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空白に舟を浮かべろ!  作者: SBT-moya
第三章
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第20話 僕をそっちに、戻してくれ

「『きもん』……『鬼門』の事か……!

 ……何処にあるんだそんな物!」


「とりあえず『北東』の方向を目指してみましょうか。

 夕日が登っていたのはあっち。だから西があそこです」


「……インディアンみたいだな」


 僕はとりあえずリードの後ろをついていくことにした。すると……

 商店街を抜けると出口の門に大きく『鬼門』と書かれており、門の外の時空が歪んでいる。なるほど。確かにまごう事なき『鬼門』だ。


 しかし、リードはここに来たことがあるのだろうか?

 何やら考え事をしながら歩いていて、道中一言も発しなかった。

 先ほどまでのリード劇場とは、本当に同一人物だろうか?

 

『鬼門』の前で、僕はリードからもらったUSBを置いてみた……


「あ、それじゃダメです。ちゃんと投げ入れないと」


 と、リードに指摘された。

 それもそうか。……いや、やっぱり変だ。どうして詳しいんだ? 釈然としない気持ちを持って、僕は鬼門に向けてUSBを放り投げようとした。


「待って」


「……ん?」


「本当にいいんですか?」


 どうしてリードが僕をこの世界に引き留めたいのかが分からない。

 

「……大事なUSBだった? これ」


「そういうことじゃないです」


 何やら思い詰めている。話を聞くにしても僕には、やることがある。


「とりあえず、呪いを解かないと……」


 振りかぶって僕は、USBを鬼門に投げ入れた。



 * * * * *


 ややあって、胸の辺りが爽やかになる感覚を覚えた。

 見てみると、黒い痣が消えていく。


 けれどなぜか、胸のミミズ腫れ「希凶冷卦毛利」が消えないのだが……

 まあいつかは消えるだろう。



 やってみれば簡単なことだった。ほとんど、リードがやったようなものだけれど。


「有難う。リードは命の恩人だ」


「……はい」


「元気ないね……?」


 するとリードは、深刻な顔をこちらに向けた。


「ライトさん、この世界を出ちゃったら、もう行ってない世界はありませんよ?」


「うん……もう『機械』も残り一つしかない」


「『冒険』はここで終わりですか……?」


 僕は思わずリードの顔を覗き込んだ。目が潤んで、涙が溜まっている。僕は手を伸ばした。



「……じゃあ少しだけ思い出を集めてみよう」


「え?」


 僕は、リードの涙を拭う。


「集めたものを、出てきたものから順番に並べてみよう」


「ライト……さん」


「あまり長くないけど、色々な事があったよな。

 最初に行ったのは確か……」



 すると、突然鬼門から、別れのムードをぶち壊すような声が響いてきた。


「コラーーーー!! だーーれだーーこの物語を書いたのはーー!!」


 それは地を這うような、野太い声である。

 おそらく……祠の神様の声なのだろうが、ものすごく怒っているのは伝わってくる!


「なんだー! 数分で書いたような適当なものを供えよってーー!!」


「え……え……」


 僕がたじろいでいると、鬼門から巨大な『手』が伸びてきた!

 巨大な手は簡単に僕を掴み取って……持ち上げる!


「うわあ!」


「ライトさん!」


 なすすべがない僕に、鬼門の奥から声が響いた。


「お前のような奴はーー! この世界からいなくなれーー!!」


 うわあああ!! という僕の叫び声は虚しく、僕の体を掴んだ手は鬼門の奥に引き返していく。


「ライトさん! ライトさーーん!」


 暗闇の中、リードの叫び声が虚しく響いていた。



 * * * * * *


 寒い……

 ここは……どこだ。地獄か……?


 いや…… この感覚はものすごく覚えがある、これは……

 これは宇宙服の中だ!


 僕は目を開けた。


 近くには、僕が船外活動中に見た謎の光源が眩しく輝いている。


 そして、目の前に映るのは……僕の故郷、青い星だ。


 戻ってきたんだ! 宇宙に!

 宇宙船は!? 酸素は!? まだ保つのだろうか!?


 確認できないが、とりあえず息は吸えている。船を、船を探さなくては。


 体を捩って辺りを見回した。

 宇宙船の光を、必死で探した。

 


 * * * * *




 僕の生きる現実世界は、このままいくと数十年後に終焉を迎える。

 理由は隕石の衝突。


 いつかやってくる脅威。しかし、確実に質量を持ち、やがて地球に衝突する物体。

 終焉の真の姿。だけど未だ触れることができない隕石。


 人々はそれに、『イデア』という名を与えた。


 哲学者プラトンが提唱した、概念に実体を与えるために用いる言葉である。


 『イデア』……皮肉な名前だ。


 今地球にいる人たちは、この『いつかくる終わり』の事で頭がいっぱいで、

僕は終わりを、終わらせないために宇宙まできた。

 けれど、残念ながら収穫はゼロだ。



 物語の世界には、やはり人類が住める場所はない。というのが調査した結果だ。

 不思議な出来事だったが、今はとにかく現実を見ないといけない。


 リードは……あの子は……今何処にいるんだろう。

 地球に戻ったら、リードの事を探そう。

 そしてちゃんと、お礼を言いに行こう。


 僕は辺りを見回した。宇宙船を探した。


 ……


 ……


 ……しかし、見つけたのは、到底受け入れ難いものだった……。


 辺りに輝く星々の光……その中に明らかに大きさの違うものがある。

 宇宙船かと期待したけれど、あんな場所で宇宙船が見つかるわけがない。

 あれは……


 あれは、『イデア』だ。


 あれは、あと数十年は姿を現さないはずの隕石、イデアだ!

 地球に向かっている。

 僕はそれが、直感で解った。


 なぜだ!? 速度を上げたのか!?

 こんなに早くこの宙域には現れないはずだ!

 それがもう、この位置であんなに大きく見える!!


 これじゃあ、これじゃああと数十年どころか……数日で地球に来てしまうじゃないか!!


 もう、有無を言ってはいられなかった。

 もう一度、物語の世界に戻ろう。そして、七つの世界の中から、なんとかギリギリ人間が生存できる世界を見つけなくては!


 眩しい光源の方に体を向ける。


 すると、無線から、聞こえないはずの声が聞こえた。


「ライトさん……!! ライトさん……!!」


 無線から聞こえたのは、どういうわけかリードの声だ!

 僕を呼んでいる!


「ライトさん! 助けて! ……私を……一人にしないで!!」


 なぜだか自然に体が動いた。

 

「リード! 今行く!!」


 僕は、目の前の白い光に向き合っている。もう一度、物語の世界に行かないと……!


 だけど……どうやって?


 わからず僕は、宇宙服の中から大声で叫んだ。


「おーい! 僕だ! さっきまで、その中にいたんだ!

 すまんもう一度入れてくれ!!」

 

 しかし、白い光は静かに輝くだけで、うんともすんとも言わない。


「頼む!! もう一度そっち世界に行かせてくれ!! 頼む!!」


 僕が叫ぶと、白い光の中に文字が浮かんできた……。

 その文字は、英語で『境界』を表す言葉に似ていた。

 書いてあったのは……

 


『Interzona』


 

 綴が若干違うのは誤植なのだろうか?

やはりここが、現実世界と、物語の世界を隔てる境界なのは間違いがなさそうだった。


 僕は、次の言葉を待った。すると、こう浮かんできたのだ。





「新規登録をお望みでしょうか」


 


 吐き気と共に怒りが込み上げてきそうだった。

 さっきまで、ずっとどっちの世界の中にいたのに! あんなに大変な目に遭ったのに!


 

「新規の登録をお望みの方は、空欄に文字を欠き、

 以下の質問に答えてください。


 既存の世界に満足いかない貴方は

『  』を望みますか?」


 ……『書き』と本来書かれるべき箇所が、

『欠き』になっている。誰が書いた文字なのか知らないが、やはり誤植だらけじゃないか!


 ……え?

 どう言うことだ?

 どうして意味のわからないことを聞いてくる!?


 まず質問がわからないのでは答えようがない!

 

 そんな! あんまりじゃないか!

 さっきまで僕は、そっちで右往左往して……リードと二人で彷徨って……


 そんな僕を、『他者』だと言うのだ! 



 字を書けって!? なんの字を書けばいいというんだ! この憎たらしい門番は!

 

 くそ! やっぱり僕は肝心な時に役にたたないのか!

 

 あなたは『  』を望むか?

 

 何を聞かれてるんだ、一体何に答えたらいいんだよ!

 

 

 * * * * *


 すると、無線越しにリードが、僕にこう言った。


「ライトさん!

 第十話 SOZO991のセリフから問題文を抽出してください!

 問題の答えから、じを欠いた……抜き取った言葉が『 』の中に入ります!」


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