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イストリア  作者: ヨシハル
18/30

18話 レモネの過去

 アンは座り込む。


「あ〜〜〜〜〜痛い!もう!!」


 シフォンが近づき肩を貸す。


「もう動きたく無いからここで休むわ。私達が勝ったんだから自由にさせてもらうわよ」


 ふふ、あははははーーー、


 大きく口を開けて笑い出すレモネも、トマに肩を借りて立ち上がった。


「私はレモネだ。お嬢さん、名を聞いても」


「アン、私の名前はアンよ」


「アン、この先に誰もいない使わなくなった宿がある。そこを自由に使うといい」


「わかったわ。ありがたく使わせてもらうわね」


「負けておいてなんだが、アン達は何をしたんだ」


「そっちがボディーチェックと言って私の足を触ったから蹴ったのよ」


 あははははーーー


 再び大笑いをする。


「それはすまないことをしたな。詫びをしたいが、まあゆっくり休んでくれ」


 一行はそのまま宿に向かった。


 この後、アン達にちょっかいを出した男達はレモネにボコされたらしい。


 しばらく歩くと無人の宿屋に着く。


 もちろん中には誰もいない。

 お金もかからないし、食事も出ない。

 ただ埃の被ったベットがあるので、みんなで埃を叩き寝れるようにする。

 食堂のテーブルを拭く。

 もちろん水は出ない。

 要は雨風が防げる建物っていうだけであるが、野宿よりは断然にいい。

 片付けが終わると持ってきた水と食料を出して夕食にした。


   ◇   ◇   ◇


「大変です」


 レモネはトマに肩を借りてアジトに戻る途中、王国軍が攻めてきたと報告を受ける。

 今まで王国軍から攻めてきた事はない。

 アンと戦ったことが仇となった。

 傷ついた体でトマに手を借りながらも急いで向かった。


 遠目で王国軍が見えてくると毅然たる態度で一人でゆっくりと前を歩き、そして革命軍の間を割って先頭に出た。

 元五聖騎士の一人、炎槍のキュリが待ち構えていた。

 今まで元五聖騎士が戦場に出ることはなく、ただ立ち構えている姿だけで革命軍がざわめいている。


「久しぶりね、キュリ」


「お久しぶりです。レモネ王女」


 革命軍の中にはレモネが元王女ということを知らない者も多く、更にざわめきが広がる。


「その呼び方はやめてもらえる。私はも王女ではない」


 キュリが目を閉じ、一呼吸を入れる。


「もうこんなことはやめていただきたい。バジル陛下も心配しておられる」


「心配?父を殺しておきながら何を心配するかしら」


 更に大きく一呼吸を入れる。


「話し合いの場を設けたい。トマ、お前とレモネ様、そして私の3人でだ」


 レモネの発言で革命軍だけでなく、王国軍にもざわめきが広がる。

 キュリは冷静に場を収める為に3人での話し合いで解決させようと提案をすると、すんなりと話は進み30分後に会談することとなった。


「で、今更話すことは無いと思うけど」


 用意されたテントの中で会談は始められ、外では各3名ずつの兵が外を見守っている。


「レモネ様、確かにあなたの父、前国王ソルト国王を殺しました。それはトマ、お前もわかっているだろう」


   ◇   ◇   ◇


 過去、


 前国王であるソルト陛下は人一倍優しかったがそれ以上に臆病でもあった。

 魔導国ブルガリアとバーグ帝国、そしてパラガス王国は長年争ってきたが、三国同盟によりわだかまりはあるものの、戦争は終結したのがおよそ10年前、世界政府が間に入り話はまとまった。

 世界政府が入ったことで自国から戦争は仕掛けられなくなり、停戦ではなく終結になった。

 だが終結後1年で国王が他界、第一王子であったソルト殿下が国王となった。


 臆病だったソルト陛下は国民を守るため軍事強化に力を入れた。


 いや、入れすぎた。


 目の届く所は何とか維持は出来ていたが、軍事力を維持もしくは更なる強化のために上げた税金が国民の生活を少しずつ苦しめていた。


 それは小さな町村は生死に関わるほどに。


 これ以上は危険と判断した弟のバジルが説得するも、国を守る、国民を守る、責任感が強すぎた為に聞く耳が持てなくなっていた。


「バジル様、もう限界です。小さな村では死者も出ていると」


「もう迷っている場合ではありません。決断を」


 バジルと五聖騎士の話し合いが始まった。


 何度も繰り返された話し合い。


 最初の頃は兄を支える為、大臣としてソルトの意思を尊重していたが、今ではソルトの考えを正すために動いていた。


 今ではもうソルト陛下を暗殺してバジル大臣を国王へとの意見が強くなっていた。


「しかし…」


「一刻を争います」


 それは長年をかけて近衛兵達や王宮務めのほとんどの人から理解を得ていた。


 王宮で知らないのはソルト陛下とレモネ姫だけ、そして署名も集めている。

 バジルはその署名を改めて確認して決断した。


「わかった。だが、レモネ姫はどうするんだ」


 一人娘のレモネ姫、ゆくゆくはこの国を支える王妃としてと誰もが思っていたが、今は暗殺したあとの彼女の行動を気にしている。

 バジル他五聖騎士のトマとキュリはレモネ姫の暗殺に反対、出来れば理解を求めたいが無理だろうと判断、他国で不自由なく暮らしていってほしいと願う。

 残りの五聖騎士3名はレモネのカリスマ性を復讐を警戒しての暗殺をと意見が分かれている。


 話は纏まらない内にソルト陛下暗殺を決行、そしてその手はレモネを襲う。


「あなた達、何をするのです」


「待て!何を勝手に」


「どけ!トマ邪魔だぁーーー!!」


 その剣は真っ直ぐ上から下へと、そしてレモネ姫の顔と左眼、庇ったトマの左腕を斬った。

 左腕を失ったトマは右手でレモネ姫を抱き抱えて窓を突き破り、外へと飛び出した。


「レモネ様!レモネ様!」


 返事は無いが命には別状無さそうだ。


 鎧を脱ぎ捨てて身軽な状態になる。


「姫、失礼します」


 物影に隠れながらレモネ姫のドレスの裾を破り、急いでレモネ姫の応急処置、自分のベルトを外し、失った左腕の止血をする。

 しかし気を失っているレモネ姫を抱えて逃げるのはもう体力的にも困難な状況下であった。

 もう逃げることは出来ないと判断した時にキュリに見つかってしまった。

 しかしキュリは手助けをした。


「これで上手く逃げろ」


 馬を一頭と詰めるだけの水と食料、そしてお金も用意されていた。


「なぜ?」


「バジル様は最悪の場合、こうなることを予測されていた」


「ははっ、助かった」


「バジル様からの伝言だ。出来れば復讐など考えずに他国で幸せに暮らしてほしいと」


「あぁ」


「レモネ姫を頼んだぞ」


 トマは何も言わずにレモネ姫を馬に乗せて、振り返ることなく真っ直ぐ馬を走られた。

 ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。

これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。


 ここまで読んで「面白かった」「続きを読みたい」と思われた方は、ブクマ・評価・ご感想という形で応援して頂けますと、とても嬉しいです!

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