4話 旅立ち ④
皆が鳴き声に反応して上を見上げると、一筋の光が船の上で剣を持つ者を貫いた。
「ぎゃぁぁぁ」
落雷!
キィーーーーーーッ、
もの凄いスピードで落下してくる大きな鳥、それは伝説の鳥とされている【雷鳥】だった。
「ルト!」
するとアンの真上まで近づくと、アンは飛んで雷鳥の手を掴む。
「行くわよルト」
雷鳥はアンを船の上まで運ぶと同時に残りの二人も雷撃を浴びせた。
「あなた達大丈夫だった」
「ありがとうございます」
捕らわれていた船員全員を解放すると倒れたガーナの部下を捕縛した。
「こっちはもう平気よ」
アンの声にアーモンド達は置いた剣を掴み構える。
「ガーナ宰相、いや反逆者ガーナ!このまま素直に投降しろ」
「お前はバカか。いけ!ここにいる全員殺せ!」
現状、戦えないクリム王女を抜くと4人に対して、相手はガーナを入れると18人、相手の力量は大したことはないが、王女を守るというハンデがある。
シフォンが1人また1人とどんどん殴り飛ばして行くが、なかなか敵は減らない。
何とか応戦はしているが少しずつ傷ついてゆく。
「ルト」
アンが雷鳥を呼び、もの凄いスピードでクリム王女抱き連れ去る。
そして甲板へ、
「もう大丈夫よ」
「アンちゃん、助かる。お前達行くぞ」
「「おう!」」
コォーーーーーーッ、コォーーーーーーッ、
「こ、今度はなんなんだーーーっ!」
「ひ、ひ、火喰い鳥だぁーーー!」
「そ、そんなばかな」
雷鳥に続いて【火炎鳥】、別名火喰い鳥は絶滅危惧種とされている珍しい鳥で、本来は火口付近に生息していると言われている。
「ヨーグ!よし、いくぞ」
パン、パン
拳を2度叩き、シフォンが構えると火炎鳥も合わせて火を吐いた。
シフォンに殴られダメージを負っているガーナの部下達は火に包まれ戦意喪失している。
それに同調するようにアーモンド達も一気にたたみかける。
あっという間だった。
相手は火に包まれ、戦うどころではなくなっている。
「ぎゃぁぁぁ」
「た、たすけてくれ〜」
「ひ〜〜〜」
転げ回る者、跪く者、泣き叫ぶ者、既に勝敗はついていた。
「何をやっている!」
火煙の中からシフォンが飛び出す。
「お前、ムカつくぜ!」
どごーーーーーん、
炎を纒ったシフォンの拳がガーナの顔面をぶっ飛ばすと、十数メートル吹っ飛びそのまま気絶した。
「サンキューな、ヨーグ」
ガーナの企みをここで幕を閉じた。
◇ ◇ ◇
あれからガーナ達21人は捕縛して監禁、シフォンとアンはルトとヨーグに別れを告げた。
「ルト、私達は冒険に出るの。だからこの島を頼んだわよ」
「おいヨーグ、そんな悲しそうな顔すんなよ。俺達も兄ちゃんに負けない位強くなって帰ってくるからよぉ。兄ちゃんが帰ってきたら俺達のことぉ伝えてくれ、な」
別れを済まして船は出港する。
そして数時間が経過した。
アーモンド達3人は傷を癒やすために部屋で船医に寝かされ、クリム王女は疲れたのだろう、部屋で少し休むつもりが熟睡、シフォンとアンは手の空いている船員と料理を持ってきたコックに小冷と質問攻めにあっている。
「本当にありがとう。君達は私達の命の恩人だよ」
「ほら、どんどん食べてくれ」
それから2時間後、ようやく陽も沈み始めると船員達は次の仕事や交代の時間もあり、ようやく解放されて部屋に戻る事が出来た。
「腹もいっぱいだし、さすがに寝みぃ~」
トントン、
「失礼します」
クリム王女と治療を終え休んだアーモンド達が来ると、また何度も何度もお礼を繰り返す。
「国に戻ったら是非お礼をさせて下さい」
「そんな事を言われてもなぁ〜」
「ねぇ、この金貨はいくらになるの」
「こ、これは!」
意外にもナディラが驚いている。
「す、凄いですよ。金貨自体はどこ国でも共通に換金出来ます。金自体の相場は大体決まっていますが、金貨に彫られた装飾はどの国で作られてたかを示しています。発行枚数やコレクターによって価値は大きく変わりますが、これは失われた王国、緋の国で作られてた物です」
「それでいくらぐらいになるの?」
「これは発行枚数も少なく、今現状見つかった枚数は30程と噂されています。それがここに5枚もあるなんて…」
ナディラがしばらく金貨を眺めているとアーモンドに急かされる。
「で、いくらになるんだ」
「あっ、すいませんアーモンドさん。普通の金貨ならおよそ100万ラテ、ですがこの金貨は最低でもその20倍以上、いや100倍以上出す人もいると思いますよ」
「ひゃっ」
思わず声が出るグラ。
「ってことは全部で5億ラテ」
膝をつくグラ。
「グラ、クリム王女の前だぞ」
「かまいませんよ」
「困ったわねぇ、私達これしか持ってないのに…」
「アンさん。わたくしにお任せ下さい。お二人には謝礼を用意します。そちらの金貨は大事にお持ちになって下さい」
「シフォンくん、アンちゃん、君達は身分証明書を持っているかい?」
「そんなもん持ってねぇぞ」
「だろうな」
「アーモンド、そちらもわたくしがご用意致しますのでご安心を」
「ありがとうクリム」
「ところでお二人の家名を教えて下さい」
「家名?」
「クリム様、家名を持つ者はさほど多くはありません。貴族であれば当たり前ですが、平民で家名を持つ者は功績をあげた者や権力者がほとんどです」
「ではわたくしが家名を与えても問題ないですね」
「えっ!」
「功績をあげたのですから」
「あっはい」
「わたくしと同じ=ド=モンブランは如何でしょう」
「駄目です。いろいろと問題になります」
しばらく考えると、パンと手を叩き応えた。
「スイーツ!シフォン=スイーツ、アン=スイーツはどうですか」
「おっいいねぇ」
「かわいいじゃない」
「そうでしょ。決まりましたね」
「私からもよろしいですか」
「何でしょう?」
「我が王国では剣の所有は許可を取らないと罰せられます。アンちゃんは剣を所持してますので許可証も必要かと」
「わかりました。そちらもわたくしが手配します。お二人共ご安心下さい。しかし用意が出来るまでは王宮の方で暫くお待ちして頂く形になりますがよろしいですか?」
「平気平気」
「では入国の際は私達が何とか致しましょう」
これからの事やある程度の世界の常識を聞き、二人は文字の読み書きが出来なかったので最低限の読み書きを教わりながら3日間船の中で過ごした。
過ごした3日間もあっという間に過ぎ、船員達とも仲良くなり、とても楽しい時間を過ごす事が出来た。
気付けば港が見えてくる。
港に近づくにつれて賑やかな活気ある町の姿が見えてくる。
そして船は港に着き、シフォンとアンは初めて見知らぬ地に足をつけ空を仰いだ。
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。
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