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空白に舟を浮かべろ!  作者: SBT-moya
第三章
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第35話 夜道をゆく 


「『おふだ』……?」


「そうだ。……ここから太陽が沈んだ方角に神社があるから、

『七つの世界』を渡り歩いたことを紙にしたためて……神様への報告を済ませなさい。そうすれば矢は消えるだろう」


 糸目の男性は、そこまでを淡々と告げると、僕を住まいに案内してくれた。



 * * * * *


 外観こそ、廃村然としてボロボロの木造長屋だが、室内はそこからでは想像できないほど立派だった。

 この人も書が好きなのか、部屋の壁が本棚と本で埋め尽くされている。

 僕からしてみればちょっと異常な数の本だった。


 男性は、僕に机を使わしてくれ、和紙と墨汁を恵んでくれた。

 

 ところで何の神様に書札を納めればいいのか解らなかった。だので男性に神社に祀られている神様の名前を聞いたが、それは男性にもよく解らないのだという。


 仕方がないので、僕はまず和紙にリードと巡った七つの世界の事、そこで出会った人々の事を認めた。

 


 僕に筆記用具を貸している間、男性は部屋の隅でじっと本を読んでいた。

 

 一体何をそんなに真剣に読んでいるのだろう? と背表紙に目をやると……


『あたらしい殺人サイボーグ二十巻』と書いてあった。

 ちょっと意外すぎるタイトルだと思ってしまったが、気にしている場合ではない。僕は…… 、僕とリードのこれまでの足取りを、なるべく過不足なく和紙にまとめて細く折りたたみ、札にした。


「書き終わりました。色々とお世話になりました」


 僕は糸目の男性に頭を下げた。


「うん。日も暮れているから気をつけて行きなさい。この辺りは暗くなると何も見えなくなる。西の方角は覚えているね」


「はい、大丈夫です」

 

「友達、助かるといいね」


「……はい!」


 僕は、男性の家を後にした。


 * * * * *


 男性は僕に、提灯まで持たせてくれた。

 正直助かった。本当に真っ暗で、一メートル先の視界も怪しく、提灯の光ですら気休め程度にしか感じなかったのだ。


 僕は、先ほどまでの太陽の位置を必死で思い出しながら西に向けて歩いた。道中、何度も足元の瓦礫や、木の根っこに足をつまづいて転んだ。

 お札が土で汚れないように懐に忍ばせた。

 膝が擦りむけたり、手や顔が土で汚れるのは構わないが、僕とリードが歩いてきた記録や記憶まで汚されるのは我慢がならなかった。


 平坦な道が、やがて登りの急勾配に代わる。

 息を切らせ、足の痛みに耐えながら登ると、太鼓を叩く音が響いてくる。

 続いて笛の音だ。これは……雅楽と言うものだろうか?


 坂を登る度に、響いてくる音の一つ一つがやがて、音楽に聞こえてきた。

 それは、日本の童歌『とおりゃんせ』


 きっと、音の先に神社がある。そう信じて僕は坂を登った。

 

 石垣沿いを、提灯の灯りと手探りで進んでいく。

 すると突然顔に痛みが。どうやら石垣から雑に伸びている植物の枝で顔を切ったようだ。

 

 暗闇のはずなのに……牡丹の赤い花びらが嫌に目に映った。


 石垣が伸びている先には石の階段。音はこの上から響いてくる。

 僕は、石の段に片手をつきながら、這うようにして階段を登っていった。



 * * * *  *


 鳥居を潜った先は、威圧的なまでに雅楽が鳴り響いている。

 けれどもどこから演奏されているのかがわからなかった。

 そして、誰の気配も無かった。


 石段をさらに登ると、本当に神様がいるのか怪しくなってくる拝殿が現れる。

 僕は、賽銭箱にお札を納める。そして手を合わせて、固く目を閉じた。


 ……これで、リードは助かったのだろうか?

 心配なので早いところ、彼女の元に戻りたい。


 僕は真っ暗な足元をよろけながら、階段を降りていく。


 すると……雅楽に合わせて子供たちの歌声が聞こえた。


「「行きは良い良い。帰りは怖い」」

 

 次に聞こえてきたのは地響き。地崩れの音。

 すると……地面から、長い長い椿の枝が何本も生えてきた。

 一体何メートルだろう? 椿の枝は、鳥居の柱、境内の柱、境内の屋根、敷地内の木々に、それぞれに何本も何本も巻き付き、

 気がつけば椿の枝の牢が出来上がっていた。

 

「え、え!」


 当然、僕が枝をかき分けようとしても、何重も堅牢に敷き詰められた椿の枝が、僕の体を神社の外に出すことは無かった。


「……お前の仲間」


 野太い声が敷地内に響く。


「お前の仲間は助からん。お前も、このままこの神社からは出られん」


 どこから聞こえるのかわからない声に対して、僕は叫んだ。


「勘弁してくれ! 何かの誤解なんだ! 貴方達の気を悪くするようなことはしていない!!」


 すると、突然野太い声が、優しさを帯びて響いてきた。


「そうではないよ。ライト。これは優しさだ。

 君がこれ以上辛くならないためのね」


「優しさだって……? どうして僕の名前を知っている!?」


「君がここを出たいなら、君にとって、いや、人類にとって『大事なことを学ばないといけない』それを学ばずしてここを出ることは、ただの悲劇になってしまうからね」


「なんだ! もったえぶって!! 僕は! リードに会いたいんだ!! リードに会わせてくれ!!」


「……それでは、思い出すんだ。この『警句』を。

 そして、それを胸にここから先の現実に挑むがいい」


 相手が何を言っているのか、全くわからない。

 それでも、僕がある警句を思い出さないと、ここから先には進めない。リードの無事も確認できない。イデアの衝突にも間に合わない!


 僕は頭を抱えた。なんだ!? 僕にとって、全人類にとって大事な『警句』とは……!!


 * * * * *


 ヒントは、それは『今も君の胸に、ミミズ腫れとなって刻まれている呪いの言葉』の中に隠れている。

 そこに、一話戻って糸目の男性が唱えた、まじないに従えば、警句は現れるだろう。→対象の言葉は、二十九話の犯行予告の中にある。

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