29話 レモネとトマ
王宮では今回の件で今まで見過ごしてきた革命軍に対して、裁かなくてはいけなくなった。
王国軍もまた死者およそ300人と出てしまったのが大きく、見方を変えれば反乱である。
とある人物から今回の首謀者として捕まえた5人、内4人は懸賞金がかけられている賞金首、ただそれだけでは今回の件は納得しない者が多く、話は終わらない。
そこにレモネとトマ、更には罪を償う為に死罪を覚悟した元革命軍およそ300人が自首してきた。
確認した所、キュリからの報告にあった戦争に参加していない者ばかりであった。
数時間前、
王都の正面門では300人近くの革命軍がやってくる。
全員武器を持たず、此度の戦の謝罪と自首、バジル陛下への面会の希望と革命軍の解散の報告を願い出た。
門番が急ぎ近衛兵への報告、キュリが隊を引き連れ出向くと捕縛することなく王宮まで連れて行く。
レモネの性格を知っているバジル陛下が前もってキュリに頼んでいた事だった。
捕縛して連れ歩くのは人の目を引く。
大人数を連れ歩くだけでも注目されるのに、捕縛となると良からぬ噂も流れ出る。
町通りを抜けて王宮までの道、ここで全員が縛られ連行される。
「キュリ、すまないが先にアンという女性に面会をしたい」
予想通りだった。
もちろん先にアンの見舞いに行かせる予定でもあった。
「ああ、ただしレモネ様とトマの二人だけだ。他は別の場所へ連行する」
「頼む」
◇ ◇ ◇
アンは王宮内で治療を受けていた。
医師によると奇跡的に神経は平気という事と治りが早いという事、半年はかかるケガはこのまま順調にいけば3ヶ月で治るそうだ。
実際には長年訓練していたアンの得意とする内氣功が自然と神経を守っていた。
奇跡でも偶然でもなく、それは必然的であり、真面目なアンだからこそでもあった。
視力の回復には約3ヶ月、その間は薬草を調合した塗り薬を付けて包帯で目を覆い、目を開けないこと、聴力は1か月もしないうちに完全に治るだろう。
現時点でも少しは聞こえているので問題は会話は出来るようになった。
食事はシフォンに手伝ったもらって、体の届かない所は看護婦かカヌレに拭いてもらっている。
「おはようアンちゃん」
「おはようカヌレさん。また兄さんの話を聞いていい?」
滞在しているカヌレとクラフトにシフォンとアンはよく兄の話を聞いていた。
もちろんラクトも話を聞いていたがカヌレとクラフトの冒険者ランクにびっくりしていた。
それが起爆剤となったのかラクトとシフォンはひたすら修行ばかり、よく二人で組み手をしている。
今はまだシフォンが上だがカヌレとクラフトに見てもらい、この1週間で急激に成長している
「私もそろそろ魔術の事を知るために魔導国ブルガリアに行こうと思うの」
「そうかぁ、私も一緒に行きたいけど、依頼主にこの指輪を届けないといけないのよ」
「指輪といえば、これ返します」
丁度訓練が終わったシフォンとラクト、それにクラフトも戻ってきた。
「ちょうど良かった。その指輪は8の刻印の【祝福の指輪】、あとはこれね」
シフォンに首飾りをかけてあげる。
「これが18の刻印の【聖者の首飾り】ね。これはあらゆる状態異常から守ってくれるから身につけててね」
シフォンは首を傾げると口の足りないカヌレに代わり、クラフトが説明した。
「それは今回依頼を受けていた5の刻印の【紅蓮の指輪】の奪還で、シタバが潜伏しているであろう場所が、この島周辺と予想されていて、仕事で西側に行くと知った君達の兄がカヌレと僕に祝福の指輪と聖者の首飾りを二人に届けて欲しいと頼まれたんだ」
そろそろ二人は島を出るんじゃないかと予想をしていて、何でもシフォンは真っ直ぐな性格だから、暗示系にかかりやすいから聖者の首飾りを、アンは真面目ですぐに無理して危ないから祝福の指輪を用意していた。
周りからは過保護過ぎると言われているぐらいに心配している。
そもそもこの宝具1つ1つが、一国が持つ国宝にあたる。
それを子供が持てば、善からぬ者達に狙われて逆に身が危険になる。
二人にはそのことを十分に忠告した。
「そうそう、アンちゃんの持っている次元の指輪だけど、3個以上ストック出来るよ」
「えっ?でも兄さんは3個までと」
「それはね、自分の魔力量や魔力操作で増やす事が出来るんだよ。宝具はね、氣力や魔力を使わなくても扱えるんだけど、使うことによって宝具もだいぶ変わるんだ。今度練習するといいよ。かなりの便利になると思うから」
アンは指輪をつけかえる。
左手中指に次元の指輪、左手薬指に祝福の指輪にした。
コンコン、
誰が扉をノックする。
「はーーーい、中へどうぞ」
扉が開くとレモネとトマの姿があった。
そばには一応キュリが見張り役でいる。
一直線にアンの元へ行くと、レモネはアンの手を握り、謝罪と感謝をひたすら言った。
「それで体調はどうなの?アン」
「全治3ヶ月ですって」
「そう、…でも最後にアンの顔が見れて良かった」
「最後?」
「これから俺達は今までの事や今回の事、全てを償うつもりだ」
トマも腹をくくった顔でみんなに話し、改めて感謝を言葉にする。
「カヌレ様、先の戦でのご助勢、誠にありがとうございました」
カヌレは世界に3人しかいない冒険者ランク6、【帝】の称号を許させた一人であり、雷帝カヌレ=べカリーとかなり名の知れた人物である。
こんな田舎でも名前ぐらいはほとんどの人が知っている有名人であった。
称号を持つものは一国の王に等しい、いやそれ以上の存在と言われている。
ラクトが聞いたときはとても面白かった。
自分の憧れの冒険者が目の前にいて、さんざん無礼を働いていたと、まあ土下座の嵐だった。
たぶんカヌレに頼めば死罪は免れるが、決してそんなことはしない。
周りもそのことを十分理解して何も言わず、止めることもなく話を聞いた。
そしてキュリがバジル陛下から此度の戦を止めた功労者としてカヌレを筆頭にラクト、シフォン、アンに褒賞したいので是非参加してほしいと願いがあったことを話す。
アンは絶対安静のため、代わりの者がいれば、とのことだった。
「カヌレ様、私共とご同行していただいても宜しいでしょうか」
「う〜〜〜ん、面倒ね。私は大した事してないし」
「何を仰る。元凶であった指名手配犯であるシタバを倒し、更に3人の指名手配犯を捕縛しているではありませんか」
「確かに1人はやったわよ。それは私の都合でね。でも残りの3人は彼らよ。そこにいるあなたの友人のトマって人も含めてね」
「しかし我ら四聖騎士が手も足も出なかったシタバを倒してくれなければ、此度の戦は止まるどころか我らが負けていた。国を救ってくれたのと一緒です」
「でも戦を止めたのはレモネよ。私ではないわ」
言葉が返せなくなったキュリにレモネとトマからもお願いされた。
仕方なく出ることになる。
もちろんラクトとシフォンもだ。
「俺、こういうの初めてでどうしたらいいか…」
緊張するラクトを見て、少し笑いが出て和やかになった。
「シフォン、私の分までヨロシクね」
「おう!任せろ」
そして、しばらくすると呼び出しがかかった。
トントン、
「はい」
「失礼します。キュリ様、
時間です。こちらへ」
レモネとトマは最後にもう一度ありがとうと言う言葉を残して部屋を先に出ていった。
そしてカヌレ達も呼ばれ、着替えてからアンとクラフトを残し、部屋を出た。
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。
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