第十四話 最強デバフ士との出会い
翌日、日曜日。
夜九時前。
ギルドロビーに、ハービボア・クランの面々が集まっていた。
【るき】「今日はどれ行きますか!?」
【カイル】「昨日銅取ったし、勢いで星3とか?」
ざわつく空気。
おじ武者は一瞬だけ、星3のアイコンに視線を向けた。
(……挑みたい)
だが、すぐに閉じる。
【おじ武者】「本日は星2にします」
【カイル】「えっ!?」
【るき】「あ、なるほど……」
【おじ武者】「銀を見据えるなら、基礎の底上げが必要です。全員のレベルを揃えましょう」
斬鬼は静かに頷いた。
【斬鬼】「急ぐ必要はありませんな」
選択されたレイド。
★2《魅惑の深林》
【システム】《転移開始》
霧に包まれた森。
甘い香りが漂う。
そして、枝の上から降り立つ影。
【システム】《サキュバス出現》
妖艶な笑み。
赤い瞳が光る。
【るき】「うわ……なんか嫌な予感……」
【おじ武者】「魅了に注意。最悪、操作不能になります」
【カイル】「最悪ってどのレベル?」
【斬鬼】「味方を斬る、ですな」
一瞬、空気が凍る。
魅了状態。
操作不能。
味方攻撃。
もし、おじ武者か斬鬼が魅了されたら。
終わる。
【パニーニ】「状態耐性、いきます!」
光の紋章が全員に付与される。
【おじ武者】「助かります。前衛は分散。視線を合わせないように」
戦闘開始。
サキュバスが舞う。
羽ばたきと共に、甘い霧が広がる。
【システム】《魅了付与判定》
【るき】「効いてない!」
【リルティ】「私もです!」
女性キャラは魅了無効。
【カイル】「よし俺も」
赤いハートエフェクト。
【カイル】「あれ不味い、チャットしか操作効かない!」
キャラクターが勝手に動く。
味方へと刃を向ける。
【るき】「ちょ、カイルくん!?」
【おじ武者】「落ち着いて。耐性はまだ持続中です。斬鬼殿、抑えて」
斬鬼が最小限のダメージでカイルを足止めする。
【斬鬼】「暴れるな、若造」
サキュバスが笑う。
視線が、おじ武者へ。
(来るか)
だが、耐性が光る。魅了は弾かれる。
【パニーニ】「更新、間に合ってます!」
完璧なタイミング。
【おじ武者】「今です」
宗光を抜く。甘い霧の中心へ、一直線。
サキュバスが翼で回避を試みる。だが。
居抜き一閃、一刀両断。
【システム】《サキュバス 撃破》
霧が晴れ、カイルの魅了が解ける。
【カイル】「はっ……俺、何した?」
【るき】「ちょっとだけ刺された」
【カイル】「ごめん!」
笑いが広がる。
【リルティ】「インキュバスだったら、逆でしたね……」
【斬鬼】「その場合、我らが無効」
【カイル】「男女差別やめろ」
そして、結果ウィンドウ。
【システム】《ギルドレイド結果》
★2 クリア
・BLACK SUN
・暁光
・ハービボア・クラン
【るき】「いつもの三強だね」
【おじ武者】「安定、です」
だが、その下。
★3 クリア
・ビッグブルー
一瞬、ロビーがざわめく。
【カイル】「……え?」
【リルティ】「星3……?」
【斬鬼】「やりましたな」
ビッグブルーが、ついにやってのけた。
星3初制覇。
おじ武者は、静かに画面を見つめる。
(……来週、銀)
【タイダル】「わはははははー!我々、ビッグブルーこそ最強だ!!」
タイダルは、止まらない。
ハービボア・クランは、まだその領域にはいない。
【るき】「悔しいですか?」
【おじ武者】「いや、凄いなと」
正直に言う。
【おじ武者】「ですが、焦りません」
昨日、揃えた。
今日、底上げした。
105サーバーの盤面は、確実に動いている。
翌日から。
ハービボア・クランは、黙々と火山を周回した。
灼熱の溶岩地帯。
クリムゾン系モンスターの群れ。
経験値効率重視の最短ルート。
【るき】「またワイバーン!?」
【カイル】「文句言うな、うまいんだよここは」
【パニーニ】「耐性更新、忘れないでー!」
おじ武者は、あえて細かくは指示しなかった。
見る。
任せる。
必要なときだけ整える。
メンバーは皆、着実にレベルを上げ、装備を揃えていった。
そして金曜日、夜。
おじ武者は一人、黒い裂け目の前に立っていた。
奈落の縁。
(今の自分なら、どこまでいけるだろう)
ソロ奈落、再挑戦。
【システム】《奈落 第一層 遺跡エリア》
崩れた石柱。
ひび割れた床。
重い空気。
あの時より、レベルは多少上がった。
だがそれ以上に違うのは、経験。
阿修羅ネズミが跳ぶ。
一閃。
鬼神コウモリが急降下。
半歩ずらし、切断。
奈落トカゲが毒を吐く。
射線外、即詰め。
(見える……)
一度見た敵、動き。予備動作。
被ダメージ、ゼロ。おじ武者は遺跡エリアを、滑るように進んだ。
最奥寸前。
【たまも】「あなたも、ソロ奈落ですか?」
【おじ武者】「む?」
振り向く。そこにいたのは、小柄な魔導士。
狐耳のアバター。
サーバー総合力ランキング6位。
ギルド未所属 【たまも】
【おじ武者】「あなたは……」
【たまも】「たまもです。……9位のおじ武者さんですね?」
軽く会釈。ボス扉の前で出会う、二人のランカー。
【おじ武者】「せっかくなので、ここは共闘しませんか?」
たまもは一瞬だけ戸惑う。
ソロ勢。
無所属。
誰にも属さない強者。
だが。
【たまも】「……ぜひ」
扉が開く。
待ち受けているボスの名は、
懸念の蜘蛛 不安のシャスエティ
青白い人形の魔神。
蜘蛛要素は、六本の腕のみ。
無機質な顔。空洞の瞳。
あらゆる状態異常を操る、奈落屈指の嫌な存在。
毒。
盲目。
沈黙。
混乱。
通常なら、ジリ貧になる。だが。
【たまも】「魔封」
詠唱が速い。シャスエティが腕を振る前に、魔封付与。
【たまも】「盲目、重ねます」
さらに速い、状態異常の主導権を奪う。
(……速い)
ランキング6位。
伊達ではない。
【おじ武者】「では、こちらは」
踏み込む。魔法を封じられ、視界を奪われた魔神。
六腕の乱撃も、精度を失う。
一刀。
二刀。
三刀。
関節を断つ。
【たまも】「凍結、入ります」
【おじ武者】「助かります」
連携というより、最適解の重なり。瞬く間に。
【システム】《不安のシャスエティ 撃破》
青白い魔神が崩れ、光へと変わる。
【システム】《奈落 第一層 攻略完了》
静寂。奈落の闇が、わずかに揺らぐ。
【たまも】「あっさり、ですね」
【おじ武者】「あなたのおかげです」
たまもは首を振る。
【たまも】「封じても、削れなければ意味がありません」
【おじ武者】「削れる状況を作れなければ、意味がありません」
一瞬の沈黙。そして、たまもが小さく笑った。
【たまも】「……面白い人ですね」
奈落第一層。
ソロで到達し、共闘で突破した。




