第八話 火山探索
火山ダンジョン。
赤黒い岩肌と、ところどころから噴き上がる蒸気。
視界が揺らぐほどの熱気が、フィールド全体を包んでいる。
転送ゲートの前で、おじ武者は一人、立ち止まっていた。
「……さて」
本来なら、ソロで行くつもりだった。
試し斬り。装備確認。動作の感触を確かめるだけ。
だが。
【るき】「待ってくださいよー、私も連れてって」
背後から、聞き慣れた声。
【カイル】「俺も行く」
振り返ると、二人が当たり前の顔で立っている。
「……まぁ」
この二人は、いつものことだ。
だが、それだけでは終わらなかった。
【パニーニ】「ぼ、僕も……よければ……」
【リルティ】「私も行ってみたいです!」
【斬鬼】「某も、同行願いたい」
気がつけば、五人。
「……」
一瞬だけ、考える。
火山は敵の数が多い。
だが、星付きダンジョンではない。
「……まぁ、いいでしょう」
そう言って、パーティウィンドウを開く。
構成を確認――
そのとき。
「……ん?」
視線が、一人で止まった。
斬鬼。
レベル表示。
Lv17
「……」
自分は、14。
しかも。
(総合力……高いですね)
初心者、という雰囲気ではない。
装備も、動きも、立ち方も。
わかっている側の人間だ。
だが、おじ武者は、それ以上は言わなかった。
「行きますよ」
理由を聞くのは、野暮だ。今は同行者。
転送が始まる。六人の身体が、熱に歪む景色へと吸い込まれていった。
火山ダンジョン・第一層。
溶岩の流れが道を分断し、岩陰からは火属性モンスターが這い出てくる。
「……来ます」
その声と同時。宗光が抜かれた。
刃が閃き、最前列のラヴァゴブリンが消えた。
【るき】「え」
斬撃音が、遅れて届く。
会心。
即死。
【カイル】「……試し斬りだよな、これ」
次。
次。
次。
敵が湧くたび、数が減る。
ではない。湧いた瞬間に、終わっている。
パニーニとリルティは、完全に立ち尽くしていた。
【パニーニ】「あ、あれ……僕、魔法……」
【リルティ】「……詠唱、間に合わない……」
斬鬼だけが、黙ってそれを見ていた。
そして、ぽつり。
【斬鬼】「……なるほど」
低い声。感嘆でも、驚愕でもない。
確認だ。火山の熱の中で、宗光が静かに血を落とす。
おじ武者は、歩みを止めない。
【おじ武者】「奥、行きましょう」
まるで、これが普通であるかのように。だが、その背中を見つめる斬鬼の目だけは、明らかに違っていた。
この男は。
(……本物か)
火山の奥で、もう一つの視線が、ゆっくりと重なり始めていた。
一行は、おじ武者と斬鬼を中心に、火山の最奥へと辿り着いていた。
溶岩の流れは激しさを増し、足場は狭く、不安定になる。本来なら、ここまで来るだけで消耗しきっているはずだった。
【リルティ】「あの二人、強すぎて……心強いです!」
息を切らしながらも、声は弾んでいる。
【るき】「ですよね!」
胸を張り、得意げに続けた。
【るき】「私たちのギルドマスターですから!」
少し後ろで、パニーニが周囲を見回しながら呟く。
【パニーニ】「火山の適正レベルは……20以上です」
淡々とした口調。だが、その言葉は重い。
【パニーニ】「しかも、20レベルの五人パーティでも、普通は厳しいって言われてます」
一拍、置いて。
【パニーニ】「……あの二人、プレイヤースキルが異常です」
それを聞いて、カイルが腕を組む。
【カイル】「そこに痺れる、憧れるぅ……」
場違いなほど、楽しそうだった。
そして、火山最奥。
本来なら、ここに待ち構えているのは、クリムゾン・ワイバーンのはずだった。
だが、地鳴り。溶岩が、沸き立つ。
炎の塊のような巨影が、ゆっくりと立ち上がった。
燃え盛る髪。溶岩のような肌。その手に握られているのは、真紅の大剣・レヴァンティン。
画面中央に、文字が浮かぶ。
【システム】《炎帝スルトが現れた》
【パニーニ】「げっ!! レアボスだ!!」
通常ダンジョン最奥には、必ずボスがいる。
だが、10%の確率で、通常より遥かに強いレアボスが出現する。
十回に一回。
周回していれば、いつか当たる程度の確率。
ハービボア・クランは、一発目で引き当てた。
圧倒的な存在感。
ただ立っているだけで、HPバーが長いと分かる。
沈黙が落ちる。
だが、おじ武者と斬鬼は、微動だにしなかった。
【おじ武者】「相手にとって――」
【斬鬼】「不足なしですな」
言葉が、重なった。
次の瞬間、スルトの大剣が振り下ろされる。
溶岩が、割れた。
だが、そこに人影はない。
踏み込み。回避。斬撃。
おじ武者の宗光が閃く。
斬鬼の獲物、UR武器の鬼丸が逆方向から食い込む。
数値が跳ね上がる。
会心。
部位破壊。
【るき】「……え?」
【リルティ】「い、今の……」
理解が、追いつかない。
スルトの反撃。炎柱が立ち上がる。
だが、二人はもうそこにいない。
おじ武者は、最小限の動きで懐へ。
斬鬼は、一拍遅らせて死角へ。
役割分担など、していない。だが、完璧に噛み合っている。
【パニーニ】「……嘘だろ」
思わず、声が漏れる。
これは、レベルの差じゃない。装備の差でもない。
理解度だ。
ボスの動き。判定。次の一手。
すべてを、読んでいる。
炎帝スルトが、咆哮を上げる。だがその咆哮は、二つの刃に切り裂かれた。
火山の最奥で六人は、本来なら勝てないはずの相手と、真正面から渡り合っていた。
そしてこの戦いが、ハービボア・クランの名を、さらに一段引き上げることになるとも、まだ誰も知らない。




