけっと唾を吐いた。リヴァウスは眉間にしわを寄せた。
「ベルゼ、ここは王の間だ。そのような態度は……」
「王の間? 王なんてどこにいるんだよ。バカらしい」
ベルゼの変わらない態度に、リヴァウスはベルゼの首根っこを掴んだ。
「四天王とはいえ、ワルーモノ様を侮辱する者は許せん! 私がワルーモノ様に代わり、貴様を闇に葬ってやる!」
リヴァウスが片手を頭上に上げたとき、
「喧嘩はみっともないですよ」
と、四天王ルシガルが現れた。一瞬体の動きを止めたリヴァウスの隙を見て、ベルゼはひょいっとリヴァウスの手から離れた。
「おー怖っ。そんなに怒るなよ、リヴァウスの姉ちゃんよ」
ベルゼはくっくっと笑った。リヴァウスはますます頭に来て、ベルゼを捕まえようとした。しかし、それをルシガルが制した。
「ここに呼んだのは、喧嘩をするためではありません」
「じゃ、じゃあ何のために、あつ、集まったんだ?」
どもり癖のアラキモデウスがルシガルに聞いた。いがみあっていたリヴァウス達は、しんっと黙ってルシガルの答えを待った。
「それは『地球の希望の光』のことです」
リヴァウスがぴくりと反応した。
ルシガルはこつこつと履いているブーツの音を響かせて、3人に背中を向けた。ルシガルはちょうど部屋の真ん中に立った。そして黒マントから、青白い肌の手のひらを床に向けた。すると、ルシガルの足元の床が割れ、地下から大きな水球が現れた。コポコポと水球の中に気泡が溢れていた。その水の固まりを見て、四天王たちは一斉に膝をつき頭を下げた。
「我らが王、ワルーモノ様」
ルシガルがそう言葉にすると、水球の中の気泡が返事をするようにコポコポと音を立てた。
水球の中心に足を腕の中に折り畳んで浮いているのが、ワルーモノだ。今は眠りについていて、水の球に守られている。
「ワルーモノ様がお目覚めになるには、我らが母『コア』が必要だ」
ルシガルが3人に振り向いた。分かっている、とリヴァウスは強い口調で答えた。
「そ、そそ、そのためには、あ、あの光はじゃ、邪魔なんだ」
アラキモデウスが王を目の前にしているせいで、いつもよりどもっていた。そんなアラキモデウスを見て、ベルゼがけっと悪態をついた。
「リヴァウスから見て、その光はどのような者なのです?」
ルシガルがリヴァウスに聞いた。リヴァウスは勝利との出会いを思い出した。
「あんな小さな光、我らの邪魔にさえならん」
「そうですか。あなたがそう言うのなら、大したことはないのでしょう」
「で、で、でもよぉ」
大きな体の割に小心者のアラキモデウスは、不安の色を表に出した。
「ま、まん、万が一っていうのも、あ、あるんじゃないか?」
アラキモデウスの不安を悟ったベルゼが、アラキモデウスの膝をパチンと叩いた。
「おっまえ、図体デカイ割にぐちぐち言うなよ、バカらしい」
「まぁまぁ、落ち着いてください。アラキモデウスの言うことも分かります。どんなことがあっても、自分の力を甘く見てはいけません。全ては王ワルーモノ様のため。失敗は許されないのですから」
他に変わったことは? と、ルシガルは目線をベルゼ達からリヴァウスに移した。リヴァウスはしばらく考え、はっとした声をあげた。
「あの娘……」
「娘?」
ルシガルがぴくりと眉を上げた。リヴァウスは瑛子のことを思い出していた。
(あの娘、どこかで見たことがあるような……)
「どうしたのです?」
「美味そうな娘がいたのか?」
ベルゼが卑しい笑みを浮かべた。リヴァウスはむっとして、
「何でもない。私からは以上だ」
と答えた。
「とにかく」
ルシガルは3人を見回した。
「母『コア』を見つけ、ワルーモノ様に捧げるのです。そうすれば、あの青い地球は我らの手に戻るでしょう」
ルシガル、リヴァウス、アラキモデウスはこくっと頷きあった。ベルゼだけは、バカらしい、と風のように王の間から姿を消した。