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サンドボックスウォーズ「105サーバーのおじ武者」  作者: 黒瀬雷牙


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第九話 そこにいなくても、中心の男

 視界の中央に、冷たい文字が浮かび上がった。


【システム】《るき 戦闘不能》


「っ……!」


 嫌な予感は、すぐに現実になる。


【システム】《リルティ 戦闘不能》

【システム】《カイル 戦闘不能》


 三人が、ほぼ同時に倒れた。


 その瞬間、視界が切り替わる。


 観戦モード。


 緊張がふっと抜け、身体の感覚が一段軽くなる。

 もう前線に立つ必要はない。だが、完全に無関係でもない。


【るき】「うわ、知らないうちにやられた!」

【カイル】「だな、のんびり見学といこーぜ」

【パニーニ】「終わった人たちは気楽でいいよね」


 パニーニはそう呟きながら、戦場を見下ろした。


 斬鬼とおじ武者。残ったのは、自分を含めて三人だけだ。


【パニーニ】「あの二人が必死にやってるってのに」


 軽口を叩きつつも、指は止まらない。支援用の魔法陣を展開し、最低限の防御魔法を重ねる。

 効果は薄い。だが、致命打を一度でも減らせるなら十分だ。


【パニーニ】「微力だけど、無いよりはマシでしょ」


 スルトの攻撃が、防御膜に弾かれ、わずかに軌道を逸らす。


 その一瞬。


 斬鬼が踏み込み、渾身の一撃で巨体の動きを止めた。呼吸を合わせるように、おじ武者が前に出る。


【おじ武者】「居抜き一閃」


 宗光が閃き、スルトの胴体を一直線に貫いた。


 刃が通り抜けた次の瞬間、巨躯は光の粒子となり、静かに崩れ落ちる。


【システム】《スルト撃破》


 戦場に、ようやく静寂が訪れた。


 倒れていた者たちも、立っていた者も、等しく報酬を得る。おじ武者は宗光を軽く振り、刃に残った光を払う。


「……悪くないですね」


 短くそう言って、刀を収めた。

 パニーニは肩をすくめる。


【パニーニ】「ほんと、上手すぎるよなぁ」


 その声には、安堵と、確かな信頼が滲んでいた。


 おじ武者たちは、その週、いくつものダンジョンを渡り歩いた。


 火山、湿原、遺跡、洞穴。

 危険度は高かったが、斬鬼とおじ武者を軸にした編成は安定していた。


 るきやカイル、リルティも、いわばおこぼれの形で装備を更新していく。

 武器が変わり、防具が変わり、なにより立ち回りが変わった。


 特に、パニーニの成長は著しかった。元々他サーバーにて経験者である彼は、ハービボア・クランの主戦力の一人と言える。


 攻撃の間合い。退く判断。無理をしない勇気。

 数値以上に、プレイヤースキルが磨かれていく。


 そして、土曜日。


 おじ武者の知らぬところで、静かに戦火が生まれていた。


 戦線布告。


 毎週土曜、夜九時。

 定例で行われるギルドバトルにおいて、相手ギルドの陣地へ挑む意思表示。


 ハービボア・クランの名で、誰かが勝手に参加表明をしていた。


 場所は、南西銅大区画。

 中堅ギルド・ハチャメチャクチャの陣地。


 その頃、おじ武者はまだ、現実世界にいた。


 土曜出勤を終え、帰宅。

 シャワーを浴び、簡単な食事を済ませ、いつものルーティン。


 ログインしたのは、夜八時半だった。


「……おや」


 ギルド画面を開き、状況を把握する。


 戦線布告済みの表示。


「どなたか、布告をしてしまったようですね」


 困ったように、しかしどこか面白がるように、おじ武者は呟いた。


 ハービボア・クラン、初のギルドバトル。


 その噂は、瞬く間に広がっていた。


 BLACKSUN。

 ビッグブルー。

 暁光。


 三大ギルドは、それぞれ自分たちの戦いを控えながらも、どこかでその名前を気にしていた。


 実質ソロでのレイド討伐。

 レアボス撃破の記録。


 そして夜九時。ギルドバトル開始。


 南西銅大区画に、ハービボア・クランのメンバーは集結した。


 しかし、戦場におじ武者の姿はなかった。


 それは偶然か。

 それとも、必然か。


 前衛は斬鬼を中心に、カイルとるきが左右を固める。


 斬鬼は一歩も引かない。攻撃を受け、受け流し、隙を作る。その背中を信じて、二人が踏み込む。


 後衛では、リルティが距離を保ちつつ弓を放ち、

 パニーニは視線を全体に巡らせながら、支援と回復を切らさなかった。


 バフ。

 回復。

 防御強化。


 派手さはないが、戦線は崩れない。


 他のメンバーも、それぞれの役割を理解していた。

 無理に前に出ず、引くときは引く。

 倒すべき相手と、足止めすべき相手を見極める。


 ギルドバトルは、侵攻側が有利なルールだ。


 侵攻側の敗北条件は、全滅か時間切れ。

 一方、防衛側は、主の陥落。


 主に選ばれたプレイヤーが一人でも倒れた時点で、

 たとえ周囲に仲間が残っていようと、即座に敗北が確定する。


 勝ったギルドが、その陣地を手に入れる。

 単純で、残酷で、そして分かりやすいルールだった。


 斬鬼は、迷わなかった。敵の主がいる方向を見定めると、一直線に切り込む。

 行く手を塞ぐ防衛メンバーを、最短距離で切り伏せていく。


【るき】「斬鬼さん、突っ込みすぎ!」

【斬鬼】「問題なし」


 淡々とした返答。

 鬼丸が唸り、赤い軌跡を描く。


 やがて、中枢。

 ハチャメチャクチャの主が、そこにいた。


 一瞬の睨み合い。


 次の瞬間、斬鬼が踏み込む。


 鬼丸、一閃。


 防御も、援護も、間に合わなかった。

 即座に、勝敗が確定する。


【システム】《南西銅大区画 勝者:ハービボア・クラン》


 残り時間は、まだ半分近くあった。

 戦場に、どよめきが広がる。

 味方も、敵も、しばし状況を理解できずにいた。


【カイル】「……え、もう終わり?」

【るき】「勝った、の?」

【パニーニ】「……本当に、勝っちゃったんだ」


 ハービボア・クラン。

 初のギルドバトル。


 そして、おじ武者不在のまま掴んだ、最初の勝利だった。


 だが、その異常さに気づいている者は、まだ少なかった。


 この勝利が、何を呼び寄せるのか。

 誰の目に、どう映ったのか……


 中央金大区画で争う、BLACKSUNとビッグブルー。メンバー達は激戦を繰り広げる中、その双方のギルドマスターは、自分の戦いとは別の思考を巡らせていた。


(おじ武者はログインしている……あくまでもギルドバトルには関与しないつもりか)


 ヴェルゼはビッグブルーの猛攻を耐えながら、そんな事を考えていた。


 一方、タイダルの考えは違った。


(はははは!おじ武者よ、あの程度に自分が出る必要すらないと踏んだか!!)


 南銀大区画において、既に防衛成功を果たしていた暁光。そのギルドマスターのマリアは、また別のことを考えていた。


(ハービボア・クランが、もう一つ銅区画を手に入れたら……私達とぶつかる可能性も、ありますね)


 一方、105サーバーの王者達の注目の中心にいるとも知らず、おじ武者は一人、最高難度ダンジョン・奈落に挑もうとしていた。

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