5話 モンブラン王国 ①
ひとつふたつと深呼吸をして周りを見渡す。
入国審査をない代わりに王宮へ行くこととなったのだが、ガーナ率いる反逆者の説明と護送に時間もかかり、港に着いてから1時間、ようやく馬車が迎えにきて向かう事となった。
「早く町の中を見てぇ〜〜〜」
「ふふっ」
「どうしたの?クリム」
「シフォンさんが子供みたいにはしゃいでて、弟がいたらこんな感じなのかなぁと思うとつい」
「シフォン、あまり恥ずかしい事しないで」
シフォンは外の風景に夢中になっていた。
馬車の横にはアーモンド、グラ、ナディラが馬に乗り、並走しながら護衛をしている。
そして約1時間後には、中央にそびえ立つ宮殿が徐々に近づいてくるのがわかってきた。
「クリム王女、もうすぐお着きになりますのでご用意を」
「わかりました」
やがてゆっくりと止まり、馬車から出ると眼の前には大きな王宮の入口に続く道、左右には騎士が並んで出迎えていた。
周りを見ながら歩いている。
一言も喋らずに辺りを見渡すと、気がついた時にはあっという間に玉座の間に着いていた。
そこにはフラン王妃とフレス殿下の姿と近衛兵が左右に並んで出迎えていた。
「皆さんご苦労様でした。王も薬を飲み休んでおります。それで先に少しガーナの事を聞きたいのですが宜しいですか」
現在、先に護送されたガーナ達は尋問中で、今も近衛隊のグラセ副隊長と数人で問い詰めている。
また近衛隊の隊長であるマカデミア将軍は床で伏せているイタリ王の側で護衛をしている。
第一王女であるクリム王女は島で起きた全てを説明と同時に改めてシフォンとアンを紹介した。
「わかりました。シフォン、アン、このたびは本当にありがとうございます。もてなす準備もあります。少し部屋で休んで下さい。アーモンド、グラ、ナディラ、あなた方も今日1日ゆっくりお休み下さい」
フラン王妃の言葉を受け、クリム王女を残し、近衛兵に案内されて一度退室した。
「クリム、あなたはそのままお二人をおもてなし下さい」
「はい」
「あなたも少し休みなさい」
「はい、それでは父のご様態を見てから休ませて頂きます」
クリム王女も退室するとフレス殿下がフラン王妃に断りを入れる。
バタン、
「母上、私には宝具を確認しに宝物庫に入る許可を頂きたいのですが」
「話は聞いています。今回のガーナの目的も」
「では」
「…わかりました。近衛兵を3人つけましょう。何があるかわかりませんので」
「…わかりました。それでは失礼します」
フレス殿下が退室してフラン王妃はようやく腰を下ろしてため息を一つついた。
◇ ◇ ◇
宝物庫
入口には兵が2人、厳重に鍵が掛けられた扉を開け、中に入る。
部屋の中は広いがお宝がたくさんあるわけではなく、ほとんどが税で集めたお金などである。
その中央奥の台座に置かれた物を確認する。
なる程、宝具といっても我々には必要無さそうだな。
「殿下」
「特に問題なさそうだ。戻るとしよう」
宝物庫を出て自室に戻る。
部屋には自分1人、見張りは無し、【通信魔導具】を使う。
「…どうだった」
「はい、神具ではありません。宝具が1つ、我々には必要無い宝具です」
「そうか、ご苦労。ガーナはどうしている。我々の事は」
「漏れてないです」
「わかった。始末してお前も早く戻ってこい」
「わかりました」
最低限の言葉で通信具を切る。
モンブラン王国は大国ではあるがまだ発展途中であり、盗聴の恐れも無ければ、通信具もまだ普及されてはいない。
だからこそ足がつく前に去る必要がある。
既に王妃には少し怪しまれている事はわかっていたので、なるべく行動せずにじっと耐えていた。
そしてその夜、
カツッ、カツッ、カツッ、
「おおぉ、待っとったぞ。早くここから出して…!!!」
剥けられた柄物に腰がくだけて後退りする。
「まっ、待て、私を殺してもしょうがないぞ」
「ああ、だが生かしててもしょうがない」
何故なんだ。
あの方の為にここまでやってきたんだ。
私の才能をあの方だけが認めてくれた。
あの方の力になれるのは私だけなんだ。
なぜ分からない。
わたしがぁぁぁ、なぜ、なぜなぜ。
「何故なんだぁーーーーーー」
静かな地下牢で哀しい叫び声が響き渡る。
地下の牢獄で囚われているガーナと雇った輩を殺害、その日のうちに王宮を抜けて王都の外へ出た。
「すまないな。くだらん任務にあたってもらって」
「処分は彼等だけでいいのですか?」
「ああ、問題ない。この国には今他の面倒事がある。それに今余計な戦力をこの国に回す余裕はない」
「他の面倒事?それにこの国は弱小国の一つでは?」
「たしかに弱い…がマカダミアがいる。もしこの国に我等が必要としている物があれば奴と殺り合わなければならんが、無理してまで奴と闘う必要はない。お前も奴にだけは気をつけておけ」
「はっ」
「もうこの国には用がない。次に行くとするか」
二人は何もなかったように静かにこの国を出ていった。
◇ ◇ ◇
遡ること5時間前、
王宮ではシフォンとアンをもてなす料理がテーブルに並べられていた。
出席しているのは王妃と殿下、それにクリム王女が席に座り、護衛の近衛兵とメイドが部屋の隅に並んで待機している。
陛下不在だが、陛下のご容態も大分落ち着き、良くなってきているのが目で見てわかる様になってきていると言う話で、立ち上がるまではまだ数日かかると主治医に言われていて未だに寝ているが、意識はしっかりしてきている。
「さあ、遠慮なさらずお食べ下さい」
シフォンは真っ先に手を伸ばし食べ始める。
「うめぇ〜〜〜」
モグモグ、
「なんだこれちょーうめぇ〜〜〜」
モグモグ、モグモグ、
「ホント美味しい」
船内の食事もそうだったが、島での暮らしで調味料は主に塩と味噌のみ、それも自家製の物である。
主に自給自足の生活、そこまで凝った料理などもなく、楽しむというより
も生きる為の食事だった。
この数日で食事の楽しみを知った。
「ふぅー、食った食った」
「美味しかったわ」
「シフォンさん、アンさん、町には沢山の美味しい物があるので楽しんで下さいね」
「じゃあ明日早速町に行って見ようかしら」
「そういえば近衛隊の方が是非手合わせをとおっしゃっていましたわ」
「まじかっ!おっしゃーっ!やってやるぜぇ!!」
「なぜそうなったの?」
「わたくしが自慢しました」
クリム王女が手を頬にあて照れながら言った。
その話が途切れるタイミングを見て、王妃が二人に今後の事を訊ねる。
「お二人はどのくらいで滞在する予定ですか?」
「そうねぇ〜…とりあえずは次の目的地を決めてこの町を一周りしてからかしら」
「では目的地が決まるまではここを家と思ってゆっくりして下さいね」
王妃はニッコリと笑ってまるで育ての親の様に優しく迎い入れてくれた。
クリムもとても喜んでくれてる。
明日には身分証明書も出来るということなので、受け取ったら町を見に行く予定だ。
楽しい時間と過ぎ、皆が就寝に入る。
朝には囚人が全員遺体となるとは知らずに…
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。
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