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サンドボックスウォーズ「105サーバーのおじ武者」  作者: 黒瀬雷牙


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第一話 課金の価値観

 ワイバーンハンター。

 PVPも煽り合いもない、ただ巨大な魔獣を仲間と狩るだけのゲーム。


 都内マンションのリビングで、部長はコントローラーを置いた。


「……よし、全クリっと」


 エンディングロールが流れる。

 世界は救われ、仲間は笑い、争いはなかった。


 悪くない。

 いや、正直に言えば、かなり楽だった。


 誰とも揉めない。

 誰にも絡まれない。

 ただ、協力するだけ。


「……こういうので、いいんだよな」


 スマホを手に取ると、SBWのアイコンはホーム画面の奥に追いやられていた。


 もう、ログインはしていない。


 数日後。

 会社の昼休み。社員食堂のテレビがCMに切り替わった。


『サンドボックスウォーズ!一周年記念!』


 剣、魔法、仲間、歓声。

 かつて毎晩のように見ていた世界。


 部長の箸が止まる。


『新サーバーオープン!初心者も大歓迎!』


「……」


 新サーバー。誰も自分を知らない場所。

 過去も、立場も、人間関係もない場所。


 そこに、あの騒動も、

 ()()()もいない。


 あの全チャの暴言。

 煽り、嘲笑、侮辱。


 金持ちのボンボン中学生。親の金で強キャラを揃え、人を見下すことだけは一流だった。


「消えりゃよかったのにな」


 あの一言が、部長の中の何かを完全に折った。


「……」


 スマホを開く。SBWを久しぶりに起動する。


「おじサムライ……は、もういいな」


 あのデータには、人間関係も、責任も、疲労も詰まりすぎている。


 今回は、ただの一人でいい。

 入力した名前は――


 おじ武者


 新規登録、完了。


 その夜。部屋でアバターを動かす。


 レベル1。初期装備。

 初心者ばかりの新サーバー。


【るき】「ここどう進むんですか?」

【カイル】「岩動かせるとか?」


 少し迷ってから、部長は打ち込んだ。


【おじ武者】「右の岩、壊せますよ」

【るき】「うわ本当だ!ありがとうございます!」


 感謝のスタンプ。

 胸の奥が、じんわり温かくなる。


「……やっぱ、こういうのが好きだ」


 争わない。煽らない。ただ助け合う。

 ここなら、続けられる。


 翌日。

 会社の廊下。


「部長ーー!!」


 おなじみの大声。三國灯が走ってくる。


「聞いてください!32サーバー、最近めっちゃ雰囲気いいですよ!」


「へぇ?」


「まろんっていうガキ、完全に村八分になってやめましたし!」


 部長の表情が、一瞬だけ固まる。


「……そうか」


「いや~、あいつ金持ちのボンボン中学生だったらしいですよ?親の金で課金しまくってイキってたとか」


 灯はケラケラ笑う。


「今はもう平和そのものです!煽りも減って、ギルド同士も仲良くなってきて!」


 部長は、少しだけ目を伏せた。


「……よかったね」


「ですよね!だから部長も!」


 灯が、いつもの勧誘モードに入る。


「戻りましょう!おじサムライ復活ですよ!みんな喜びますって!」


「……」


 部長は苦笑した。


「三國くん、しつこいなぁ」


「営業ですから!」


「それでもね……」


 少し間を置いて、静かに言う。


「今の場所が、気に入ってるんだ」


「えー!またワイバーンハンターですか?」


「そう。平和でいい。むしろ三國くんもやらんか?」


 灯は腕を組んでむっとする。


「部長、絶対SBWの方が楽しいですって」


「楽しい、だけじゃ続かないこともあるさ」


 その言葉の意味を、灯はまだ知らない。


 その夜。

 105サーバーの草原。


 おじ武者は、今日も初心者の質問に答えていた。


【るき】「ギルド入った方がいいですか?」

【おじ武者】「無理しなくていいですよ。自分のペースが一番です」

【カイル】「おじ武者さん、どっか入るなら教えてくださいよ、同じとこ行くんで!」


 さっそく新規二人に懐かれてしまったようだ。


 おじ武者は戻らないのではない。

 戻らなくていい場所を選んだだけだ。


 ただ、それを三國灯に知られるわけにはいかない。


 あの強引な性格だ、もしバレたらまた、同じ場所に引き戻される。


 だから彼は、今日もおじ武者として剣を振るう。


 105サーバーの草原。

 今日もいつものように素材集めをしていると、チャット欄が少し騒がしくなった。


【るき】「周年ガチャって引いた方がいいのかな?」

【カイル】「10連で3,000ダイヤって高くない?」

【るき】「無償のもあるけど、どうせなら強いの欲しいよね」


 初心者らしい悩みだ。おじ武者は、少しだけ懐かしい気持ちになりながらキーボードを叩いた。


【おじ武者】「周年は基本、熱いですよ」

【るき】「お、ベテランの意見!」

【カイル】「やっぱ引くべきっすか?」


【おじ武者】「やるなら、スペシャルの方ですね」


【るき】「無償じゃなくて?」

【おじ武者】「無償も悪くないですけど、周年は有償の方が排出率いいことが多いです」


 画面の向こうで、二人が顔を見合わせているのが目に浮かぶ。


【カイル】「でも3,000ダイヤって……」

【るき】「現金だといくらくらい?」


 おじ武者は少しだけ笑ってから答えた。


【おじ武者】「有償ダイヤは100個220円なので、3,000ダイヤだと、6,600円ですね」

【るき】「うわ、普通に高い!」

【カイル】「学生にはキツいっす……」


 その反応も、どこか懐かしい。


【おじ武者】「まぁ、無理して引く必要はないですよ。でも、周年ガチャはお祭りみたいなものなので」

【るき】「お祭り?」

【おじ武者】「本当に面白いゲームを提供してくれる運営への、お布施みたいなものです」

【カイル】「お布施ww」

【るき】「大人の余裕だ……」


 おじ武者は、少しだけ肩をすくめた。


【おじ武者】「楽しいと思えたゲームには、ちゃんとお金を払う。それが続いてくれるなら、悪くない投資ですよ」


 そして、続けて打ち込む。


【おじ武者】「ちょっと試しに引いてきますね」

【るき】「え、今から!?」

【カイル】「結果教えてください!」


 ショップ画面。

 周年記念スペシャルガチャ・10連。

 有償3,000ダイヤ。


「……まぁ、たまにはな」


 指が、購入ボタンを押した。


 6,600円。

 安くはない。けれど楽しむための課金だ。


 ガチャ演出が始まる。

 光が弾け、武器と装備が次々に現れる。


 サンドボックスウォーズの装備には、レアリティが六段階ある。


 まずはN。これは下位ダンジョンなどで手に入る武器。木刀や銅の剣、革の服などがある。

 ガチャでは出現しない。


 R。中級ダンジョンや下位レイドで見かける。

 ガチャでも出現し、占有率は40%。

 いわゆるハズレだ。


 SR。上位ダンジョンや、中位レイドで手に入る。

 ガチャでの占有率は、Rと同じ40%。

 同じ装備を引き、突破(※1)を繰り返し、完凸すれば、序盤なら使えないこともない。


 SSR。上位ダンジョンのボスからのレアドロップや、最難関ダンジョン・奈落の浅層、上位レイドのレアドロップなどで手に入る。

 ガチャの場合は16%。序盤では重宝する装備となる。


 UR。奈落の層ボスからレアドロップする素材や、上位レイドのレアドロップ素材、イベント報酬などを集めて生成できる。

 ガチャでの出現率は、3.975%。

 上位陣はこのレアリティの装備を目指す。


 最後にLR。現時点では普通には手に入らない。奈落の最奥のボスなどから素材が出るという噂があるが,ソースはない。

 ガチャでの出現率は、0.025%。

 ズバ抜けた性能ではあるが、現実的に突破が困難な上、UR装備を三凸もすれば追い越せるため,ここを狙うプレイヤーは無いに等しい。


 今回の周年記念スペシャルガチャのぶっ壊れポイントは、10連目がUR以上保証。

 なんと、UR99%、LR1%なのだ。


 画面に表示された結果は、UR装備ひとつ。


 UR:宗光むねみつ

 刀身が淡く光る、日本刀型の武器だ。


 派手な奇跡は起きなかった。

 だが、それでよかった。


「……まぁ、こんなもんか」


 かつては強くなるために、必死にガチャを回していた。


 今は違う。


 ただ、楽しいから。この世界が好きだから。

 それだけで、十分だった。


【るき】「結果どうでした!?」

【カイル】「神引きっすか!?」

【おじ武者】「UR一個だけですね」

【るき】「え、最低保証じゃないですかw」

【カイル】「夢ないなぁ~」


 その軽口が、心地よかった。


【おじ武者】「でも、楽しかったですよ。それで十分です」


 チャット欄に、笑いのスタンプが並ぶ。


 争いも、煽りも、責任もない。

 ただ、同じ時間を楽しむ仲間がいる。


 おじ武者は、もう戻らないのではない。

 ここに、ちゃんと居場所を見つけたのだ。


 105サーバーの草原。今日も風は穏やかで、剣の音と、笑い声だけが響いていた。


 それが、今の彼にとって何よりの報酬だった。

※突破について


このゲームでは、同じ装備をもう一度手に入れると、その装備を素材として消費し「突破」を行うことができます。

突破をすると、装備名の横に「+1」「+2」といった数値が表示され、性能が少しずつ強化されていきます。


最大で「+5」まで突破することができ、これを完凸かんとつと呼びます。

完凸した装備は、その武器が持つ本来の力をすべて引き出した、いわば“完成形”の状態です。

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