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第四章(2)

 差し当たって必要なのは、茶会(ティーパーティー)に着ていくドレスだ。

「ドレスは新調する」

 書斎を辞してすぐ、セオドアはメルディーナに告げた。

「この前仕立てたものではダメだ」

「そうなのですか?」

 晩餐までの時間、セオドアはメルディーナと共に、彼女の部屋に向かった。小晦日の茶会の準備の手伝いをするためだ。

「お前が初めて参加する王室主催の場だ。そのためだけのものを仕立てるべきだ」

 

 一度袖を通したものは二度と身につけない。ということができるだけの資産はあるものの、セオドア自身は衣服にはとんと無頓着であった。今ぐらいの年齢(ころ)は、周りの者が用意したものから着心地の良さそうなものを選ぶくらいで、一から選んだことなど一度もない。着飾ることを必要ないと思っていたのだ。

 ――身に纏うものがその人を魅せる。とセオドアにこんこんと諭したのはシルヴィアだった。時と場所と場合、この三つに相応しいものを選ぶだけではダメで。その時と場所と場合で、自分をどう見せたいかも考えなくてはいけない。


「これは戦略と戦術なのです。いいですか、セオドア。その場に相応しいものでその身に似合っているもの、だけではダメなのです。どのように自分を印象づけたいか。それも大事なのです」


 だから、メルディーナのドレスは新たに仕立てなければならない。

 これまで社交の場に一切姿を見せなかった令嬢。

 深窓の令嬢、と聞こえはいいが、この国の貴族の夫人と令嬢の役割は社交でもって家門を支えること。

 公爵夫人は病ですでに儚く、令息夫人もまた長く病床に伏して人前に姿を見せることがないままこの世を去った。アトレー公爵家唯一の令嬢であるメルディーナには、色々な意味で人々が注目するだろう。

 だから、ドレスを仕立てなければならないのだ。この子を様々なものから守るために。


 メルディーナの部屋の前まで来ると、そこに人影があった。家庭教師(ガヴァネス)のガートン夫人だ。

 祖父からすでに招待状のことを聞かされていたのだろう。側に控えるメイドの手にはカタログがあった。

「小晦日に向けての準備を仰せつかっております」

 夫人は優雅にお辞儀(カーテシー)をする。

「私の衣装とも合わせる必要があるので同席するが、問題はありますか?」

「いえ、ございません」

 そのまま、三人はメルディーナの私室へと入った。


「当日の衣装はまだ完成していませんが、デザイン画が手元にあります。こちらに持ってくるように伝えてあります」

「左様でございますか」

「ちょうどいいことに、私とメルディーナは髪や瞳の色が近い。私のものと近しいデザインであっても、メルディーナには似合うと思います」

「恐れながら。ご婚約者様のドレス(もの)とはお合わせにはなっておられないのでしょうか」

「合わせないということで、先方とは合意が取れています。お互いに未成年ですので」


 男性が婚約者の令嬢にドレスや装飾品を贈るのは、マナーのひとつとなっている。そして、揃って出席する場合、相手の髪や瞳の色を身につけたり、対になったデザインにすることもまた、常識であった。


「小晦日までひと月もございません。どこの仕立て屋も大晦日や新年の舞踏会のための仕立てにかかりきりだと思われます。知り合いのブティックか、既製服(プレタポルテ)のカスタムであれば対応可能だと返事をもらっているのですが、」

 メイドがテーブルに広げたカタログはそこのものなのだろう。

「アトレー公爵家令嬢が初めて参加する王家主催の茶会に相応しいものを用意せねばならない」

 どんなことでも、初めて、は、たった一回しかないのだ。そして、そのたった一回が決定づけたことを覆すのは容易ではない。

「そのお気持ちは(わたくし)も十分承知しておりますが、」

「メルディーナ」

 とセオドアが名を呼べば、少女は迷いなく顔を上げた。

「私に任せてくれるか?」

「はい。お願いしたく思います」 

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