エピローグ
何もない、真っ白な地面に、僕は立っている。
ここにはまだ何もない。『まだ』何もない。
僕が思い浮かべれば、黒い文字が情報になって浮かぶ。そんな、『有る』と『無い』の二択の世界だ。
空白の上に立ち尽くし、僕は、一人の女性からの言葉を待っている。
それは僕のパートナー。同僚。仲間。そういった関係の女性だ。
これから僕たち二人で、この何も無い大地に文明を作ったり、滅ぼしたり、再興したりするんだ。
そう、僕たちはこの世界の最初の男女。『アダムとイブ』なんだから。
僕は元宇宙飛行士のライト。真っ黒な宇宙空間が僕の職場だった。
不安はない。真っ黒が真っ白に変わっただけだ。
ずいぶん待ちくたびれたが、ようやく、「」を使って、彼女が僕に話しかけてくれた。
「最初から気づいてました。私。
あ、これからこの人と生きていくんだって。これからずっと歩いてくんだって。ずっとあなたの後」
白い空間に文字が浮かんでいるだけで、彼女が今どんな顔をしているかはわからない。
でも、僕と同じ顔のはずだ。
「またそんな恥ずかしくなることを言うんだもんなあ……。ずっと待たせておいて。僕がどんな気持ちか知らないで」
「ごめんなさい。でも、伝わってきましたよ? ライトさんの愛」
「読んだの!? あの恥ずかしい手紙! うわぁ」
「『リード、生涯僕のパートナーになってくれ!』なんてもう、プロポーズじゃないですか。真っ赤ですよ? お顔が」
「と、とりあえず、これからの話をしないか! 僕らはこれから、気が遠くなるほどの文明を描く。どんな世界にするか、話し合おう」
「五個のうちどれかの世界ですよね。ミステリーの世界だとライトさんは生き残れないし、ホラーの世界でも、ライトさんは生き残れませんから。消えました? 胸のアザ」
「いまも残ってるよ! そのまま」
「スゴ!! そうなんですか!? いたそ」
相変わらず、呑気なセリフが「」を通じて僕に届く。
こんなやりとりができている間は、僕たちはきっと、大丈夫だ。
「しかし、大変だぞこりゃ。
これから多分人も増える。その人たち全員が、収まるだけの世界を作っていくなんて」
「思いついた順番に書いていきましょう。一つずつ。
私たちには、私たちのやり方があるじゃないですか」
「え? 僕たちのやり方……? あれか『行き当たりばったり』」
「なんでそうなるんですか! 認めちゃってるじゃないですか! 計画性の無さ」
相方に痛いところをつかれて、僕は頭をかいた。
そして、足元に、最初の道を一本引いた。
ここから先のことは何も考えてない。
この世界のように真っ白だ。
僕は、まず一歩を踏み出した。
足元に地面を感じる。元宇宙飛行士としてはこの上ない快楽だ。
これから、ここにきっと、人はいっぱい来てくれるだろう。
そして一緒に考えるんだ。僕らなりのユートピアを。
これば、僕の使命の物語じゃない。
僕と、僕の少し後ろを呑気に歩く、この相棒の物語だ。
彼女がいれば、どこまでだって疲れないで歩き続けられるはずだ。
「いきましょう! これは、私たちの物語なんですから!
どうですか? まずは私たちの愛の巣から作るなんてのは」
「あのな! 真面目に考えてくれよもっと」
まだ全然、人々を出迎える準備なんてできてはいない。
あるのは、僕の呆れた声と、リードの笑い声。
でもそれさえあれば、僕らはどこにだっていけるんだ。
これからどこに行こう?
どこにだっていける。
そうだよな? ……そうですよね?
イタズラっぽい笑顔で、リードは僕の最初の一言を待っている。
まずは何より、この空間を渡る脚が必要だ!
真っ暗な宇宙に宇宙船が必要なように、僕たちにはまず、この空白を泳ぐアレが必要だ!!
帆を張って、僕らを乗せて帆走るアレが!!
僕たちにはそれがわかっている。
そうだよな! ……そうですよね!
僕は、息を吸って……最初の文字を浮かべることにした
真っ白な空間に向けて、僕は高らかに念じた。
すなわち……
空白に舟を浮かべろ! 了
* * * * *
最後まで読んでくれたあなたに、
リードが最終話の中にもメッセージを隠したよ!
ヒントは、一個前の話にあります!




