9. 超強化薬
レベル15になった半蔵は、防具屋の試着室で『変化の術』を使ってみた。鏡に映る自分の姿を見て、驚く。完全に可愛い女の子だった。目がぱっちりとした黒髪の少女。髪も長くなって、肩甲骨辺りまで伸びている。しかし、玉と竿はついたままだった。声を出してみると、まだ低いことがわかる。顔以外はまだまだ男の子だった。
(モンスターにも変身できるんだよな?)
半蔵は迷宮スライムに変身してみる。体が緑色の液体になった。が、人の形は保ったままだったので、見た目はホラーでしかない。
変身を解いて、試着室から出る。推奨された使い方ではないだろうから長居は無用だ。
半蔵は公園のベンチに座り、気難しい顔で考える。
(さて、これからが大変らしいが……)
数々の経験者によると、ここからレベル20くらいまでは、レベル上げの停滞期に入るらしい。1か月でレベルが1しか上がらないこともざらにある。だから、このレベル帯で探索を止める人も多いんだとか。
(どうしようかな)
レベル上げについて調べてみると、いろいろなやり方がヒットする。しかし、どのやり方にも『現在は使用できません』の文言があった。このダンジョンには『調整』なる現象が存在し、有名になったレベル上げは、だいたい使えなくなる。例えば、迷宮増殖スライムを何回も分裂させて、経験値を稼ぐ手法などがあったが、今では分裂回数に制限が掛かってしまい、できなくなっている。
(後発組に不利すぎんだろ……)
不満を抱きつつ、半蔵は効率的なレベル上げについて考える。
そして、思いついた。
はじまりの森の北側に『ノース鉱山帯』というエリアがあって、そこに存在する『迷宮レアスライム』を狩る。それが半蔵のアイデアだった。迷宮レアスライムは経験値を稼げるモンスターとして有名だが、警戒心が強いので、遭遇するのが難しく、また、体が金属の液体でできているため、防御力が高くて倒すのが難しい。そのため、調整が入るほどの成功率に至っていない。しかし、迷宮レアスライムに変身すれば、警戒心を解くことができるだろうし、求愛ダンスなる迷宮スライムの仲間に見られる習性を利用すれば、直接、核を攻撃することができる。
(天才かよ)
半蔵は自画自賛するも、問題はあった。まず、今のレベルでは、迷宮レアスライムを欺けるほどの変身ができない。また、ノース鉱山帯は探索可能レベルが20以上に設定されているため、今のレベルでは探索できない。
しかし、変身の問題に関しては、それを解決する画期的な薬があった。『技術力《《超》》強化薬』である。一本5万円くらいする高価な薬で、一度服用すると1週間は服用できなくなるが、約24時間、技の技術力を上げる効果があった。そのため、この薬を服用すれば、レベルが低くても迷宮レアスライムに変身することができる。また、虫や鳥に変身すれば、関所を通らずとも外の世界に行ける。もちろん、バレたら一発で免停だが、虎穴に入らずんば虎子を得ずの精神で挑むことにした。
(でも、あの薬で、目的を達成できるほど、技術力は上がるのかな?)
と言うことで、『技術力超強化薬』よりも効果持続時間が短い『技術力強化薬』を飲んで、その効果を確かめることにした。
5000円で『技術力強化薬』を購入し、薬を飲んだ後、防具屋の試着室で『変化の術』を発動する。鏡に映った自分を見て、半蔵は驚いた。完全に女性だった。体つきが丸くなって、胸も膨らみ、声も高くなっていた。一部はモザイク模様になっていたが、ジョン先生によると、これは想像力の欠如が問題らしい。
(まぁ、この辺は後回しだ)
今度は、迷宮レアスライムに変身する。光沢のある銀色の液体。イメージは水銀。迷宮レアスライムについて解説している動画をみたところ、水銀が一番近い気がした。
(あとは、実物を見て、調整しよう)
いずれにせよ、自分の目的は達成できそうだったので、親に金を貸してもらい、『技術力超強化薬』を購入した。