14話 港町クレム
ずっと宿で待っていたラクトと合流して昼食を取る。
「お前何処行ってたんだぁ。遅い!俺を置いて行くな!お前等自由過ぎるだろ」
「怒らないで、ね。ほら見て、買っちゃった」
「買ったって石をか?ったく、女は石っころが好きだよなぁ。何がいいんだよなぁ、シフォン」
「3,000万ラテだってよ。ソレ」
「さんぜんまん!」
腰を抜かすラクト、
「普通そうなるよなぁ」
いろいろとツッコミたいラクトだが、午後は三人で満喫してから明日に備えて早めの夕飯と早めの就寝、そして朝起きて馬車に乗り、港町クレムに向かった。
◇ ◇ ◇
港町クレム
何事もなく6時間後の昼2時頃には、潮風の匂いに広がる海、そして町が見えてきた。
「ねえ、もうすぐ着くわよ」
前回同様ラクトはひたすら寝ていた。
シフォンは休憩入るたびに体を動かしていて、ジッとしているのに少し疲れている。
クレムに着いて最初にやることは次に行く国の身分証明書を発行する事、門をくぐり抜け馬車を降りる。
「おいシフォン、アン、はぐれないように俺の後についてこいよってオイ!」
既に自由行動しようとしている二人を急いで捕まえると、引っ張るように二人を身分証明書の発行所と舟券を予約しに行った。
身分証明書はパラガス王国領、滞在日数は3ヶ月、発行金額1人3万ラテ、クレムからキーニまでは約半日で着くので船賃は1人6万ラテと安い。
1人合計9万ラテ、短い船旅なので準備は必要ない。
明日の朝出港の船を予約した。
「おい、前から気になってたんだが、何で門兵がお前等の身分証を見るたびに敬礼するんだ」
「そんなの知らないわよ」
「普通はあんな焦って背筋伸ばして敬礼なんかしねぇぞ。ちょっと見せてみろ」
その身分証は王家の身分証そのもの、王家の血筋が持つことを許された物と一緒だった。
「おい!お前等王族だったのか!」
「違うわよ」
「俺達が王族に見えるのか?」
「ま、ま、ま、まあ確かにそうだよな」
深呼吸して一息入れる。
「どうしてこれを持っているかはわからんが、門兵の態度の理由はわかった」
この後は先に宿を決めて少し休んだ後、町を見てから夕飯にした。
「なあ、飯食ってる最中に話す事じゃねぇが、お前等資金どれ位あるんだ。まああんな石買うぐらいだから俺よりかはあると思うが」
「ええと700万ラテぐらいかしら」
「700万もあるのかよ!いやあんな石で3,000万ラテ使った事を考えると700万しか無いと言うべきか…」
箸も止まりいろいろと考えてるラクトを気にせず、どんどん注文もして食べまくる二人に少しツッコむ。
「お前等、ちょっと金銭感覚おかしいぞ!俺の全財産が残り273,450ラテ、次の国から国境を越えるまで持つかどうかだ。だから明日パラガス領に入ったら働くぞ」
「「どうぞ」」
「どうぞじゃねぇ!お前等もだよ」
「私達はまだあるから平気よ」
「平気かもしれねぇが、その金銭感覚が駄目だって言ってるんだよ。少し働いて金銭感覚を養え!」
少し説教をするラクトに対してたんたんと食事を終わらせ会計する二人。
「お会計25,800ラテになります」
「はいどうぞ」
「そこだよ!一回の食事に毎回3万近い金使ってどうすんだよ。すぐ無くなるぞ」
「はいはい」
「おまえら〜〜〜〜〜〜!」
お店の定員に静かにと怒られて宿へ戻る。
ウザい事に話の続きとラクトが部屋に来るよう呼び出してきたので、しぶしぶ行くことにした。
「もう!何よ」
「話は早くなぁ~」
「まあとりあえず明日行くパラガス王国は数年間内乱が続いている」
どうやらラクトは夕飯前に少し下調べをしていたようで、内乱が続いている事は知ってはいたが、細かい現状を船から出てきたキーニから来た人に聞いて回っていた。
どうやら革命軍はキーニから王都に向かう直線状にある町、コリーに滞在しているということだ。
本来なら王都で次に行く国の身分証明書を発行しないといけない。
キーニから王都までは歩いて最短で5日で着くが、遠廻りをしていくと歩いて2週間近くかかってしまう。
こんな状況下なので馬車は現在いつ使えるかわからないし、金額も桁違いの料金になっている。
「パラガス王国から魔導国ブルガリアに行くにしろ、バーグ帝国に行くにしろ、王都で身分証明書を発行しなければならない。それに水と食料だ。なるべく日持ちする物をここで買って行く必要がある」
パラガス国内はあまりにも内戦が長引いている為に食料と水が乏しく、生産量もかなり減っていて輸入に頼っていた。
一応水と食料は大量に指輪に入っていて腐る心配もないということは、ラクトには言っていないし、今も教えていない。
水と食料の入れ方も宝具の性質を聞いた王妃が特製の300キロ入る木箱を用意してバランスよく詰めてくれていたので二人なら2週間分の食料がある。
ラクトの分と状況を聞く限りはもっと用意したほうがいいと思い、だから何も言わなかった。
「だから朝市で水と食料を仕入れてから船に乗るぞ」
そこまでの長話にはならなく、朝が早いため寝ることにした。
朝起きて男二人に水と食料60キロ入っているリュックを持たせ、船に乗り込む。
「はあ、とりあえず座ろう」
短い時間の移動、客室は無いので船員に荷物を預けて指定の席に座る。
一番後ろの窓際の席からアンとシフォン、前の席にラクトが座っている。
「ここいいかしら」
ラクトの席の隣に女性が座る。
「あっ、どうぞどうぞ」
鼻を伸ばしたいやらしい笑みのラクトにアンはドン引きしている。
アンは誰もが目を引く美少女、しかしラクトからすると所詮はガキと思っていた。
だから隣に座った女性は色気のある胸の大きな女性に緊張と動悸を悟られないようにするので必死だった。
「私はカヌレ、宜しくね」
「はい、ぼ、僕ラクトと言います」
後ろから声が聞こえる。
「キモい」
「ボクだってよ」
「フフ、後ろの子たちはお友達かしら」
「そうです。はい」
「楽しい旅になりそうね」
「はい」
本当に…
その言葉とカヌレの目だけが笑っていた。
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。
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