表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンドボックスウォーズ「105サーバーのおじ武者」  作者: 黒瀬雷牙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

第七話 強化された愛刀

 翌日。


 仕事を終え、いつもの時間に帰宅したおじ武者は、ネクタイを外す。

 妻との食事を終え、風呂を済ませると自室に行き、PCを起動した。ルーティンのような動作。ログインももはや反射に近い。


 ハービボア・クランのギルド拠点に降り立った瞬間、違和感があった。


「……やっぱりか」


 視界の端、ミニマップに表示される青点が、明らかに多い。昨日まで、三つしかなかったはずのそれが、二桁近く点灯している。


 ギルドメニューを開く。


【ギルドメンバー】

 18/30


「増えましたね」


 独り言のように呟く。


 ギルドの加入方式は、自由制。

 承認も審査もない。申請すれば、そのまま入れる。


 理由は特にない。面倒だったから、それだけだ。


 結果として、レイド翌日、こうなるのは想像できたはずなのに。


(まぁ、そうなるよな……)


 チャットログが流れる。


【カイル】「お、大将のお出ましだ」

【パニーニ】「はじめまして!よろしくお願いします!」

【リルティ】「昨日のレイド、見ました!」

【斬鬼】「おじ武者さんって、あの……」


 次々と挨拶。悪意はない。むしろ好意的だ。

 おじ武者は、キーボードを叩く。


【おじ武者】「よろしくお願いします」


 それ以上でも、それ以下でもない。

 馴れ合わず、拒絶せず。

 ただ、失礼にならない最低限の距離。


 すると、個人メッセージの通知音。


 ひとつ、ふたつ……いや、違う。


(多いな)


 開かずとも、差出人のギルドタグで察しはついた。


 BLACKSUN。

 ビッグブルー。

 暁光。

 その他、聞いたこともない中堅ギルド。


 内容は、想像通りだ。


『うちに来ませんか?』

『条件は相談できます』

『一度、お話だけでも』


 画面を閉じる。


(……1人で、気楽にやりたいんだけどな)


 ため息は出なかった。

 代わりに、少しだけ肩の力が抜ける。


 このゲームは、

 誰かに期待されるためにやっているわけじゃない。


 効率よく狩って、

 素材を集めて、

 装備を整えて、

 淡々と強くなる。


 それだけで、いい。

 そのとき、告知ウィンドウがポップアップした。


【期間限定】

 新ジョブ実装記念《侍》特化ガチャ開催中!


「……あ」


 思わず、声が漏れる。


 侍。

 癖が強く扱いづらいが、極めれば圧倒的な一撃を叩き込めるジョブ。


 そして、おじ武者が、選んだ道だ。


(引かない理由、ないな)


 ギルドの喧騒も、勧誘メッセージも。

 今はどうでもいい。


 ガチャ画面を開く。確率表示。ピックアップ武器。専用スキル。


 指が、迷いなくタップした。


【10連ガチャを回しますか?】


「お願いします」


 光が弾ける。


 人が増え、注目が集まり、世界が少し騒がしくなっても、おじ武者にとって大事なのは、この一振りと、次の狩場。


 それだけだった。


 最初の十連。


 光は、控えめだった。


 SSRが三つ。

 どれも使えなくはないが、決定打にはならない性能。


「……微妙」


 だが、引き自体は悪くない。

 最低保証で終わるより、よほどマシだ。


 間を置かず、もう一度。


 二回目の十連。


 SSRは一つ。


「まだまだ」


 三回目。

 四回目。


 さすがに、ここまで来ると冷静になる。


(これでやめよう)


 指を止める。

 残りの石を確認する。


 ……一回分、余っている。


「……最後に」


 独り言のように呟いて、タップ。


 十連、開始。


 光が走る。

 いつもより、少しだけ長い。


 演出が変わったのを、見逃さなかった。


「……」


 金でも紫でもない。

 見慣れない、深い光。


 画面中央に、文字が浮かぶ。


「――っ」


 次の瞬間、表示された名前。


 UR:宗光


「……やった!」


 思わず、声が出た。


 今、装備している愛刀。最初から最後まで使い続けてきた相棒。

 同一武器獲得により、突破が発生する。


【宗光 突破+1】


 数字が、ひとつ上がる。


「これは……大きいですね」


 即座に装備画面を開く。

 細かい効果は見ない。


 おじ武者は、迷わず押した。


【最適】


 装備が、自動で組み替わる。

 効果の噛み合いも、セットボーナスも無視。ただ、数字が一番高いもの。


 それでいい。


 画面に並ぶ現在装備。


 武器:宗光+1

 盾:装備不可

 頭:気迫の鉢巻(会心アップ)

 胴:鎖帷子+1

 腕:鬼の籠手(攻撃力大幅アップ)

 足:銀の脛当て+2

 靴:夜叉足袋(素早さ・回避アップ)

 装飾:鬼子母神の御守り(攻撃アップ)


 胴と足はSR。

 だが、数値は十分。


「……まぁ、後々ですね」


 完璧を目指す必要はない。

 今は、これでいい。


 装備画面を閉じ、ステータスを一瞥する。

 攻撃力が、目に見えて跳ね上がっていた。


 ギルドチャットは、相変わらず流れている。

 個人メッセージも、まだ残っている。


 だが、今は気にならなかった。


 ダンジョン一覧を開く。


 推奨レベル。

 敵構成。

 地形。


 視線が、一つの名前で止まる。


「……火山」


 素材が良くて、敵の数が多い。

 つまり、試し斬りにちょうどいい。


 宗光の柄に、指をかける。


「行きましょうか」


 誰に言うでもなく。おじ武者は、次の狩場へと転送を開始した。


 その刃が、さらに多くの視線を集めることになるとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ