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LIGHT 11:吹き返す光

 そこは真っ暗な闇が続いていた。

(ここは……?)

 勝利はゆっくりと目を開けた。何も見えない、光のない世界だった。

(そうだ、俺死んだんだ)

 勝利はワルーモノ四天王アラキモデウスと戦い、アラキモデウスの巨大な足で踏みつぶされた。それ以降の記憶が全くない。目が覚めたらこの異世界にいたのだ。

(ここが死後の世界ってやつ? 何だか辛気臭いなぁ)

 勝利はふっと苦笑いをして、また目を閉じた。

(もう終わったんだ……地球はもう)

 勝利の瞼の裏にぼんやりと瑛子の顔が浮かんだ。瑛子の笑顔を見ていると、つられて勝利の頬が緩んだ。

「瑛子、ごめんな。結局お前を守れなかった。怒ってるだろ?」

 瞼の瑛子は返事をしない。ただにっこりと笑っている。そんな瑛子を見て、もう二度と瑛子に逢えないことを改めて知った。勝利の目に涙が光った。

「……くそぉっ」

 頬を伝う涙を手の平で拭う。地球を守れなかった、瑛子を守れなかった悔しさが涙になって溢れて零れた。

「くそぉぉぉっ!」

 ――出来る事なら。願いが一つだけ叶うなら。もう一度、地球を守るために俺に力を……地球の希望の光を!

 そう強く願ったときだった。勝利の愛する少女の声が勝利の耳に届いた。勝利は驚いて目を開けた。

「……瑛子?」

 紛れもなく、そこに立っていたのは瑛子だった。しかしどこか様子がおかしい。瑛子のようで瑛子ではない、別の誰かのような雰囲気を感じた。

「地球の希望の光。再び我と共に立ち上がれ」

 そう言った瑛子はすっと人差し指を勝利に向けた。すると真っ暗だったこの世界に白い光がぽつぽつと現れた。それは始めは弱々しい光だったが、数が増え始め、闇しかなかったこの場所が光で溢れるようになった。暗闇に慣れていた勝利は思わず目を閉じた。

「こ、これは……地球の力」

 今まで空っぽだった勝利の身体にみるみると力が沸き上がっていく。勝利の願いが通じた瞬間だった。

 力の充電を完了した勝利は瑛子を抱き締めた。

「瑛子、お前は……」

 勝利に抱かれるまま、瑛子は何も話さなかった。何かに取り憑かれているように瞳はどこか虚ろで、自分の意志を奥底に隠してしまっている。それでも勝利は瑛子に話しかけた。

「瑛子、ありがとな。俺もう一度頑張るから、頑張るからさ。……元の瑛子に戻ってくれよ」

「……この戦いが終われば、全て話そう。ワルーモノのこと、地球のこと、そして……瑛子のことを」

(瑛子、お前はじっちゃんの言う通りだったんだな)

 瑛子の言葉を聞いて、勝利の頭に木山所長の言葉が浮かんだ。


――瑛子ちゃんは何かしら母『コア』と関係があるのかもしれん――


(俺も男だ。何聞いたって驚かない……)

 ふぅと一息ついた勝利は、

「分かった。全部話してくれ」

 と、ぎゅっと瑛子を抱き締めている腕に力を込めた。

 それを聞いた瑛子が短い呪文を唱えると、光溢れていた世界から、ベルゼ達のいる元の世界に一瞬にして戻ってきた。




「ひ、ひか、光っ」

 アラキモデウスが甦った地球の光を見て慌てた。

「なな、ななな……」

「ちったぁ、落ち着けよ。あの娘のせいだよ。……やっぱり食っておくべきだったか、バカらしい」

 ベルゼが短く舌打ちをして、再び立ち上がった勝利を見た。どことなく自信に溢れているように見えた。明らかに初めに見た時と印象が違う。

(……一旦、引き返すか?)

 ベルゼはぴょんっとアラキモデウスの肩に飛び乗った。

「一旦引き返すぞ」

「どう、どうして?」

「バカ、よく見てみろ。あの光は今までの光じゃないし、あの娘もおかしい。俺の考えじゃあ、あの娘は……」

「でも……」

 アラキモデウスがもごもごと言葉を濁した。その顔はいたずらが見つかってしまった三歳児のようだ。ベルゼが、けっと悪態を吐いてアラキモデウスを急かした。

「でも、ル、ルル、ルシガルにおこ、怒られる……かも」

「ルシガルなんか怖くねぇよ。それに怒られることはねぇ。こっちは新しい情報を手に入れたんだからな」

 そうアラキモデウスに耳打ちして瑛子を見た。瑛子もベルゼの視線に気付き、きっと睨みかえした。

「さっきはよくもやってくれたな」

 勝利がゆっくりとアラキモデウスに近付いた。ゆらりゆらりと歩く今の勝利の姿に、ベルゼとアラキモデウスは背筋が凍った。

「な、なんで俺がこんなプレッシャーを……」

 ベルゼは冷や汗を流しながら、急いでぱちんっと指を鳴らした。すると、風船が割れるような音が響いたと同時に、まわりの風景が元の地球の風景に変わった。ビルが立ち並び、スーツ姿のサラリーマンがせかせかと歩いている。

「え、ええ?」

 勝利は思う存分、戦うつもりでいたので、急に目に飛び込んで来た渋滞中の車や、人々の往来に頭がついていかなかった。すると、後ろから瑛子の声が聞こえた。

「四天王達は星へ帰ったみたいだ」

「瑛子……」

 勝利はすっかり別人の瑛子を見て胸が痛んだ。

「時間がない。ひとまず全てを話そう。どこか話す場所はあるのか?」

「あ、えっと、じっちゃんの研究所だったら大丈夫だと思います」

 勝利は瑛子と一緒に木山研究所へ向かった。




「あなた方が地球の光の同志か?」

 木山所長と南は、見た目は変わらないのに、口調と態度が変わってしまった瑛子に目を丸くした。勝利は瑛子の後ろで溜め息を吐いた。

「これは……どういうことかのぉ?」

 木山所長は開いた口が塞がらない。勝利は南にお茶を用意してくれるよう頼み、

「じっちゃんの言ってたことが本当になったんだよ」

 と、少し不機嫌な雰囲気を出して椅子に座った。




「まずは何を話そうか?」

 話を切り出そうとする瑛子を置いて、とりあえず、勝利と木山所長、南の三人はお茶を飲み一息ついた。

「何が何だかさっぱりじゃ」

「ええ、私もです」

 南がふぅと溜め息を吐いた。勝利は黙って椅子に座っていた。

「勝利、説明してくれないか?」

 木山所長が勝利に促した。勝利は一口、熱いお茶を飲み、四天王アラキモデウスと戦ったことから今までのことを話した。

「空間を操る四天王か……これはまた特別な力を持った奴等じゃな」

 木山所長がうんと唸った。

「にしても、一度死んだなんて……そして生き返っただなんて信じられない話だわ」

 南がまじまじと勝利を見た。勝利は少し恥ずかしくなって目を伏せた。

「そしてその暗い世界に瑛子ちゃんが現れたんじゃな?」

 勝利はこくんと頷き、瑛子を見た。三人の視線が瑛子に集まった。

「そうだな。私のこと、瑛子のことから話そうか」

 瑛子は一息ついて、勝利達の顔に目配せをして口を開いた。

「私はこの地球の光の源……母『コア』と呼ばれるものだ」

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