表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/19

5. 野良猫酒場

 はじまりの街から他エリアへ探索に出かける場合、基本的には2人以上のパーティーを組まなくてはならない。とくに半蔵のような初心者は、経験者の同伴が必須だった。しかし半蔵には、ダンジョン経験者の知り合いなんていないから、まずは一緒に行動してくれる経験者を探す必要があった。


 ゆえに半蔵は、『野良猫酒場』という酒場にやってきた。初心者向けの動画によると、この酒場には、ソロで活動している冒険者が集まる。だから、冒険者の友達や知り合いがいない場合は、とりあえずここに来て、パーティーを組んでくれる人を探すのが一般的なやり方らしい。一応、ネットで募集する方法もあるが、対面で話せるこのお店をおすすめしていた。


(それで、来てはみたけど……)


 半蔵は辺りを見回し、心細くなる。酒場ということで賑やかな場所を想像していたが、そんなことは無かった。ソロで活動しているからか、1人で静かに座っている人が多い。話し声も聞こえるが、声を潜めており、図書館に来たような気分だ。


(どうしよう)


 半蔵が入り口付近で佇んでいると、若い女性店員に話しかけられる。


「こんにちは。うちの店を利用するのは初めてですか?」


「は、はい」


「それでしたら、まずはカウンターでドリンクを注文してください。ワンドリンク制になっていますので。ドリンクを受け取ったら、うちの店ではレベルごとに座るエリアが決まっていますので、自分の目的やレベルに応じたエリアで、メンバーを探してもらえたらなと思います。あ、もちろんですけど、ナンパや勧誘目的での声掛けは禁止にしているので、ご了承ください」


「わかりました。ありがとうございます」


「ごゆっくりどうぞ~」


 女性店員の優しさに感謝し、半蔵はカウンターに向かう。カウンターにいたのは、銀色の短髪で鼻にピアスをしている色白の男性店員だった。だるそうに立っている。


(ドリンクを注文しなければいけないんだよな)


 半蔵はボードに書かれたドリンクの値段を見て、目が飛び出そうになった。『ソフトドリンク 各2000円』。見間違いかと思い、目を揉んでから改めて確認する。しかし、見間違いではなかった。


(ぼったくりだろ、こんなの)


 ウーロン茶が2000円もする現実に震えていると、先ほどの女性店員が後ろからやってきた。


「ごめんなさいね。紹介料も含んでいるので、これくらいの値段になっちゃうんですよ」


「な、なるほど」


 紹介料も含んで2000円なのか。なら、安いかも。半蔵は無理やり納得して、カウンターの前に立つ。


「っしゃいませー」


「ウーロン茶を1つください」


「ぁざす。2200円です」


 消費税を含んでいない値段かよ、と思いつつ、半蔵は2200円を払う。大きめのグラスに入ったウーロン茶を受け取った後、レベル10以下のエリアに移動する。レベル10以下のエリアには、5人ほど人がいた。強面で金髪の男性が1人。短髪で筋肉質な体つきの男性が1人。あとは眼鏡を掛けた平凡な顔つきの男性が3人。彼らはとくに話すことも無く、互いに距離を開けて座っていた。半蔵は彼らを観察し、端っこにいた小太りで眼鏡の男性に話しかけることにした。何となく、彼だけは経験者に見えたし、話しかけやすそうだった。


「あの、すみません」


「は、はい。何でしょう」と眼鏡の男性が顔を上げる。


「パーティーのメンバーを探しているのですが、良かったら、一緒にパーティーを組んでくれませんか?」


「あ、いいですよ。サトウです。よろしくお願いします」


「門夜です。よろしくお願いします」


「それで、門夜さんはどちらに行かれたいんですか?」


「あ、えっと、すみません。今日が初めてのダンジョンでして、『はじまりの森』にしか行けないのですが、はじまりの森でもよろしいでしょうか?」


 ダンジョン内の各エリアには探索可能レベルが設定されていて、レベル5の半蔵は、はじまりの森にしか行けなかった。


「あ、そうなんですね。私は、はじまりの森でも大丈夫ですよ」


「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」


 あっさりとパーティーのメンバーを見つけることができたので良かった。が、サトウの表情が乏しく、少し早口なところが気になる。感情の起伏がよくわからないので、多少の不安はあった。


(まぁ、でも良い人の雰囲気はあるし)


 そのとき、そばにいた細身の眼鏡の男性が話しかけてきた。


「あ、あの、すみません。僕もご一緒してよろしいでしょうか?」


「あ、はい。私はいいですけど……」


 サトウが目配せしてきたので、半蔵は頷く。


「俺も構わないです」


「よ、良かったです! 僕はタナカです。実は、中々声を掛ける勇気が出なくてですね。あ、そうだ。これ」


 タナカが机の上に2000円を並べた。


「え、これは?」とサトウが困惑し、半蔵も困惑した。


「え? メンバー料ですけど……」


 一瞬の間があってから、サトウが笑う。


「いやいや、メンバー料なんていらないですよ。気楽にいきましょう」


「あ、そうなんですね。良かった」


 安心そうに笑うタナカにつられ、半蔵も笑う。教室の端っこで、くだらないことを言い合っていた日々を思い出し、懐かしくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ