鈴木と佐藤の番外編
僕の名前は木村。今日、数年ぶりに学校にくる。
いままで、学校にくる勇気をもてなかった。でも、あることがきっかけで学校に来る決心がついた。一度、生徒会の人たちに会ってみたい。生徒会長に会ってみたい。でも、だれが生徒会長かわからない。名前は……鈴木って人だ。
「あの、すいません。生徒会長ってどこにいますか?」
クラスメートに声をかける。クラスメートに向かって敬語というのもなんだか変な話だ。
「えと、多分二年の教室にいるんじゃないか?」
クラスメートも僕にどうやって接すれば良いのかわかっていないようだ。ごめんなさい……
「あれ? 生徒会長って二年生なんですか?」
僕は思いついた疑問を口にする。
「ああ、この学校はかなりユルいからね。生徒会役員も二人、いや三人だっけ? まあそんくらいしかいない」
「そうなんですか」
この学校でなら僕も、また新しい一歩を踏み出せそうだ。
「……あれ? お前、目見えないのか?」
クラスメートがたずねてくる。
「はい、幼いときに事故で……」
「へえ、もしかしてそれが原因でいじめられるとか思って学校きてなかったのか?」
鋭い。フラグたてまくり鈍感主人公なんかよりよっぽど鋭い。
「そうです……」
「ふふっ、バッカだなぁ。そんなことでいじめねえよ。少なくともこの学校の奴らはな」
「へえ……」
この学校はいい学校だ。なぜか、涙が出る。本当に、ここでなら僕は幸せになれる。やっぱりこのチャンスを、この勇気をくれた会長さんに会わないといけない。そして礼を言わなくてはいけない。
「すいません、二年教室まで連れて行ってくれますか?」
「ほら、ここが二年教室だ」
クラスメートがつれてきてくれた。あ、このクラスメートの名前は本田というらしい。
「会長、いますか?」
僕はおどおどしく二年の先輩に声をかける。
「いや、いない。たぶん校内をパトロールでもしてんだろ。あいつマジメだからな」
「へえ……」
やっぱり会長はいい人らしい。僕は男好きとかではないけど、惚れてしまう。いや、ラヴじゃなくてだよ!
「よし、木村。ちょっと校内をほっつき歩こうぜ」
「うん」
僕は本田くんにつれられ、校内をさまよっている。休み時間だというのに廊下にも生徒は少ない。
「あ、木村! すまん! ちょっと待っててくれ! すぐ帰る! 職員室行かないとダメだったんだ!」
「うん、大丈夫だよ。ゆっくりしといで」
「職員室にゆっくりはしたくないな……」
本田君は職員室側、だと思う方向に走っていった。廊下、走っていいのかな?
こつ、こつ。こつ、こつ。足音が近づいてくる。誰だろう。本田君? いや、早すぎるうえに違う方向だ。一体……
「ん、お前が木村ってのか」
初めて聞く声。優しい声。この声はもしかして……
「あなたは……?」
「俺? 俺は、鈴木。会長だ」
やっぱり会長だ!
ついに会えた!
礼を言わなきゃ……いや、なんて言えば良いだろうか。いい言葉が思いつかない。どうすればいい、どうすれば!
「お前目が見えないんだろ? こんなところで一人でどおした」
「あの、その、会長にお礼を言おうと思って……」
「お礼? まさか質問の?」
こくり。僕はうなずく。
「はは、いらねえよそんなもん。こっちは仕事が少なくなって楽になったぜ。俺がお前に礼を言うほうが正しいぜ」
「いや、そんな! 会長さんのおかげで僕は踏み出す勇気を得た! だから、だから!」
「……ああ、わかった。ありがとよ。でも、踏み出す勇気を作ったのはお前だぜ? きっかけをつくったのは俺かもしれない、だが全部お前の強さがなかったら生まれなかった。そう考えると、お前がお前に礼を言うほうが正しいんじゃねえの? よくわかんねえけど」
……なんていえば良いだろう。会長さんはすごい。さすが二年で会長になるだけのことはある。いままで灰色だった、いや無色だった僕の世界にこんなにも、一瞬で色をつけてくれた。
「あ、ありがとう、ございます!」
「どういう意味でのありがとうかはわからないが、どういたしまして。こっちこそありがとよ」
そういって、会長さんはまた歩いていった。すぐに本田君も帰ってきた。
「会長にあったのか? お、どうだった?」
「うん。やっぱりこの学校に来てよかったよ!」
「そうか、俺は関係ないのになんかうれしくなったぜ」
「関係なくなんかない。本田君がいなかったらきっと会長にもあえなかったよ。ありがとう」
「ありがとうなんて言葉は軽々しく使うもんじゃないぜ? ホントウに大事なときだけ使え」
「うん、だから今使ったんじゃん」
「ふふっ、お前、面白い奴だな」
「え? なんでー!」
僕の物語が、始まった。そんな気がした。
お悩みアンケートの回のラストの質問の人の話です。
本編にはおそらく、ほとんどでないと思います。
でも番外編ではおそらくメインキャラとして出るので番外編をお楽しみに!