第六話 注目の的?
ハービボア・クランのギルド拠点。
転送の光が消えたあとも、るきとカイルはその場に立ち尽くしていた。視界の中央に浮かぶ、レイド報酬ウィンドウ。高額素材、強化用結晶、そして見慣れないレアドロップ。
思わず、声が漏れる。
【るき】「私、何もしてないんだけど」
【カイル】「俺もだ」
カイルは腕を組んだまま、表示された報酬一覧を睨んでいた。戦った記憶はある。だが、活躍した実感はどこにもない。
正確に言えば、始まった瞬間に終わっていた。
拠点中央のモニターが切り替わる。
【レイド結果】
星1クリア
BLACKSUN
ハービボア・クラン
二人の思考が、同時に止まる。
BLACKSUNと争う上位ギルドの二つ。
ビッグブルーは果敢に3に挑み、僅か6秒で全滅。
暁光は星1に挑戦し、惜しくも失敗。
その他の中堅ギルドは星1にすら瞬殺。サーバー初のレイドは勝てなくて普通だ。
BLACKSUNや暁光が星1を選んだのは、おそらく決定権を持つギルドマスターの、ヴェルゼとマリアが他サーバーでの経験者だからだろう。
「BLACKSUNはわかるけど、ハービボア・クランって!?」
「どこだよそのギルド!」
「え、三人でクリアってマジ?」
「星1とはいえ、レイドを三人はおかしいって」
全体チャットが、一気に流れ始める。
るきは、思わずおじ武者の方を見た。当の本人は、いつも通りだった。報酬ウィンドウを操作し、淡々と素材を整理している。
まるで普段の狩りが、少し豪華になっただけのような態度だ。
【カイル】「……いや」
ぽつりと、呟く。
【カイル】「三人って書いてあるけどさ」
視線は、モニターではなく、おじ武者に向いていた。
【カイル】「実質、一人なんだよなぁ……」
るきは、何も言えなかった。
思い出すのは、ほんの数分前の光景。
宗光を鞘に納め、キングゴブリンの攻撃を待ったあの瞬間。残像をすり抜けた一撃と、舞い上がった血飛沫。
上手い、なんて言葉じゃない。
次元が、違う。
全体チャットは、まだ騒いでいる。
だが、ハービボア・クランの拠点は静かだった。
このレイドで、二人の中でおじ武者は、完全に別格の存在になった。
その頃。
同じレイド結果を、それぞれ別の場所で見つめている者たちがいた。
BLACKSUN、ギルド拠点最上階。
巨大なホログラムモニターの前で、ヴェルゼは腕を組んだまま微動だにしない。表示されているのは、先ほどから変わらぬレイド結果。
星1クリア
BLACKSUN
ハービボア・クラン
BLACKSUNのメンバー達は皆、ヴェルゼさんの指揮のおかげだと讃える。しかし、ヴェルゼの興味はそこにはない。
【ヴェルゼ】「……やはり、か」
低く、しかし確信に満ちた声。
星1。難易度としては最低。
だが、初期サーバー。情報も戦術も揃っていない状態での、三人クリア。
しかも生存者ログは、実質一名。
【ヴェルゼ】「類稀なる才能……」
目を細める。
【ヴェルゼ】「やはり、欲しい」
それは独占欲ではない。
理解している者への、純粋な評価だった。
一方、ビッグブルー。
ギルド拠点は、まだ騒然としている。
星3挑戦。6秒で全滅。
その中央で、タイダルは豪快に笑っていた。
【タイダル】「ははははは!!」
周囲の視線など気にも留めない。
【タイダル】「やっぱ最高だな、おじ武者!」
モニターを指差し、満面の笑み。
【タイダル】「星1を、ああいう倒し方するヤツ、久々に見たぞ!」
そして、拳を握りしめる。
【タイダル】「いいなぁ……!絶対、仲間にしてやる!!」
敗北の悔しさよりも、出会えた才能への興奮が勝っていた。
そして、暁光。
静謐なギルドホール。白を基調とした空間で、マリアは祈るように両手を組んでいた。
彼女の前にも、同じ結果が浮かんでいる。
星1:失敗。
だが、その隣に並ぶ文字。
ハービボア・クラン。
【マリア】「……やはり」
微笑みとも、敬虔とも取れる表情。
【マリア】「あのお方こそ」
静かに、しかし強く。
【マリア】「我ら暁光を導く、光に違いありません」
それは勧誘というより、信仰に近い響きだった。
三者三様。
思惑は違えど、評価は一致している。
おじ武者は、別格。
だが。その中心人物は、ハービボア・クランの、質素な拠点で、報酬整理を終え装備ウィンドウを閉じていた。
【おじ武者】「……次は」
視線は、ダンジョン一覧へ。
推奨レベル、敵構成、地形。
ただそれだけを見ている。
【おじ武者】「あそこ、素材が良かったはずですね」
誰かが自分を狙っていることも。
評価が跳ね上がっていることも。
――そんなことは、いざ知らず。
彼の頭にあるのは、次に、どこを攻略するか。
ただ、それだけだった。




