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空白に舟を浮かべろ!  作者: SBT-moya
第三章
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第39話 浮かべろ

 空間に触れた隕石は、光の線に形を変えて、地球に降り注いでいく。


 僕が、『イデア』を『アイデア』に変換したからだ。



「なんてことだ……私の計画が……」


 糸目の男が、隕石が光として分解されていく様を、呆然と見ている。

 

「……イデアとアイデア。スペルはどっちも『I』『D』『E』『A』だ。プラトンの言う『実像の概念』を、それを生み出す『発想』に変換するなんてものすごく簡単な事だったんだよ。……僕にもできるくらいね」


 この日この時、世界中は昼も夜もなく、眩しい光に包まれたという。その光の正体は……宇宙からもたらされた莫大な『アイデア』だ。



「あと一歩で……あと一歩でこの空間に沢山の人間が訪れて……豊かな文明になるはずだったんだぞ。それを君は……」


「あんたには悪かったよ。幾百年かけた計画をこんなにしちゃって。でもさ……カエサルの言葉を思い出せよ。隕石という苦難を乗り越えた人類は、このあとどんなルネサンスを起こすだろう?

 ……何せこの質量のアイデアが、今日地球に降り注ぐんだぜ?

 ……少し楽しみに思えてこないか……?」


 

 糸目の男は、肩を落としてその場にへたり込んだ。


「自分が何をしたのか分かっているのか……人間のいない文化は栄えない。リード君と君、そして隕石が着火剤になって、私の作った文明が栄えるはずだった……

 廃れるぞ。この世界は……それがどういう意味か! 君に分かっているのか! ええ!?」


 男の糸目からは雫が溢れていた。何かに、怯えていた。


「孤独になるんだぞ! 君も! 私も!! 何者にもなれないでこの白い空間にぶら下がる記号の一つになるんだぞ!

 ……死ぬことも許されない……永遠の孤独。独りになるんだぞ……

 耐えられるのか、君は」


 僕は、何も答えられないでただ、地球に降り注ぐアイデアを見ていた。


「世界中の人間に入り口を開けばいいじゃないか。誰かは来るよ」


「保証があってものを言っているのか!?

 何もわかってないな君は!! 言っておくが君は元の肉体に戻れないぞ!? リードだってそうだ!

 君たちが生きていくには、もうこの空間に留まるしかないんだぞ!? この何もない空間に!!」


 僕は黙って宇宙を見ていた。太陽を間近に感じるような、眩しい光だった。


「ルネサンスが起きたとして……誰が物語なんて書くんだ。

 もう、『物を語る行為』は前時代的と呼ばれつつあるんだ。

 誰がここに……物語を書きに来てくれる……」


 震える声で、男は続ける。


「最も読まれている書を知っているな? いうまでもなく聖書だ。なぜ聖書はここまで広まった? それは発行部数が多く、歴史も古く、翻訳の数も多く……何より宗教という強い依存装置があったからだ。聖書に比べたら私の積み上げた百年なんて……なんの価値もない。私は未だ神ではない。そうなるはずだった。そして、君を含む人類全員を導く予定だったのに……君が台無しにした……」


 地球に降り注ぐ光を眺めながら、僕は、リードのことを思った。彼女が、最後に僕にかけた言葉を思い出していた。


『この先、どんなことがあっても私の事を、ずっと信じてくれますか?』


 光達が地球に降るのを見て、僕が思い出すのはどうにも、この一言だった。


「……リードはどうなる?」


「どうもこうもないさ……彼女も君と一緒だ。何者にもなれず、独りぼっちになる。そうならないためにこの世界に来たのに……」


 彼女の言葉が頭の裏で踊る。

 リードの言葉。そしてリードの温もり……

 

『信じる』あれは、どう言う意味だったんだろう?

 彼女が僕の腰に回した温もりを、何度も脳味噌がリピートする。


 そして……


「あ……」


 僕のポケットに、何かが紛れ込んでいることに気がついた。 

 


 おそらくあの瞬間だ。夕陽の中、抱き合ったあの瞬間に、彼女が僕のポケットに紙を忍ばせたんだ……。


 色々な事がありすぎて気が付かなかった……。


「なんだこれ?」


 僕が困ったり、悩んだりすると、いつもリードが導いてくれていた。


 この紙ももしかしたら……それかもしれない?


 僕は紙を広げると、こんな文言が書いてあった……。



 * * * * *




 (   )が出てきた場所まで戻ってください。

 そして、一個前の話に戻って、ライトさんが言いかけた言葉を探して……そこから下を30分経つまで、頭だけ読んでください





 * * * * *


「なあ! さっきまで僕らがいた世界はリードが書いたんだろ!?」


「だったらなんだ……」


「リードは……こうなることもずっと、わかってたんじゃないか!? まだ僕に何か、気がついて欲しい事があるんだ!」


「それはない。……彼女が書いた物語の世界を、当然私は把握している。全てな。もう物語の中に、これ以上ヒントも仕掛けも残っていない。私が言うんだ。断言する」


「あんたが見落としてる事はないのか!?」


「無い。あれば私が先に気がついている。

 私は全て把握している! 鉤括弧の最初と最後も全て読んだ!!」


 イデアが、アイデアになって、人類の絶滅は免れた。

 その代わり、僕たちはこの何も無い世界に取り残されてしまった。何も無い世界で……僕とリードは何に成れるだろう?


 リード、君は、まだどこかに何かを隠しているんだろう?

 僕に何を伝えたいんだ……


 君の声に応えたいんだ! 君を信じる! だから教えてくれ! リード!!

 僕と君は、この世界で何になったらいいんだ!!




 * * * * *


 僕は心でリードに精一杯呼びかけた。

 すると……かすかに彼女の声が聞こえた気がした。



「空白に、何を浮かべたらいいか?

 ライトさんにはもう、わかっているはずですよ?」



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