宇宙
遠いどこかで、二つの声が話し合っていた。
「ねえ、新しく作りたいものがあるんだけど」
「今度は何?」
「ジャンルは生物で……今までのどんな生物よりずっと賢くて、自由で、優しい生き物を作りたい」
「ちょっと注文が多くない? 生物はただでさえ難しいんだよ。この前だってどれだけ時間がかかったか」
「お願い! これで終わりにするから。最高のものにしたい」
「……うーん。しょうがないなあ。じゃあ、次は私を手伝ってよね」
「ありがとう。もちろん手伝うよ! じゃあ、さっそく始めよう」
二つの声は消えた。
「えーっと、まずは……」
「まずは、『場』を作らないとね。定式通り」
「そう。『場』なんだけど……いつもより丁寧に作りたい」
「どうやって?」
「いつもはこの空間と別の仮想空間上に作ってるけど、この空間自体を『場』にしたい」
「え⁉ それじゃ私たちの空間は永遠に消えるよ?」
「うん。でも……もう『仮想』はいやなんだ。現実で作って、作ったものと一緒に過ごしたい」
「でもそれじゃ、私たちが生きていけるかも分からないよ」
「大丈夫、うまくやるから」
「本当に? なら私はいいけど、私達だけの問題じゃなくなるね」
「うん、ちょっと今から説得に行ってくる」
「了解。最後ってこういうことを言ってたんだね……」
一つの声は離れ、どこかへ漂っていった。
「お待たせ」
「どう? 説得できた?」
「うん。いろいろ条件は付けられたけど、なんとか」
「良かったね。で、どんな条件?」
「まず、この空間が消えた後、新しく作った空間での居場所を確保すること」
「それは自信があるんでしょ?」
「まあね。次に、『場』を作った後、全員の創造能力は保持しておくこと」
「これは難しそうね……」
「うん。まあ、何とかなるよ。で、最後に、途中で止めないこと」
「え? どういうこと?」
「いや、それが話してみたら結構受けは良くて、いいね、やってみろって感じだったんだよ。なんなら協力もしてくれるらしい」
「本当に? だとしたらすごく心強い!」
「本当だよ。もうすぐ集まってくるから、みんなで始めよう」
周囲がざわめきだした。
ざわめきの中で、一つの声が話し出した。
「今から、『場』を作ります。この空間ごと作り替えるので、ご注意ください!」
「どんな『場』なんだ?」
「この空間を消すとすべてエネルギーに変換されますが、そのエネルギーで僕たちを再構築した後、余ったエネルギーで作られる『場』となります。従って、僕たちと適合した空間になります」
「分かった、やってくれ。力は貸そう」
「では『場』で会いましょう」
次の瞬間、全ての声は消え、光となった。
「おはよう!」
「うまくいったの?」
「『場』と僕らの再構築はうまくいった。みんなが力をくれたおかげだ」
「意外に広い『場』なんだね……。じゃあ、さっそく環境を整えていくの?」
「その前に、この『場』に名前を付けなくちゃ」
「もうここしか『場』は無いからいいのに……。で、決めてるの?」
「うん。『宇宙』にするよ」
「宇宙ね。まあ、呼びやすい名前ではあるね」
「よし、じゃあ環境を作っていこう。まずは『力』の整理を……」
「ちょっと待って、私の創造能力が消えてる」
「え? そんなはずはないよ。再構築の時、何もいじってなかったんだから」
「いや、確かになくなってる。ほら、『波』さえ起こせない」
「本当だ……。でも、僕は……消えてない」
「どういうこと?」
「僕も分からないよ!」
「このぶんじゃ、消えてるのは私だけじゃないと思うよ。どうするの、約束だったんでしょ?」
「どうしよう。一つでも約束を破れば、全て無かったことにされるんだ」
「でも……ちゃんと『場』はあるよ?」
「あれ、本当だ。なんでだろう。能力はきえてないのかな……」
「ねえ、待って! 私がさっき『波』を作ろうとした場所、エネルギーが分散して『場』が崩壊してる」
「あれは……どういうことだろう?」
「つまり、構築を打ち消す力……いわば破壊の力ってとこかな」
「創造能力が破壊能力に変換されたってこと?」
「そうみたいね」
「だから能力が『消えた』わけじゃなくて、プログラムが動かなかったのか」
「多分、みんな怒ってるよ。こんな力、何に使うの? というか、今どこにいるの?」
「分からない。宇宙を少し広くしすぎた。君と僕はたまたま近くにいたけど」
「……君、この力で消されるよ」
「しょうがない。失敗した僕が悪い。でも……」
声は途方に暮れ、ひりひりとした危機感に襲われていた。




