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サンドボックスウォーズ「105サーバーのおじ武者」  作者: 黒瀬雷牙


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第十話 おじ武者、初のソロ奈落

 105サーバーが、ギルドバトルの喧騒に包まれている頃。


 フィールドのあちこちではスキルの光が弾け、チャットは罵声と歓声で流れていく。

 勝ちと負け、奪う側と奪われる側。

 この世界で一番、プレイヤーがいる時間帯。


 そんな時間に、おじ武者はたった一人でダンジョンの前に立っていた。


 最高難度ダンジョン・奈落。


 ギルドバトル中にダンジョンへ向かうのは、箱庭勢くらいのものだ。しかも、まだ稼働して間もない105サーバー。バトル云々抜きにしても、奈落に挑むギルドなどいるはずもない。


 その上で、ソロ奈落。正気の沙汰ではない。


 ヴェルゼなら、やらない。

 マリアも、やらない。

 ギルドメンバーを総動員したとしても、だ。


 無駄だと、分かりきっているから。


 奈落は、個人の挑戦を許さない。

 そういう設計のダンジョンだ。


(……タイダルは、やりかねんが)


 そんな考えが一瞬よぎり、おじ武者は小さく鼻で笑った。


 自分だって、同じだ。


 無謀だ。

 無意味だ。

 それでも。


 それでも、おじ武者はここに来た。


 知りたかった。


 自分がどこまで行けるのか。


 ダンジョンエントリーのウィンドウが、静かに浮かび上がる。


【システム】《警告:本ダンジョンは高難度コンテンツです》


 いつもなら、軽い確認でしかない文字列が、今日は妙に重く見えた。


「……」


 おじ武者は返事をしない。

 頷きも、決意表明もいらない。


 ただ、選ぶだけだ。


 決定。


 視界が暗転する。


【奈落 第一層 遺跡エリア】


 崩れた石柱。

 苔むした床。

 かつて何かが栄えていた痕跡だけが、静かに残っている。


 風はない。音もほとんどない。

 ギルドも、仲間も、観客もいない。


 いるのはおじ武者、ただ一人。


「……さて」


 刀を抜き、構えを取る。


 誰に見せるでもない。

 誰に評価されるでもない。


 それでも、この一歩は。

 確かに、自分のものだった。


 遺跡エリアの奥。崩れた回廊を進んだ瞬間、影が走った。


「来ましたか」


 床を這う灰色の塊。


 阿修羅ネズミ。


 通常エリアのネズミの三倍はある巨体。前脚が異様に発達し、二連、三連と爪撃を叩き込んでくる。


 速い。


 一撃目をいなす。

 二撃目を受け流す。

 三撃目は浅く被弾。


 HPが一気に削られる。


「ほう……」


 間髪入れず、天井から影。


 鬼神コウモリ。


 翼を広げた瞬間、超音波の衝撃波。

 回避不能に近い範囲攻撃。


 耳鳴り。

 視界ブレ。

 そこへ阿修羅ネズミの突進。


 完璧な連携。


「これは……良いですね」


 口元がわずかに緩む。ギリギリで踏み込み、ネズミの首元へ一閃。


 クリティカル。


 続けて、着地したコウモリを袈裟斬り。

 HPは赤。回復は最小限。


 それでも二体、撃破。


 静寂が戻る。


 だが、石壁の隙間から這い出る影。


 奈落トカゲ。

 細長い体躯、だが目が違う。捕食者の目。


 一瞬で距離を詰められる。


「……速い」


 反応した時には遅い。


 噛みつき。

 毒。

 即座に追撃の尻尾叩きつけ。


 ガードを割られる。


 体勢が崩れた瞬間、

 爪による三連撃。


 HPゼロ。視界が白く弾ける。


【システム】《おじ武者 戦闘不能》


 ボスどころか、雑魚。

 第一層の、ただのモブ。

 強い、などという言葉では足りない。


 理不尽。容赦がない。

 調整ミスを疑うレベル。


 だが、リスポーン地点。

 おじ武者は、静かに立ち上がる。


「……悪くないですね」


 声がやけに穏やかだった。最高難度ダンジョンは、こうでなくては張り合いがない。


 ふと、思い出す。

 昔やり込んだ、あの有名RPGの“2”。


 最終ダンジョン。


 理不尽な数の罠。

 理不尽な即死技。

 理不尽な難易度。


 何度、コントローラーを投げかけたことか。

 何度、ため息をついたか。


 それでも。


 イライラし、

 ハラハラし、

 そして、ワクワクしていた。


 プレイヤーに忖度しない難易度。


「お前はまだ弱い」と、はっきり言ってくる世界。


 その先にラスボスの城があるのに、辿り着く前から、妙な達成感すらあった。


 そしてラスボス。あのシリーズが今や十作以上続いているのに、いまだに最高難度の一体と語られる存在。


 理不尽。

 凶悪。

 絶望。


 だが、忘れられない。

 おじ武者は、小さく笑う。


 即敗退。成果なし。

 経験値すら、難易度に見合わぬ微々たるもの。


 それでも。


「楽しいですねぇ……」


 目が、少年のように輝いていた。

 簡単に勝てない。だからこそ面白い。


 奈落は強い。理不尽なほどに。

 だからこそ、挑む価値がある。

 ギルドバトルの喧騒とは別の場所で。


 誰にも知られず。

 一人の男が、静かに燃えていた。

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