第20話 僕をそっちに、戻してくれ
「『きもん』……『鬼門』の事か……!
……何処にあるんだそんな物!」
「とりあえず『北東』の方向を目指してみましょうか。
夕日が登っていたのはあっち。だから西があそこです」
「……インディアンみたいだな」
僕はとりあえずリードの後ろをついていくことにした。すると……
商店街を抜けると出口の門に大きく『鬼門』と書かれており、門の外の時空が歪んでいる。なるほど。確かにまごう事なき『鬼門』だ。
しかし、リードはここに来たことがあるのだろうか?
何やら考え事をしながら歩いていて、道中一言も発しなかった。
先ほどまでのリード劇場とは、本当に同一人物だろうか?
『鬼門』の前で、僕はリードからもらったUSBを置いてみた……
「あ、それじゃダメです。ちゃんと投げ入れないと」
と、リードに指摘された。
それもそうか。……いや、やっぱり変だ。どうして詳しいんだ? 釈然としない気持ちを持って、僕は鬼門に向けてUSBを放り投げようとした。
「待って」
「……ん?」
「本当にいいんですか?」
どうしてリードが僕をこの世界に引き留めたいのかが分からない。
「……大事なUSBだった? これ」
「そういうことじゃないです」
何やら思い詰めている。話を聞くにしても僕には、やることがある。
「とりあえず、呪いを解かないと……」
振りかぶって僕は、USBを鬼門に投げ入れた。
* * * * *
ややあって、胸の辺りが爽やかになる感覚を覚えた。
見てみると、黒い痣が消えていく。
けれどなぜか、胸のミミズ腫れ「希凶冷卦毛利」が消えないのだが……
まあいつかは消えるだろう。
やってみれば簡単なことだった。ほとんど、リードがやったようなものだけれど。
「有難う。リードは命の恩人だ」
「……はい」
「元気ないね……?」
するとリードは、深刻な顔をこちらに向けた。
「ライトさん、この世界を出ちゃったら、もう行ってない世界はありませんよ?」
「うん……もう『機械』も残り一つしかない」
「『冒険』はここで終わりですか……?」
僕は思わずリードの顔を覗き込んだ。目が潤んで、涙が溜まっている。僕は手を伸ばした。
「……じゃあ少しだけ思い出を集めてみよう」
「え?」
僕は、リードの涙を拭う。
「集めたものを、出てきたものから順番に並べてみよう」
「ライト……さん」
「あまり長くないけど、色々な事があったよな。
最初に行ったのは確か……」
すると、突然鬼門から、別れのムードをぶち壊すような声が響いてきた。
「コラーーーー!! だーーれだーーこの物語を書いたのはーー!!」
それは地を這うような、野太い声である。
おそらく……祠の神様の声なのだろうが、ものすごく怒っているのは伝わってくる!
「なんだー! 数分で書いたような適当なものを供えよってーー!!」
「え……え……」
僕がたじろいでいると、鬼門から巨大な『手』が伸びてきた!
巨大な手は簡単に僕を掴み取って……持ち上げる!
「うわあ!」
「ライトさん!」
なすすべがない僕に、鬼門の奥から声が響いた。
「お前のような奴はーー! この世界からいなくなれーー!!」
うわあああ!! という僕の叫び声は虚しく、僕の体を掴んだ手は鬼門の奥に引き返していく。
「ライトさん! ライトさーーん!」
暗闇の中、リードの叫び声が虚しく響いていた。
* * * * * *
寒い……
ここは……どこだ。地獄か……?
いや…… この感覚はものすごく覚えがある、これは……
これは宇宙服の中だ!
僕は目を開けた。
近くには、僕が船外活動中に見た謎の光源が眩しく輝いている。
そして、目の前に映るのは……僕の故郷、青い星だ。
戻ってきたんだ! 宇宙に!
宇宙船は!? 酸素は!? まだ保つのだろうか!?
確認できないが、とりあえず息は吸えている。船を、船を探さなくては。
体を捩って辺りを見回した。
宇宙船の光を、必死で探した。
* * * * *
僕の生きる現実世界は、このままいくと数十年後に終焉を迎える。
理由は隕石の衝突。
いつかやってくる脅威。しかし、確実に質量を持ち、やがて地球に衝突する物体。
終焉の真の姿。だけど未だ触れることができない隕石。
人々はそれに、『イデア』という名を与えた。
哲学者プラトンが提唱した、概念に実体を与えるために用いる言葉である。
『イデア』……皮肉な名前だ。
今地球にいる人たちは、この『いつかくる終わり』の事で頭がいっぱいで、
僕は終わりを、終わらせないために宇宙まできた。
けれど、残念ながら収穫はゼロだ。
物語の世界には、やはり人類が住める場所はない。というのが調査した結果だ。
不思議な出来事だったが、今はとにかく現実を見ないといけない。
リードは……あの子は……今何処にいるんだろう。
地球に戻ったら、リードの事を探そう。
そしてちゃんと、お礼を言いに行こう。
僕は辺りを見回した。宇宙船を探した。
……
……
……しかし、見つけたのは、到底受け入れ難いものだった……。
辺りに輝く星々の光……その中に明らかに大きさの違うものがある。
宇宙船かと期待したけれど、あんな場所で宇宙船が見つかるわけがない。
あれは……
あれは、『イデア』だ。
あれは、あと数十年は姿を現さないはずの隕石、イデアだ!
地球に向かっている。
僕はそれが、直感で解った。
なぜだ!? 速度を上げたのか!?
こんなに早くこの宙域には現れないはずだ!
それがもう、この位置であんなに大きく見える!!
これじゃあ、これじゃああと数十年どころか……数日で地球に来てしまうじゃないか!!
もう、有無を言ってはいられなかった。
もう一度、物語の世界に戻ろう。そして、七つの世界の中から、なんとかギリギリ人間が生存できる世界を見つけなくては!
眩しい光源の方に体を向ける。
すると、無線から、聞こえないはずの声が聞こえた。
「ライトさん……!! ライトさん……!!」
無線から聞こえたのは、どういうわけかリードの声だ!
僕を呼んでいる!
「ライトさん! 助けて! ……私を……一人にしないで!!」
なぜだか自然に体が動いた。
「リード! 今行く!!」
僕は、目の前の白い光に向き合っている。もう一度、物語の世界に行かないと……!
だけど……どうやって?
わからず僕は、宇宙服の中から大声で叫んだ。
「おーい! 僕だ! さっきまで、その中にいたんだ!
すまんもう一度入れてくれ!!」
しかし、白い光は静かに輝くだけで、うんともすんとも言わない。
「頼む!! もう一度そっち世界に行かせてくれ!! 頼む!!」
僕が叫ぶと、白い光の中に文字が浮かんできた……。
その文字は、英語で『境界』を表す言葉に似ていた。
書いてあったのは……
『Interzona』
綴が若干違うのは誤植なのだろうか?
やはりここが、現実世界と、物語の世界を隔てる境界なのは間違いがなさそうだった。
僕は、次の言葉を待った。すると、こう浮かんできたのだ。
「新規登録をお望みでしょうか」
吐き気と共に怒りが込み上げてきそうだった。
さっきまで、ずっとどっちの世界の中にいたのに! あんなに大変な目に遭ったのに!
「新規の登録をお望みの方は、空欄に文字を欠き、
以下の質問に答えてください。
既存の世界に満足いかない貴方は
『 』を望みますか?」
……『書き』と本来書かれるべき箇所が、
『欠き』になっている。誰が書いた文字なのか知らないが、やはり誤植だらけじゃないか!
……え?
どう言うことだ?
どうして意味のわからないことを聞いてくる!?
まず質問がわからないのでは答えようがない!
そんな! あんまりじゃないか!
さっきまで僕は、そっちで右往左往して……リードと二人で彷徨って……
そんな僕を、『他者』だと言うのだ!
字を書けって!? なんの字を書けばいいというんだ! この憎たらしい門番は!
くそ! やっぱり僕は肝心な時に役にたたないのか!
あなたは『 』を望むか?
何を聞かれてるんだ、一体何に答えたらいいんだよ!
* * * * *
すると、無線越しにリードが、僕にこう言った。
「ライトさん!
第十話 SOZO991のセリフから問題文を抽出してください!
問題の答えから、じを欠いた……抜き取った言葉が『 』の中に入ります!」




