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第十三話 参加表明

 土曜日。


 ログイン画面を開く前、指先がわずかに止まった。

 この一週間、おじ武者は考え続けてきた。


 指揮とは何か。

 速さか。正確さか。

 それとも、信頼か。


 そして今夜、その答えを試す場所がある。

 ギルドバトル。105サーバー、勢力図が動く夜。


【おじ武者】「……参加します」


 ギルドチャットが一瞬止まり、次の瞬間に爆発した。


【るき】「えっ!? 本当ですか!?」

【カイル】「マジで!? ついに!?」

【リルティ】「心強いです……!」


 斬鬼は短く。


【斬鬼】「待っておりました」


■ 布告先:南東銅大区画

■ 保有:南西銅大区画(無布告)


 南西銅は、誰からも狙われなかった。


 当然だ。ハービボア・クランには、105サーバーのトップクラスが二人いる。


■ サーバー総合力ランキング


1位:ゼウス(暁光)

2位:ティアマト(BLACK SUN)

3位:タイダル(ビッグブルー)

4位:くじら(ビッグブルー)

5位:ヴェルゼ(BLACK SUN)

6位:たまも(無所属)

7位:斬鬼 (ハービボア・クラン)

8位:マリア(暁光)

9位:おじ武者 (ハービボア・クラン)

10位:グラハム(グラトニー)


 南東銅を守るのは、グラトニー。

 鍵は、グラハム。


 トップ10入りの実力者。

 単体戦闘力なら、銅帯では突出している。


【るき】「グラハム強いですよね……」

【カイル】「正面突破はキツくねぇ?」

【おじ武者】「ええ。ですから、正面突破はしません」


 静かにマップを開く。


【おじ武者】「初動は分散。敵主力を中央に引き寄せます」

【リルティ】「……陽動?」

【斬鬼】「読み合い、ですな」


 一方、上位ギルド。


■ 南・北東:暁光

■ 北西:ビッグブルー

■ 中央金:BLACK SUN


 いつもなら、ビッグブルーが中央金に挑む。

 BLACK SUNと激突。

 手薄になった区画を暁光が奪う。


 それが定石。だが今回、ビッグブルーは、南銀区画に布告。


【るき】「え? 金行かないの!?」

【カイル】「日和った?」


 おじ武者は、首を振る。


「違います」


 その瞬間、別チャットで動きが出る。


 暁光は北西銀へ布告。

 BLACK SUNは布告されず、不参加。


 つまり。


 南銀:ビッグブルー

 北西銀:暁光


 直接衝突はない。タイダルの狙いは、ただ一つ。


(……こちら、ですか)


 ハービボア・クラン。


 二つ目の銅を取り、次週銀へ挑む。

 勢いが出る前に、叩く。


 それを、タイダルは望んでいる。


【カイル】「つまり、俺らが勝ったら来週銀で当たるってことか」

【おじ武者】「ええ」


 暁光のマリアは、ビッグブルーの裏を完全に読んでいた。


 ビッグブルーが南銀に主力を割くなら、北西は薄い。そして北西銀を奪えば、南銀は自然と放棄される。


 交換、冷静な判断。


【斬鬼】「マリア殿、盤面を見ておりますな」

【おじ武者】「ええ。あの方は、盤上を読む」


 そしてタイダルは、おそらくチャットでこう言っている。


 わははは!ハービボアが銀に上がる前に、叩く!!


 戦闘開始まで、あと五分。

 おじ武者はギルドメンバーを見渡す。


【おじ武者】「本日の目標は、勝利だけではありません」

【るき】「え?」

【おじ武者】「揃えることです」


 完璧な指示はいらない、伝わる言葉で。


【おじ武者】「最初は中央を捨てます。慌てない。落ちても焦らない」

【リルティ】「はい……!」

【おじ武者】「斬鬼殿と私でグラハムを引き受けます。皆は拠点制圧に集中」

【カイル】「マジか……トップ10対決じゃん」

【斬鬼】「腕が鳴ります」


 おじ武者は静かに息を吐く。

 速さではない、揃える。


【システム】《ギルドバトル開始》


 銅色の砦。遠くに、グラハムの名が光る。


【おじ武者】「中央、譲ります」


 敵が予想通り中央へ集まる。


【おじ武者】「今です。左右拠点、同時制圧」

【るき】「了解!」

【カイル】「走れぇぇぇ!」


 そして中央。主のグラハムが、笑う。


【グラハム】「よう、9位」

【おじ武者】「10位殿」


 刃が交差する。銅帯の空気が震える。


 そして遠くで、ハービボア・クランの面々がグラトニーのメンバーを撃破していた。

 揃っている。ばらけていない。


(……なるほど)


 胸の奥に、静かな確信が生まれる。


 指揮とは、前に出ることではない。

 全員を、同じ景色に立たせること。


 グラハムの大剣が振り下ろされる。

 それを受け止めながら、おじ武者は静かに笑った。


「面白くなってきましたね」


 105サーバーの盤面が動く。


 次週、銀を懸けた戦いへ。

 まずは、この銅を確実に取る。


 グラハムの大剣が、轟音とともに振り下ろされる。


 重い。


 おじ武者は、両手で宗光を構え、正面から受けた。


【グラハム】「正面で受けるかよ!」


 衝撃が地面を割る。HPバーがわずかに削れる。

 だが、退かない。


【おじ武者】「ええ。今回は、退きません」


 それは、挑発ではない。役割だ。


 おじ武者が受ける。

 中央で足を止める。

 グラハムを縫い止める。


 その一瞬、背後。


【斬鬼】「もらった」


 黒い残像。鬼丸が、死角から走る。


【グラハム】「なっ――!」


 背面急所。クリティカル表示が弾ける。


【おじ武者】「今です」


 真正面から、居抜き一閃。

 前後同時の挟撃。完璧に、ハマった。

 グラハムのHPが一気に削れ落ちる。


【グラハム】「くっ……やるじゃねぇか!」


 その間、他のメンバーがグラトニーの面々を撃破。

 グラトニーの援軍は来ない。


【斬鬼】「勝負あり、ですな」

【おじ武者】「ええ」


 最後の連携。

 斬鬼が足を刈り、おじ武者が喉元へ、一直線。


 ―閃。


【システム】《グラハム 撃破》


 同時に。


【システム】《南東銅大区画 制圧完了》


 完全勝利。チャットが歓声で埋まる。


【るき】「やったぁぁぁ!!」

【カイル】「完璧じゃねぇか!」

【リルティ】「揃ってました……ちゃんと……!」


 おじ武者は、静かに刀を収める。

 中央に残る、敗北ログ。

 だが、グラハムはリスポーン地点から歩いてきた。


【グラハム】「くそ。見事だった」


 その表情は、悔しさよりも清々しい。


【おじ武者】「紙一重でした」

【グラハム】「慰めか?」

【おじ武者】「事実です。今日は作戦がハマりました」


 グラハムは一瞬黙り、そして笑った。


【グラハム】「なるほどな。ギルド戦ってやつか」


 おじ武者は手を差し出す。そして、グラハムもその手を握った。固い握手。


【グラハム】「またやろう」

【おじ武者】「ええ。必ず」


 グラトニーは敗れた。

 だが、盤面は次へ進む。


 二つ目の銅エリア。


 ハービボア・クランは、確実に階段を上がった。


【斬鬼】「次週、銀ですな」

【おじ武者】「ええ」


 視界の端に、別戦場の結果が流れる。


 北西銀・暁光制圧。

 南銀・ビッグブルー制圧。


 そして、そのどこかで。

 タイダルが笑っているだろう。


 来いと。


 おじ武者は、深く息を吐いた。

 指揮とは、揃えること。

 今夜、それが証明された。


 だが銀は違う。


 もっと速く、もっと強く、もっと重い。


 それでも。


「……行きましょうか」


 105サーバー。銅を制したハービボア・クランは、次なる戦場へ向かう。

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