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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

お小遣い

掲載日:2026/10/15

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 お小遣いが欲しくない人。

 まあ、どこの世の中を探しても、そうそういないと思われる。

 お金がもらえる。いや、そうでなくとも報酬をもらえることは、とてつもない魅力がある。

 自分のやったことに対する、確実な評価だからね。認められているのは確かで、しかもその結果を自分で活用できるときている。使い道の決まっていない、自由にできるブツの存在は心を落ち着けるのに大きな意味があるだろう。

 ときにはあまりの楽さに対し、あまりに高い報酬が提示される場合もある。この仕事によって、相手がどのような得があるか。ちょっと疑問が湧いてしまうこともないかな? 

 仕事人と割り切り、深く追及しないことが幸せになるコツだろう。けれど、謎に思えばそこを明らかにしたく思うのも、人のサガ。

 僕もむかしに、なぜこれでおこづかいがもらえるのか、疑問に思うことがあったんだが、ちょっと聞いてみないか?


 家のお手伝いをすることで、お駄賃をもらう。

 しばしば見聞きするシチュエーションじゃないだろうか。布団をしまうにせよ、洗濯物を干すにせよ、お掃除を手伝うにせよ、いずれも家事における重要な肉体労働だろう。

 本来ならひとりでこなさなければならない仕事を、誰かにやってもらえることはありがたい。その感謝の意を分かりやすく示すには、お礼とお駄賃であろう。

 謙虚が美徳とされる日本のお国柄。お金をおねだりするのは浅ましい考えに思われがちで、なかなか自分から言い出しづらい。かといって、純粋なお礼ひとつでモチベを保ち続けられる人ばかりでもないだろう。

 バイトもできない年齢かつ、月々のおこづかいは定額といった身の上で、もっと稼ぎが欲しいと思ったら、手伝える仕事が欲しかったのさ。


 そうした家の手伝いのうち、最も稼ぎが良かったのは、虫退治だった。


 ――蜘蛛とかGとかを始末するのかって?


 まあ、それもあるっちゃああるけど、あれは臨時出動でしょ? あんなのを毎日相手するとか専門の業者でもない限り、勘弁願いたいね。

 ああいう手合いが全然大丈夫、と話す剛の者はときどきいるけれど、どうも僕は繊細なもやしっ子メンタルだったらしい。


 それはさておき、そんな有名なやつらを相手にする仕事じゃなかった。

 依頼主は父親。休みの日の午前中、家の畑をめぐりながら目標の虫を退治していくのだけど、これが殺虫剤を撒くような効率のよいやり方じゃない。一匹、一匹をつぶしていくんだ。

 まず、それに使う道具について話そう。

 そうだな……たとえるなら、お店のレジで使うバーコードのスキャナーだ。あの手で持つタイプで、俗にコブラヘッドとも称されるアレだ。

 形はそっくりだがコードでつながっておらず、握ったまま持ち運びできるものだった。そのスキャナー相当の部分もガラスが埋め込まれていて、そこで潰すようにいわれていた。

 次に、始末する対象について。

 これは、ごくごく小さなバッタらしき生き物だった。畑の面積からすれば、まさに米かゴマの粒くらいのものでしかない。そのぶん、出動を要請されるときは決まって、こいつらが無数に居座っているときだ。

 一度のプレスで5匹、10匹と巻き込むことも難しくない。このコブラヘッドの先っちょが、潰されたこいつらの身体でしっかり埋め尽くされるようせん滅していく。

 道具は何個もあり、どれだけ仕上げられるかで決まる歩合制。調子がよければ、その日だけで月々の小遣い額を超すことも珍しくなかった。

 仕事は楽だし、毎日でも招集がかからないものかと、僕はわくわくしていたものさ。

 けれども、ある晩に。僕はそのコブラヘッドたちの、別の姿を見ることになる。


 その日はたまたま、友達と陽が暮れるまで飲み食いをした日だった。イベントの打ち上げだったと思う。

 その帰り道で、僕はふと猫の鳴き声を聞いた。声の出どころはすぐ右手のフェンスをはさんだ、背の高い草の根元と分かったよ。しかし、足を止めて猫の姿を認めた僕は、眼を見開いたよ。

 猫の背中がえぐられている。本来持つべき曲線ラインのなかばが不自然にへこみ、血が滴っているんだ。

 他の猫とケンカしたにしては、傷が妙だ。噛みついたとして、ここまで見事に体をちぎり取ることなどできようか。


 そう思った矢先。

 猫のしっぽ近くの草が揺れたかと思うと、さっと横切った何かがそのしっぽを揺らした。

 しっぽは、半ばまでちぎれてまたも猫が悲鳴をあげたが、僕の視線はしっぽを切り裂きながら草から草へ身を隠しながら動くその影に、釘付けになった。

 例のコブラヘッドだ。何度もこの手に握り、間近で見てきたもの。見間違えるはずがない。

 これまではこちらに握られ、振り回されるばかりだったヤツが、今はこうして草の間を飛び交って、猫を痛めつけているんだ。

 その場はつい逃げ出してしまったけど、翌日の同じ場所に猫の無残な死体が残っていたことで夢ではないこともはっきりした。

 父は例のコブラヘッドのことについて、何も話してくれなかった。猫の一件を伝えても、それは変わらない。ただ、それ以降は僕も父の手伝いをしなくなったんだよ。

 父からもらう小遣いも、いまや怪しいものだ。ひょっとしたらあれは、父自身も何かからもらった小遣いであり、僕を通じてマネーロンダリングめいた真似をしていたんじゃないか……なんて思っちゃうんだ。

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