第十六話 男達の戦い
南銀大区画。
開戦を告げる、鐘のようなシステム音。
【るき】「行きますっ!」
るきが前線へ飛ぶ。
対峙するのはビッグブルーの中堅アタッカー。
高速斬撃。
回避。
反撃。
互いにHPを削り合う。
【カイル】「こっち任せろ!」
カイルは盾を構え、味方の後衛を守る。
魔弾の連射を受け止め、カウンターで吹き飛ばす。
【リルティ】「バフ回します!」
攻撃上昇、速度上昇。
後方支援が盤面を整える。
火山で揉まれた実戦経験。個々の総合力は劣るが、連携で食らいつく。
各所で戦線が形成される。
だが、中央ルートだけが異様に静かだった。
青い光が揺らぐ。
水圧を感じる幻想空間。
そこに立つのは、四人。
おじ武者と斬鬼、そして。
【タイダル】「来たなァ!!」
豪快に笑う男。
サーバー総合力2位。
背後に巨大な水槍を浮かべる。
【くじら】「ふふ……楽しみですね」
静かな笑み。
サーバー総合力3位。
水流が足元に渦巻く。
数字で見れば、格上。
【斬鬼】「……分が悪いですな」
【おじ武者】「承知の上です」
互いに視線を交わす。
言葉はいらない。
先に動いたのはタイダル。
踏み込みと同時に、水槍が十本射出。
【斬鬼】「散れ!」
斬鬼が横薙ぎ一閃、三本を破壊。
だが残りは。
【おじ武者】「通さぬ」
素早く、細かく、精度ある斬撃。
必要最低限だけ弾く。
直後、くじらが消えた。
【おじ武者】「後ろ!」
斬鬼が振り返るより早く、水刃が背中を裂く。
【斬鬼】「ぐっ……!」
HPが大きく削れる。連携が完成している。
タイダルが圧で正面を制圧。
くじらが死角を突く。
理想形。
【おじ武者】「入れ替わります!」
前後スイッチ、おじ武者が前へ。
宗光が閃き、タイダルが受ける。
重い。
【タイダル】「いい太刀だ!だが軽い!!」
水圧拳、HPが削れる。
その瞬間。
【斬鬼】「今だ」
斬鬼がくじらへ肉薄。
高速連撃、くじらは回避主体。
【くじら】「速い……ですが、甘い」
水流拘束、斬鬼の足が止まる。
【タイダル】「ばっはっはぁー!!」
そこへタイダルが突進。
【おじ武者】「させぬ」
宗光で軌道を逸らす。
四人が交錯する。
総合力では負けている。
単純な殴り合いは不利。
【おじ武者】「斬鬼殿、分断を」
【斬鬼】「了解」
視線で合図。おじ武者があえてタイダルを深追いし、距離を引き離す。
その瞬間、斬鬼が全力でくじらを押し込む。
一対一を、二箇所に作る。だが。
【くじら】「甘いですね」
水流が地面を走る。
瞬間移動、再び合流。
【タイダル】「俺たちはなァ、ずっと一緒にやってきた」
同時攻撃。水槍と水刃の挟撃。HPが一気に赤へ。
【おじ武者】「面白い」
口元が僅かに上がる。
【斬鬼】「ああ」
背中合わせ。HPは劣勢、総合力も下。
だが、呼吸は合っている。
【おじ武者】「崩すなら、三秒」
【斬鬼】「十分だ」
次の瞬間、おじ武者が真正面からタイダルへ特攻。
全力の囮。
【タイダル】「ここで正面から来るか!!」
豪快に迎撃、水圧最大。
だがその背後、斬鬼が消えた。
【くじら】「うぉおっ!?」
死角、最高速の一閃。くじらのHPが大きく削れる。初めて、盤面が揺れた。
水が暴れ、地面が砕ける。これは力の差ではない、連携の精度勝負。
南銀の最奥。
サーバー2位と3位。
挑戦者のタッグ。
勝敗は、まだどちらにも傾いていない。
熾烈な第二ラウンドが、幕を開ける。
その頃、外周ではるき達が押し切った。
火山帰りの実戦組が、ハービボア・クランの残党を各個撃破。連携で削り、確実に落とす。
【るき】「中央、まだやってる……!」
だがその時、中央では水圧の爆音とともに、二つの影が戦場へ駆け込んだ。
巨大斧を担ぐアタッカー。
【ほお次郎】「おいおい、楽しそうじゃねぇか!」
光を纏う杖を掲げるヒーラー。
【アリエル】「タイダルさん、くじらさん!」
ビッグブルーの主力が合流。
おじ武者と斬鬼のHPは赤。
向こうはまだ余力を残す。
流石に、無理か。
その刹那。
【タイダル】「お前ら、手出し不要だ!!」
水槍が地面に突き立つ。
【タイダル】「ここは2対2で勝たなきゃ勝ちじゃねぇ!!」
一瞬、場が凍る。
【ほお次郎】「ははっ、さすがボス!そうこなくっちゃ!」
斧を肩に戻す。
【くじら】「ええ。私達の戦いです」
静かに笑う。
【アリエル】「男って、なんでこう……」
呆れながらも、後退。
回復詠唱を止める。
純粋な、四人の戦場が再び閉じた。
【おじ武者】「……助かりましたな」
【斬鬼】「ああ。だが条件は同じだ」
回復なし。総合力は依然、格上。
【タイダル】「第二ラウンドだァ!!」
水圧解放。フィールド全域に高水位エリアが展開される。移動速度減少。
【くじら】「呼吸を合わせて」
再び理想形の挟撃。
今度は更に精度が増す。
HPが削れる。視界が赤く染まる。
【斬鬼】「……三割」
【おじ武者】「拙者も同じ」
だが、目は死んでいない。
タイダルの拳。
くじらの水刃。
完全な同時、その瞬間。
【おじ武者】「斬鬼殿、右」
【斬鬼】「了解」
わずかコンマ数秒、視線だけの合図。
おじ武者があえて水圧拳を受け、吹き飛ぶ。
だが吹き飛び方向は計算済み。
くじらの背後へ滑り込む。
【くじら】「なに!?」
宗光、零距離。一閃。
くじらのHP、残り一割。
【タイダル】「くじらァ!!」
怒号、全力突進。
斬鬼が真正面から迎える。
【斬鬼】「来い」
HP二割、回避はしない。
受けて、踏み込み、斬る。
水圧拳が肩を砕く、HP残り一割未満。
だが。
【斬鬼】「これで、孤立だ」
タイダルが前に出過ぎた。
くじらは距離を取れない。
【おじ武者】「今度こそ、分断成功」
二人の位置取りが逆転。
くじらを壁際へ。
【くじら】「ぐ、お見事」
最後の水刃、斬鬼が身体で受ける。
【斬鬼】「通さぬ」
おじ武者が、全霊。宗光最大出力。
居抜き一閃。
【システム】《くじら 撃破》
残るは、タイダル。
【タイダル】「ははっ最高だなァ、お前ら!!」
体力は四割残っている。
こちらは二人とも一桁。
真正面からの殴り合い。
水圧拳と斬撃が交錯、HPが削れ警告音が鳴り続ける。
【斬鬼】「次で終わる」
【おじ武者】「ええ」
同時に踏み込む、タイダルの拳が二人を薙ぐ。
だが、二人は止まらない。
斬鬼の鬼丸、おじ武者の宗光。
十字に交差、水圧が裂ける。
【システム】《タイダル 撃破》
【タイダル】「……っ、はは……!」
巨体が崩れ、フィールドが静寂に包まれる。
【システム】《南銀大区画 勝者:ハービボア・クラン》
HP残量、ほぼゼロ。
二人は背中合わせのまま、膝をつく。
【斬鬼】「……生きてますか」
【おじ武者】「かろうじて」
遠くで、ほお次郎が笑う。
【ほお次郎】「やられたな、ボス」
【アリエル】「だから言ったでしょうに……」
タイダルは倒れたまま、天井を見上げていた。
【タイダル】「わはははは!完敗だ!!」
くじらも静かに頷く。
【くじら】「連携の差、ですね」
サーバー2位と3位。
挑戦者のタッグが、超えた。
数字ではない、積み重ねた呼吸。
南銀の戦いは、歴史に刻まれた。




