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サンドボックスウォーズ「105サーバーのおじ武者」  作者: 黒瀬雷牙


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第五話 実質ソロレイド

 日曜日の夜。


 時刻は、夜九時前。

 105サーバーの空気が、少しだけざわつき始めていた。


 個人拠点に集まった三人のキャラクターが、並んで立つ。


【るき】「ついに来ましたね!初レイド!」

【カイル】「記念すべき、ハービボア・クランの初出撃っす」


 るきは、やや浮ついた動きでくるくるとその場を回る。カイルも、いつもより軽い。


 ギルドマスターのおじ武者が、挑戦するレイドを選択した。


【るき】「難易度、星1?」

【カイル】「っすね。練習用?」


 どこか、安心しきった声だった。


【るき】「正直、おじ武者さんがいれば、事故る気しなくないですか?」

【カイル】「分かるw」


 二人の視線が、自然とおじ武者に向く。

 おじ武者は、装備の耐久値を確認していた。

 武器、防具、アクセサリ。一つずつ、丁寧に。


【るき】「星1なんてチュートリアル延長戦みたいなもんですよね?」

【カイル】「軽く殴って、軽く回って、はいクリア、みたいなw」


 その言葉に、おじ武者の手が止まった。


 すぐには、何も言わない。代わりに、回復薬の残数を見る。回復アイテムのスロットを、一段増やす。


【るき】「……あれ?」

【カイル】「準備、念入りじゃないっすか?」


 ようやく、おじ武者がチャットを打つ。


【おじ武者】「油断はしないほうがいいですよ」

【るき】「え?」

【カイル】「星1でも、っすか?」


 少しだけ、間。


【おじ武者】「レイドは……星1でも、普通に死にます」


 一瞬、時間が止まったようだった。


【るき】「またまたぁwおじ武者さん基準、高すぎるだけじゃないです?」

【カイル】「あー、分かる。上級者あるあるっすね」


 軽い笑い。

 悪意はない。


 だが、おじ武者の表情は変わらなかった。


【おじ武者】「いえ。そういう話ではなくて、個人戦と、レイドは別物です」


 画面の向こうで、二人が黙る。


【おじ武者】「避け損ねたら終わり、という攻撃が普通に来ます。星1でも、予備動作が短い。一人でも崩れると、立て直しが効かなくなる」

【るき】「……そんなにですか」

【カイル】「星1で?」

【おじ武者】「ええ。だから」


 少し言葉を選んでから、続けた。


【おじ武者】「今日は勝つことより、生きて戻ることを意識しましょう」


 通知音が鳴る。


【システム】《まもなくレイド開始》


 るきは、一度だけ深呼吸をした。


【るき】「……了解です」

【カイル】「まぁ、言われた通り動きます」


 完全に理解したわけではない。だが、さっきまでの軽さは、少しだけ消えていた。


 おじ武者は、その変化を見て、小さくうなずく。


 それでいい。最初から分かる必要はない。だが、聞く耳があるかどうかは大事だ。


 転送ゲートが、静かに開き始める。

 このあと、二人は知ることになる。


 レイドの星1が、()()()()()()などではないということを。


 レイド開始。視界が一瞬白く染まり、次の瞬間、薄暗い洞窟に放り出された。湿った空気。天井から滴る水音が、やけに大きく響く。


 洞窟の中央。


 そこにいたのは、ゴブリンだった。

 いや、正確にはキングゴブリン。


 人型ではあるが、明らかに規格外の巨体。星1という表示が、冗談のように見える。


【るき】「……でかくないですか?」

【カイル】「星1で、これ?」

【おじ武者】「気をつけて。開幕――」


 言い終わる前だった。キングゴブリンが、低く唸り声を上げる。両腕を、大きく振り上げた。


【るき】「え、ちょ」


 次の瞬間。腕が、地面に叩きつけられる。


 ドンッ!!


 洞窟全体が揺れた。地面を這うように、円状の衝撃波が広がる。


【おじ武者】「下がって!」


 衝撃波が、るきを直撃する。


 HPバーが、一瞬で消えた。


【システム】《るき 戦闘不能》


【るき】「えぇぇえー!?」


 光の粒子が、るきのキャラクターを包み込む。一拍遅れて、カイルも衝撃波に飲まれた。


【カイル】「うわ、ダメだった」


【システム】《カイル 戦闘不能》


 洞窟に残ったのは、キングゴブリンと、おじ武者のみ。


 静寂。まるで何事もなかったかのように、キングゴブリンが次の動作に移る。


【るき】「え、これ星1ですよね!?」

【カイル】「強すぎる、攻撃力も範囲も」

【おじ武者】「ええ。これが()()()です」


 おじ武者は、静かに距離を取る。

 一歩。衝撃波の外へ。剣を構え、無理に踏み込まない。


 派手な技はない。

 あるのは確実な回避と、確実な一撃だけ。


 その背中を、二人は観戦モードで見ていた。


 そして、ようやく理解する。さっきの警告は、脅しでも、誇張でもなかったのだと。


 洞窟の中央。キングゴブリンと向き合うのは、おじ武者ただ一人。


【るき】「……避け方、さっきと全然違いません?」

【カイル】「近づいてるのに、当たってない」


 おじ武者は、無駄に走らない。

 大きく距離を取ることもしない。


 攻撃が来る位置に、あえて立っている。


【るき】「え、ちょ……危なくないですか?」

【カイル】「いや、狙ってるっすよ、あれ」


 キングゴブリンの腕が振り上がる。

 先ほどと同じ、叩きつけ。


 だがおじ武者は、動かない。


【るき】「避けない!?」

【カイル】「嘘でしょ……」


 次の瞬間。衝撃波が発生する直前。

 おじ武者の身体が、わずかに沈む。


 消えた。いや、違う。


 残像が、その場に残っただけだった。

 衝撃は、何もない空間をすり抜ける。


 同時に。


 キングゴブリンの胴から、血が噴き上がった。


 遅れて、斬撃音。


 ――ズン。


 キングゴブリンが、大きくよろめく。


【るき】「……え?」

【カイル】「今、何が……」


 おじ武者は、すでに距離を取っていた。刀身を確かめるように、静かに構える。


【るき】「避けた、とかじゃないですよね」

【カイル】「攻撃、すり抜けた……?」


 そこで、気づく。おじ武者の刀が、URレアの宗光であることを。


【カイル】「あ……」

【るき】「あれ、武器専用スキル?」


 武器専用スキル。


 それは、レアリティUR以上の装備にのみ付与される、固有能力。おじ武者は、鞘に宗光を納めた。


 ゆっくりと。

 構えない。

 攻めない。

 ただ、待つ。


【るき】「……攻撃待ってます?」

【カイル】「正気っすか!?」


 キングゴブリンが、再び吼える。

 振り下ろされる、巨大な腕。


 その瞬間。


【おじ武者】「居抜き一閃」


 声は低く、短い。キングゴブリンの攻撃は、再びおじ武者の残像をすり抜けた。


 次の瞬間、空気が裂ける。


 一直線の斬撃。


 キングゴブリンの胸元から、血飛沫が舞った。


 遅れて、衝撃音。

 巨体が、膝をつく。


【るき】「……うそ」

【カイル】「上手いとか、そういう次元じゃないっす」


 おじ武者は、すでに宗光を鞘に納めていた。

 振り返らない。誇らない。


 ただ、淡々と次の動きに備える。その背中を見ながら、二人ははっきり理解した。


 自分たちは、同じゲームを遊んでいるが、同じ場所には立っていない。

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