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【コント台本】「ラヴクラフト然」集(仮)

作者: 熊と塩

この作品は脚本としての体裁を取った舞台・声劇用のコント台本です。

また、万人にとって不快、或いは愉快でないと思われる内容が含まれますので、ご注意下さい。

  「ラヴクラフト然」集(仮)


○登場人物


(名前は仮のものである。役者の名等に変えても良い)


・工藤ルウ(男)

  大学浪人生。友人の阿倍を自宅に招待し、得意の料理を振る舞うのが通例となっている。

  性別変更可能。


・阿倍ドル(男)

  社会人。友人である工藤の家を頻繁に訪れる。給料が安いらしく、料理が下手なので毎週工藤の家で夕食を馳走になるのが習慣。


○注意


  劇中聞き慣れない固有名詞やカタカナ文字が頻発するが、それらは登場人物らにとって日常的な単語である。


○本編


○シークエンス1


  阿倍、寒そうに地団駄を踏みながらインターホンを鳴らす。

工藤「はいはい、はーい」

  工藤、ドアを開ける。 

阿倍「よっ」

工藤「あ、いらっしゃい」

  阿倍、肩を抱いて玄関に入る。

阿倍「ふう、寒かった。薄着で出てきて失敗だったよ」

工藤「だろうなあ。十月だってのに冬日だもんな。風邪引く前に上がって上がって」

阿倍「うい、じゃ、お邪魔しまーす」

  工藤と阿倍、居間に行く。阿倍、すぐさまコタツへ。

阿倍「あー(年寄りじみた声音で)生き返る」

工藤「死ななくて良かったよ。ちょっと待ってて、すぐ料理出すから」

阿倍「おっ、有り難い」

  工藤、舞台袖キッチンに消える。

  舞台暗転。阿倍にスポット


阿倍(独白)「俺の名は阿倍、アイツは工藤。高校時代からの友人である。今日もいつもの如く、工藤の特技である料理の相伴を預かりに来たのである」


  舞台照明入。スポット切。

  工藤、舞台袖から盆を持って戻る。

工藤「お待たせー」

阿倍「待った待った。今日はどんなのを作ったんだ?」

  阿倍、期待して手を擦り合わせる。

工藤「阿倍の好きな、ダゴンとハイドラの、深きもの盛り」

  工藤、阿倍の前に皿を置く。

阿倍「おお! アザトース! でもお前の事だ、もっと手の込んだモンもあるんだろ?」

  工藤、誇らしげにする。

工藤「ふふん、秋らしくナス=ホルタースを使った料理だよ」

阿倍「そりゃいい!」

  工藤、もう一つ深めの皿を置く。

工藤「ナス=ホルタースのタマシュ」

阿倍「うわっ、うまそー。俺、食った事無いなコレ」

  工藤、阿倍の向かいに座る。

工藤「マジ? ドリームランドあたりじゃ一般的な料理なんだけど」

阿倍「知らなかった。どんな味なんだ?」

工藤「んー、味付けにカマン=タを使ってる」

  阿倍、やや不安げに。

阿倍「じゃあゾ=カラールなんだ?」

工藤「そう。でもほんとにちょっとだよ」

阿倍「どれくらい?」

工藤「そうだなあ、ライダーカレーくらい」

阿倍「ああ、そのぐらいのゾ=カラールなら安心だ」

  阿倍、ほっと胸をなで下ろす。

工藤「甘党だもんね。その辺は抜かりない」

阿倍「お見それしました。で、どう作るんだ?」

工藤「うん。まずね、ナス=ホルタースをコスの」

  阿倍、心底驚く。

阿倍「コスの?」

工藤「うん、コス。それがスープになる。で、ロボンで炒めた具材に和えたら、出来上がり」

阿倍「簡単そうに言うけどな、結構大変だったろ、コスの」

  工藤、照れ笑い。

工藤「ま、いいから食べてよ」

阿倍「そうだな。じゃ、いただきまーす」

  阿倍、スプーンを皿に入れる。そこでふと気が付く。

阿倍「あれ、この肉……ひょっとして、ボクルグ?」

工藤「あ、気付いちゃった?」

阿倍「おいおい、いいのかよ? 今高いんだろ、ボクルグ?」

工藤「まあねえ。でも本場カダスじゃ当たり前に入ってるから、外せなかったんだよね。それに外世界からの漁師が割と安く売ってくれたし」

阿倍「えー、でもなんかワリィよ」

工藤「まあまあ、気にしないで食べてよ」

阿倍「そうか?」

  阿倍、申し訳なさそうにスプーンを口に運ぶ。む、と微妙な顔をする。

工藤「どう?」

阿倍「う、うん。美味いよ」

工藤「そういう顔に見えないな。正直な感想言ってよ」

阿倍「言って、いいの?」

工藤「僕も普段作らないからね」

阿倍「そう? じゃあ、言うけど……」

  阿倍、首をひねる。

阿倍「なんと言うか、名状しがたいんだけど、何か物足りないような……」

工藤「あっ! 下ごしらえのナシュトが足りなかったのかも」

阿倍「それだよ」

  阿倍が工藤を指差し、工藤は額に手を当てて落ち込む。

阿倍「確かにそんな感じだわ。ちょっと味にしまりが無いんだよなあ」

  工藤、心底落ち込む。半泣き。

工藤「ごめん……あんまり使うと、ゾ=カラールなっちゃうと思って……」

  阿倍、工藤の顔色を見て、あ、と勘が働く。

  そして二口目、三口目を口に運ぶ。

阿倍「うん、でもさ、美味いよ! 食ってて飽きない味だね、うん! まるで口の中で宇宙からの色が広がるみたいだよ!」

  美味い美味いとがっつく阿倍。工藤、それを上目遣いに見る。

工藤「……そう?」

阿倍「当たり前じゃん! お前の作ったものは全部美味いよ」

  工藤、半信半疑ながら立ち直る。

工藤「そっかー、よかった」

  阿倍、しきりに頷く。

工藤「そうだ。食後のデザートにガタノトーア買ったんだ。取ってくるね」

  工藤、立ち上がる。

  阿倍、頬いっぱいに詰め込んだまま頷く。


  舞台暗転。工藤にスポット。


工藤(独白)「阿倍はいつも優しい。僕の料理が失敗作だって、いつも美味しい美味しいと言って食べてくれる。僕はいつもその優しさに甘えているけれど、今は、それが胸を切り裂く程辛かった」


  スポット切。


○シークエンス2


  舞台照明入。

  タマシュの皿を平らげた阿倍。そこへ小皿を二つ盆に載せた工藤が戻る。

工藤「あ、もう食べたの?」

阿倍「おう、美味いから一気に食っちゃった。今から深きもの盛りに手を付けるところ」

  工藤、皿を阿倍と自分に置きつつ座る。

工藤「ダメじゃないか、食事の基本は三点食いだよ?」

阿倍「いいんだよ、飽きなけりゃ。な、ヨグ=ソトース取って」

工藤「もう……」

  工藤、コタツ端の容器(醤油差し)を取って、阿倍に渡す。

阿倍「アザトース」

  阿倍、深きもの盛りの皿にヨグ=ソトースを掛け、箸で一切れ頬張る。

  そしてふと思い立ったように言う。

阿倍「あ、テレビ付けていい?」

工藤「いいけど、映画?」

阿倍「そうそう、『砂に棲むもの』ってタイトルなんだけど、知らねえ?」

  工藤、頭を振る。

  阿倍、興奮気味に身を乗り出す。

阿倍「あのな、アメリカ・マサチューセッツ州アーカムの探検隊が、砂漠の遺跡を発掘しに行くんだよ。で、ひょんな事から古きものどもを蘇らせちゃうワケ」

工藤「うんうん」

阿倍「で、一緒に蘇ったナイアーラトテップって悪ーいヤツがさ、えげつない事するんだよ。空飛ぶポリープに人を襲わせたりさ。まあそのへんのVFXがショゴスってとにかく話題になってさ」

  話しながらテレビの電源を入れ、画面(舞台手前・観客側)を見る阿倍。

  するとテレビに映ったのは丁度濡れ場で、阿倍、あからさまに鼻の下を伸ばす。

  工藤、目を逸らす。

阿倍「すげえ(唾を飲む)やらしい狂気山脈してんな、この女優……うわ、この時間からダニッチ丸出しかよ! あわわ、何、この不穏なカメラアングル。来るのか? 来ちゃうのか? そっちがイグんかい! くっそーエロいなー……くぅ……(画面を指差し)ショゴス! あー、俺もラヴクラフトしてえ……」

  阿倍、下唇を噛む。


  間。


  携帯電話の着信音(工藤)『テケリ・リ! テケリ・リ!』


  工藤、電話に出る。

工藤「もしもし?」

  阿倍、慌ててリモコンでテレビを消す。

  同時に、舞台暗転。


○シークエンス3


  照明入。


阿倍、体を仰け反らせて腹をさする。

阿倍「ふー、食った食った。ごちそーさまでした」

工藤「お粗末様でした」

  阿倍、体を起こす。

阿倍「いあいあ、工藤! 粗末なものじゃあ決してなかったぞ」

工藤「そう? ありがとう」

  工藤、恥ずかしそうに皿を片付け始める。

  阿倍、食後の余韻に浸りながら何気なく横に目をやって、何か見付ける。

阿倍「あれ? なにか飼い始めた?」

  小さなケージを引き寄せ、覗き込む。

阿倍「なに、コイツ? 真っ黄色してるけど……」

工藤「うん、ハスター」

阿倍「ハムスター?」

工藤「ハスターだよ」

  阿倍、へぇ、と頷く。

阿倍「あ、ネクロノミコン全巻揃ってんじゃん」

  阿倍、ゲージの横にあった文庫本の山から一冊手に取る。

工藤「うん、本屋さんで見付けて思わず」

  阿倍、本を戻してから部屋を見回す。

阿倍「そういや、この前来た時より色々増えてるな。そこの大きいイスも新しいだろ?」

工藤「うん」


  間。


  阿倍、少し姿勢を直し、工藤の目を覗き込む。

阿倍「……なあ、お前ちょっと、冒涜的な金使いじゃねえか?」

  工藤、ハッとして視線を逸らす。

阿倍「まさかお前、受験料に手付けたんじゃないだろうな?」

工藤「ノーデンス!」

  工藤、首を横に振りながらも、目を見開く。

阿倍「そのインスマス面……図星かよ」

  工藤、逡巡の末コクンと頷く。

  阿倍、やれやれと肩を竦める。

阿倍「毎週毎週飯食いに来てる俺が偉そうに言う事じゃないけどさ、お前の自由にしていい金じゃないだろ? 親からの仕送りじゃねえか。お前のシュブ=ニグラスさんになんて説明するんだよ」

工藤「……ごめん」

阿倍「だから、それは俺に謝る事じゃねえんだって」

  言って、溜息を吐く阿倍。

阿倍「……どうしたんだよ」

  工藤、しばし思い倦ねてから口を開く。

工藤「実は……諦めようと思ってるんだ、ミスカトニック大……」

阿倍「ハァ?」

  阿倍、思わず膝をコタツにぶつける。

阿倍「……お前、ずっと入りたがってたじゃねえかよ」

工藤「うん……でも、正直、僕じゃ手が届かないよ」

阿倍「馬鹿言えよ、まだ一浪じゃねえか、これからどうにでもなるだろ!」

工藤「だけど、僕……」

阿倍「おい、お前の夢だったんだろ? 簡単に諦めんなよ!」

  阿倍、身を乗り出し、今にも工藤に掴み掛かろうとする。

  工藤、声を張り上げる。

工藤「違うんだ!」

  阿倍、ぴたりと止まる。

  工藤、伏し目がちに言う。

工藤「違うんだ、ホントは、阿倍君と離ればなれになりたくなくて……」

阿倍「工藤、お前……」

  阿倍、ゆっくりと気まずそうに姿勢を戻す。

  そして意を決して、正座に座り直す。

阿倍「俺もお前に、言わなきゃならない事がある」

工藤「えっ?」

  工藤、顔を上げる。

阿倍「実は、俺も長期の出張が決まっちまってさ。何年か、ここを離れなくちゃいけない」

工藤「……出張って、どこに?」

阿倍「ルルイエ」

工藤「遠い、ね……」

  工藤、またも半泣きになって俯く。

  阿倍も沈痛な面持ちをするが、それを振り払う。

阿倍「でもさ! 俺達、離ればなれになったって、何年も会えなくなったって、それで終わる仲じゃないだろ? だから、だからさ……!」

  阿倍、キッと工藤を見る。

  工藤、顔を上げて阿倍を見る。

阿倍「行けよ、ミスカトニック。夢を叶えて、そしてまた会おう!」

工藤「う、うん!」

  阿倍、立ち上がる。

  工藤、立ち上がる。

阿倍「よーし! 俺達の絆は永遠だぜ、ミ=ゴ!」

工藤「そうだね! ミ=ゴ!」

  二人、握手してコタツ越しに抱擁しようとする。

  と、工藤が何かに驚いて飛び退る。

工藤「ギャー、クトゥルフ!」

阿倍「何ィ! 俺に任せとけぃ!」

  阿倍、ネクロノミコン最新刊を取る。

工藤「それはダメ!」

阿倍「じゃあこっち!」

  阿倍、ネクロノミコンを捨てて別のものを取る。

工藤「ナコト写本上巻! でもいいよ、いいからやっちゃってー!」

阿倍「おりゃ!」

  阿倍、床を叩く。

工藤「あー、逃げた! そっち行った!」

  阿倍、更に床を叩く。

工藤「ああ! 今度はこっち!」

  阿倍、コタツの上を叩く。

工藤「ああ! 窓に! 窓に!」

阿倍「ユゴス!」

  阿倍、渾身の一撃で仕留める。


  息を整えつつ、本をゆっくりとどける。

  阿倍、あれ、と眉を上げる。

阿倍「なんだ、ただのゴキブリじゃん」


  舞台暗転。


  終。

久々の更新がコレですか?

近頃クトゥルフ神話の造詣を深めたいと思っている熊と塩です。


いかがでしたでしょうか? いかがもクソもねーよ、と思われると思いますが。

クトゥルフ神話モノの台本! と思って読んでしまった方、誠に申し訳御座いません。

固有名詞と用語とネタを使った、ただの遊びです。クトゥルフ神話を全く知らない人にとっては「なんのこっちゃ」なものです。

つまるところ、上級者向けです。


敢えて全く関係の無いものに用語を当てはめていますが、いくつかはクトゥルフ神話における設定をなぞらえたものが混じっています。それとそのチョイスにもこだわりが。

その辺のネタもご理解頂けたら、何よりなのですが……。


拙いモノではありますが、演じてみようという奇特な方がいらっしゃったら、是非是非どうぞ。

許可等々必要御座いませんが、もし聞けるのであらば聞いてみたいと思うところです。ご一報下さると幸いです。


読了、ありがとうございました。

いあ! いあ! どくしゃ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分は対してクトゥルフ神話に造詣があるわけではありませんが、『名状しがたい冒涜的』な何かをこの台本から感じました。普通の日常会話のはずなのに……。SAN値ずいぶん持ってかれました。
2011/12/28 15:20 退会済み
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