この姿で謁見できるのは女王陛下のお陰です。これからはお洒落を満喫致します。
閲覧ありがとうございます。程良い長さで完結できました。
本文中に若干性別に関する表現があります。お気に召さない場合はブラウザバックをして下さい。
「オットー、リディアと子供達を呼んでくれ。大至急だ。」
「畏まりました。」
マッカラン侯爵は邸宅に帰宅するなり家令のオットーに妻と子供達を集めるよう言うと、慌ただしく自室に向かった。いつもは冷静沈着な主人の様子に片目だけを大きく見開いたオットーは、主人の指示に従い侯爵夫人と子供達を談話室に集め、人数分のお茶の準備をするよう使用人に伝えた。
「今戻った。」
「アル、お帰りなさいませ。」
「「「父上、お帰りなさいませ。」」」
マッカラン侯爵は談話室に揃った家族に声を掛けると、妻と子供達から帰宅の挨拶を受けた。
「アル、帰って来るなり皆を集めるなんて、何かあったの?」
「ああ。ルカが王配の一人に内定した。一か月後に女王陛下に謁見だ。」
一瞬の沈黙の後―――
「父上っ、本当ですかっ?」
「ああ、神様―――ルカを見捨てないで下さり、本当にありがとうございます。」
「ルカ、良かったわね。」
「父上、隣国にはいつ知らせますか?」
「これでルカもお洒落が楽しめるってことよね。お母様、デザイナーへはいつ使いを遣りますか?ルカの服を仕立てる時は、私も絶対に同席させて下さいね。」
マッカラン家の談話室は一気に賑やかになった。
「コホン!」
マッカラン侯爵は咳払いをして、談話室の皆が静かになるのを待った。
「そろそろ話を続けてもいいかな?」
「ええ。私としたことが、ついはしゃいでしまったわ。ごめんなさいね、アル。」
「父上、申し訳ありません。」
「お父様、ごめんなさい。」
「ごめんなさい、父上。」
マッカラン侯爵は一人ずつ家族の顔をサッと見ると、改めて末子のルカに視線を向けた。
「ルカ。改めてそなたの意思を確認しよう。そなたは今の姿のままこの国に留まるか、それとも本来の姿に戻って隣国に渡るか、どちらを選ぶ。」
皆の視線がルカに注がれた。
「父上、母上。それから、兄上、姉上。私、ルカ・マッカランは―――」
◇◇◇
一か月後。王宮の謁見室で王配に選ばれた者達が女王に謁見した。王配に選ばれたのは五名。順に名を呼ばれた者は、女王の前で最敬礼をしてその場に留まることになっている。いよいよ、最後のルカの番になった。
「ルカ・マッカラン。」
「はい。」
名を呼ばれたルカは、それまで羽織っていたローブを脱いだ。
「「「「「!」」」」」
「「「「「っ!!」」」
ルカは脱いだローブを後ろに控えていた従者に渡すと、しずしずと所定の位置まで進み出て最敬礼をした。王配に選ばれた五人全員が女王の前に一堂に会した。
「皆、楽にしてよい。」
女王の一言で、王配達は頭を上げた。女王は右から順に王配に選ばれた者を一人ずつ見ていったが、最後のルカを見て目を見開いた。
「ルカ・マッカラン。」
「はい。」
「其方はなぜそのような格好をしておる?」
「女王陛下。これが私の正装でございます。」
今までのルカは流れるようなプラチナブロンドを一つに束ねて背中に流す髪型をしていた。服装も侯爵子息に相応しい品のある物を身に纏うことが多かった、しかし今日のルカの装いはと言うと、髪形はハーフアップに結い上げられ、顔の横にはカールさせた後れ毛がくるくると跳ねている。しかも、今日ルカが身に着けている服はふんわりとした生地を幾重にも重ねた淡い紫色のドレスであった。
「ルカ・マッカランは男性ではなかったのか?」
「女王陛下。恐れながら発言をしても宜しいでしょうか。」
「許す。話してみよ。」
女王の許しを得た後、ルカは自分の事情を話し始めました。
「陛下の仰る通り、私は男性として育てられました。それは、マッカラン家で私の誕生を披露するパーティーで、私が流れの魔法使いに祝福と言う名の呪いを受けたためです。」
「ほお、どんな祝福じゃ。」
「今から申し上げるのは、私が両親に聞いた話です。その魔法使いは私の顔を見るなり『赤子のくせに忌々しい男と同じ顔をしおって。何、私が一つこの赤子に祝福をしてやろう。女から婚姻を求められない限り寂しい男として独り身を託つと良い。』と言って私に魔法を掛けるとすぐに姿を消してしまったそうです。パーティーを境に、私の性別は女性から男性に変わっていました。しかし、この度女王陛下から私を王配にとのお声が掛かり、件の魔法使いの呪いが解けて女性に戻った次第にございます。」
「それでは、私が其方を王配に望まなければ、其方は男のままだったのか。」
「いいえ。女王陛下ではなくとも、他の女性貴族の方が私を婿として求めて下されば、呪いは解けたのではないかとマッカラン家では推測しております。呪いが解けなければ、私も男性として生きていく覚悟をしておりました。」
「しかし、今まで男性として生きてきたのに、いきなり女性として生きるのは大変ではないのか。」
「祝福という名の呪いのせいで私の外見は男性となっておりましたが、私の心は女性のままでございました。己の外見と心の性別が一致したことで、ようやく私は私自身を生きられるような気が致します。恐れながら申し上げます。女王陛下は女性となった私を引き続き王配となさいますか?」
「いや、私と子を成せない者は王配として不要だ。只今をもって、ルカ・マッカランを王配から外す。以後は己の好きに生きるとよい。」
「ありがとうございます。女王陛下の仰せのままに。」
ルカは改めて女王陛下に感謝の意を込めて深いカーテシーをすると、謁見の間を後にした。
「ルカが一番私の好みだったんだがな。実に残念だ。」
勿論、女王の呟きがルカの耳に入ることは決してなかった。
◇◇◇
「ルカ、今までよく頑張ったわね。さあ、好きなだけドレスを作りましょうね。」
「私も、ルカに似合う物を見繕ってあげるわ。」
王宮を辞して帰宅したルカを待ち構えていたのは、マッカラン家の女性陣だった。応接室には既に懇意のデザイナーとお針子達までが呼ばれ、テーブルの上には数々のデザイン画と生地の見本がこれでもかと言わんばかりに広げられている。
「母上、姉上、ありがとうございます。嬉しいです。」
「ルカちゃん、言葉遣いも少しずつ直していきましょうね。」
「あ、そうでした。」
無意識に男性のような言葉遣いで話していたのを母に指摘され、顔を赤くしたルカであった。
しばらくは買い物と称して侯爵家女性陣の着せ替え人形にされていたルカであったが、かねてから性別が本来の女性に戻ったら婚約する、としていた隣国の侯爵子息と無事に婚約を結ぶことができた。婚約後は隣国での生活と女性としての生活に慣れるためにルカは隣国の学校へ留学し、婚約者の家から婚約者と同じ学び舎に仲睦まじく通う姿が学生たちの間でも話題になった。
婚約後はマッカラン家と婚約者の家の援助もあり、ルカはこれまで自分が着たくても着られなかった服を形にし、自らを広告塔として次々と世に出していった。
「今しかできないお洒落を楽しまないで、いつお洒落を楽しむと言うの?可愛いは正義よ!」
と言うセリフと共に、ルカは名実共に隣国のファッションリーダーになったという。
王命で定められた婚姻を穏便に解消できる方法はあるのだろうか、が今回のテーマです。
登場人物補足
父:アリステア・マッカラン(侯爵当主) 愛称:アル
母:リディア・マッカラン(侯爵当主婦人) 愛称:リディ
長子:男性。次期侯爵
次子:女性。国内で侯爵令息と婚約済。
末子:ルカ・マッカラン←本当は女性だが、魔法使いの呪いで男性になってしまったため男性として育てられる。呪いが解けたら本来の性別で他国へ嫁ぐ予定。
魔法使い:ルカの顔が以前振られた男とそっくりだったため、祝福と言う名の呪いをルカに送る。本人の単なる逆恨みなのでマッカラン家にとっては大迷惑。
良かったら、他の短編もお楽しみ下さい。
今回も最後までありがとうございました。