第十一話 今度のレイドは、ソロじゃない
翌日、日曜日。夜九時前。
ハービボア・クランのギルド画面には、見慣れぬ賑わいがあった。
るき、カイル、リルティ、パニーニ。
斬鬼は既にログイン済み。
そのほかのメンバーも次々と集まり、待機人数は十人を超えている。
【るき】「こんなに集まるの初めてじゃない!?」
【カイル】「昨日銅区画取ったからな。テンション上がってんだろ」
【パニーニ】「星2とはいえ油断は禁物だよ」
【リルティ】「が、頑張ります……!」
中央で静かに佇む、おじ武者。
【おじ武者】「本日は星2レイド。肩慣らしと参りましょう」
その声はいつも通り、穏やかだ。
だが空気は違う。
昨日は、おじ武者不参加のギルドバトル。
今日は、おじ武者参加のレイド。
【システム】《ギルドレイド 開始》
視界が白く染まり、次の瞬間。
砂。どこまでも続く砂。
快晴の空。灼熱の太陽。
果てしなき砂地。
【るき】「うわぁ……なにこれ、広っ」
【カイル】「視界悪すぎだろ……」
その時、砂が盛り上がった。
ざわり、と波打つ地面。
まるで海面を泳ぐ巨大魚のように、砂の大海原を裂いて影が走る。
【パニーニ】「来るよ……!」
次の瞬間。轟音とともに砂柱が噴き上がり、巨体が姿を現した。
全長数十メートル。鋼鉄のような外皮。
円形に並んだ牙が、砂を噛み砕きながらうねる。
【システム】《レイドボス タイラントワーム》
咆哮はない。ただ、砂を裂きながら襲いかかる。
【おじ武者】「前衛、散開。正面固定は斬鬼殿」
即座に指示。
【斬鬼】「心得た」
鬼丸を構え、真正面へ踏み出す。
るきとカイルが左右に展開。
【るき】「ヘイト取るよ!」
【カイル】「巻き込まれんなよ!」
ワームが潜る。地面が波打つ。
【リルティ】「下から来ますっ!」
巨大な影が足元を通過。
次の瞬間、斜め後方から飛び出す。
だが。
斬鬼が間に合う。
鬼丸一閃、甲殻に火花が散る。
【おじ武者】「硬いですね」
おじ武者が一歩踏み込み、宗光を抜く。砂塵の中で、刃が光る。
【おじ武者】「横腹、今です」
るきのスキルで体勢が僅かに崩れる。
そこにカイルの連撃か繋がる。
さらに、リルティの矢が弱点部位に突き刺さる。
【パニーニ】「全体防御アップ!」
淡い光が広がる。十人以上の足並みが、初めて揃う。タイラントワームが怒り狂い、砂嵐を巻き起こす。
だが、昨日までとは違う。
この場には仲間がいる。
おじ武者は、前に出る。
【おじ武者】「では」
宗光を構え、砂煙の中を駆ける。
【おじ武者】「噛みつきの後、三秒隙がある。そこです」
牙が振り下ろされる。地面が爆ぜる。
その直後、斬鬼とおじ武者、同時に踏み込む。
交差する刃、甲殻が裂ける。
タイラントワームが初めて、明確なダメージ反応を見せた。
【るき】「入ったぁぁ!!」
【カイル】「いけるぞこれ!」
砂海に、草食獣たちの雄叫びが響く。
中心に立つのは、やはりあの男。
だが今回は、一人ではない。
ハービボア・クラン、十余名。
現時点では脱落者無し。
タイラントワームの体力は、残りわずか。
だがその瞬間、巨体が不自然にうねった。
【おじ武者】「……来ます」
地面が爆ぜる。防御を捨てた突進、甲殻を閉じることなく、ただ暴れる。牙が振り回され、砂が竜巻のように舞い上がる。
【るき】「ちょ、ちょっと待ってこれ!?」
【リルティ】「パターンが変わってます……!」
スタミナを削る咆哮、全方位衝撃。
防御バフが、削り取られる。
【パニーニ】「しまった!!」
回復詠唱の最中、砂中からの急襲。
牙が、真下から突き上げる。
【システム】《パニーニ 戦闘不能》
後衛のハブが落ちる。
一瞬、陣形が揺らぐ。
【おじ武者】「落ち着いて。散開を維持」
だが、連撃は止まらない。
尾の叩きつけ。るきの隣をかすめ、カイルを直撃。
【システム】《カイル 戦闘不能》
【カイル】「くっそ、焦っちまった……!」
観戦モードへ切り替わる彼の声は、悔しさを滲ませていた。
仲間達が次々と倒され、前衛が崩れる。
残るは、るき、リルティ、斬鬼、そしておじ武者。
ワームは暴れ続ける。
防御は皆無、だが火力は跳ね上がっている。
まさに最後の足掻き。るきは、なんとか踏みとどまる。
【るき】「まだ行ける……!」
被弾しながらも、ヘイトを散らす。
リルティは距離を保ち、冷静に矢を番える。
【リルティ】「弱点、右側面……今です!」
正確な一射。
(……成長しましたね。心強い)
おじ武者は、ほんの僅かに目を細める。
斬鬼が前へ出る。
【斬鬼】「某が止める」
鬼丸が唸る。正面から、真っ向勝負。
ワームが牙を振り下ろす。
それを、斬鬼が受け止める。
一瞬、その隙に。
【おじ武者】「今」
宗光が閃く。
斬鬼とおじ武者。
呼吸が、合う。
鬼丸が甲殻を裂き、宗光がその奥へと通る。
二連。
三連。
連撃は止まらない。
るきが横からスキルを叩き込み、リルティの矢が、裂け目に突き刺さる。
タイラントワームが、大きくのけ反る。
巨体が揺れる、そして。
【システム】《タイラントワーム 討伐完了》
砂海に、静寂が戻った。
巨大な身体が崩れ落ち、光の粒子へと変わっていく。灼熱の空の下、残ったのは、立っている者と、観戦する者。
【るき】「……や、やった……?」
【リルティ】「勝ち、ました……」
斬鬼が静かに刀を収める。
【斬鬼】「楽しかったですな」
おじ武者は宗光を軽く振り、刃に残る砂を払う。
【おじ武者】「良い暴れっぷりでした」
観戦モードから声が飛ぶ。
【カイル】「最後マジで焦ったぞ……!」
【パニーニ】「あれは反則でしょ……!」
だが、誰の声も明るい。
十人以上で挑み、途中脱落はあったが、勝った。
星2レイド、初討伐。
おじ武者は周囲を見渡す。
倒れた者も、立ち続けた者もいる。
だが、確実に昨日より強い。
「……良いですね」
小さく呟く。これは、ソロでは味わえない手応え。
砂海に立つハービボア・クランは、確かにギルドになりつつあった。




