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イストリア  作者: ヨシハル
3/30

3話 旅立ち ③

 浜辺から1時間歩き、そして森へと入る。


 おかしい!

 いつも以上の獣の遠吠えが響きわたる。


 進めば進む程に獣の声が大きくなり、どんどんと近づいてくる。


「シフォンくん、アンちゃん、この森は普段からこんな感じなのか?」


 アーモンドはクリム王女を守りつつ警戒しながら二人に訊ねると、二人の言葉に緊張が走る。


「明らかにおかしいわね」


 アンは気付いていた。


 尾行されていることに、


 二人…僅かに視線を感じる。

 しかし、それよりも…


 尾行は最初から気付いていて気にはしていないが、明らかに獲物を狙うような獣の視線を感じる。

 それはシフォンも一緒だった。

 今までこんなにも興奮した獣の視線を浴びた事はほとんどない。

 野生の感で明らかに格上の二人には殺気を出したりはしない。

 まるで餓死寸前の獣がお構いなしに生きるためにどんな相手にも喰らってやろうとするかの様な行動に出てきている。


 数は13、【キラーファングウルフ】が草むらから目を光らせる。

 1頭だけでも約3メートルはある巨大な体に鋭くむき出した大きな牙が2本、グラとナディラが後方の1頭づつ相手にするが残り11頭、アーモンドはクリム王女、シフォン、アンを守りながら前の3頭を警戒するが、攻める事が出来ない。


 命に変えても3人を逃さないとと思っていたその時、状況が大きく変わる。


 2頭のキラーファングが吹っ飛んだ!


「俺達に任せろよ!」


 シフォンの拳、アンの蹴りが炸裂した。


 アーモンドは驚きを隠せないでいる。

 騎士団でもベテランが何とか1人で1頭を相手に出来る魔物、グラとナディラでも凶暴化したキラーファングを相手に苦戦している。

 ただのキラーファングならもう倒しているだろうが、まだ倒しきれていない。

 俺が何とか3頭、いや凶暴化したキラーファングだと2頭が限界だろう。

 しかしあの子ら2人は簡単に吹き飛ばした。

 今はそんな事を考えている暇はない。


「すまん!シフォンくん、アンちゃん、加勢を頼む」


「「言われなくても」」


 言葉と同時に刀を抜くと同時に2頭の首が飛んだ。


 バンバンッ!


 シフォンは拳と拳を叩いて腰を落とすと両拳が燃え、一気に前に飛び出して上に飛び上がると、奥にいたキラーファングに拳を打ち下ろす。


 たぶん群れのボスだろう。


 体長5メートル近くあるオオカミとは思えない大きさのキラーファングが地面に叩きつけられる。


 普段ならボスがやられたら周りは逃げるのだが、未だに逃げる様子はなく襲ってくる。

 アーモンドは守る人がクリム王女1人になったとしても、守りながらキラーファングを相手にしていることには変わりはない。

 グラとナディラは傷つきながらもようやく2頭倒す事が出来たがアーモンドは未だに防戦、それを見ていたアンは気付いた。


 現在倒したキラーファングウルフは4頭、ダメージを受けているのが3頭、シフォンとボスは戦闘中、アンはまだノーダメージのキラーファングを5頭相手にする。

 アンの動きに理解したアーモンド達はダメージを受けて瀕死の3頭を相手にする。


 5頭と首が飛びボスも倒れると、アーモンド達も一気に決着をつける。


「はあ、はあ、助かったよ。しかし君たちは強いな」


 アーモンド達の気が抜けた所にアンはすぐさまクリム王女の腰にぶら下がった魔除けの御守りを斬る。


 周りの騎士達とクリム王女は驚き戸惑うが、アーモンドはすぐに切れた御守りから流れる粉に気づいた。


「これは!」


 そう!それは魔除けではなく、呼び寄せる物である。


 アンは近くにあった石を真後ろの木の上に投げる。


「どうしたんだ」


「何でもないわ。原因も分かったし、先を急ぎましょう」


 軽く傷の手当てをしてすぐに森の奥へと進み出した。


   ◇   ◇   ◇


 あのガキ達は危険だ。

 特に女!俺にずっと気付いていた。


「急いで戻るぞ」


 物音をほとんど立てずに走り、ガーナ宰相が待つ船へ戻った。


 トントン、


「申し訳ございません。失敗に終わりました。我等の存在も気づかれ、これ以上の尾行及び暗殺は出来ないと判断して戻った次第です」


「なにぃ〜」


 使えん奴らだ!

 やはり金で雇った奴らは役にたたんな。

 作戦は変更するしかないな。


「すぐに船員達を捕らえよ」


「はっ!」


 私以外は雇った20人と王国専属の船員が15名、面倒だが自らの手で殺すしかないようだな。


   ◇   ◇   ◇


 山の上に咲く【月光花】、澄んだ水と光が当たる高い場所にしか咲かないと言われている花は、昼は大人しく蕾のままで養分を蓄え、夜は月の明かりに照らされて咲くと言われている。


 無事に辿り着くと何とも言えない光景が広がる。

 初めて目にするクリム王女と騎士3名には幻想的な景色、心が吸い込まれそうになる程だった。


「何と美しい花でしょうか」


 やがて花弁は閉じてゆく。


「…は、早く朝露を」


「ちょっと瓶を貸して」


 アンは瓶を受け取ると閉じたあとに垂れ下がる蕾から上手く朝露を瓶に入れる。


 葉に溜まるでなく、閉じた蕾が入れ物になり、重さで垂れ下がり朝露が溢れるのを受け取る。

 何も知らない初めての人では失敗して、朝露を採取することは出来ない。

 だからアンは瓶を受け取り、代わりに採取した。


「さあ早く戻りましょう」


 キラーファングウルフに襲われてからは何事もなく順調に進んでいた。

 太陽も徐々に上り、ようやく船まで着くと、ガーナを含む18人が出迎えていた。


 しかし、


「よくぞお戻りになりました。しかし残念ですが、ここで死んでいただきましょう。」


「ガ、ガーナ宰相!何を言っているんだ」


 ガーナが上を指で指すと、船の上には15名の船員が縛られ、ガーナの部下3人が刃物で圧えていた。


「アーモンド、わかりますよね」


 アーモンド達はクリム王女を囲みながら辺りを見渡し、再度船の上の人質を確認してから武器をゆっくりと下に置く。


「早く船員達を開放しろ」


「あなたはバカですか?」


「ガーナ宰相!わたくしの命が目的ならわたくしだけで十分でしょう」


「はん、だから王族はバカなんですよ。何故に証拠を残す必要があるでしょうか?あなた方は何でも自分の思う様になると勘違いしてませんか?そのような人が上に立つからこの世界が腐って行くんですよ。あなた方の視野は狭い。血統のみのバカな王は世界に必要ないのです」


 ガーナが笑いながら語っていると、船の上から船員達の叫び声が聞こえてきた。


「姫様〜〜〜〜〜〜〜〜」


「私達に構わっグワっ」


「うるせえ」


 叫び出す船員を蹴り倒し、首元に刃を当てると同時に口笛が鳴り響く。

 それはアンがタイミングを見て起こした行動だった。


 その時だった。


 キィーーーーーーッ、キィーーーーーーッ、


 空から鳴き声が響いた。

 ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。

これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。


 ここまで読んで「面白かった」「続きを読みたい」と思われた方は、ブクマ・評価・ご感想という形で応援して頂けますと、とても嬉しいです!

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