11話 モンブラン王国 ⑦
アン、グラセ対オレイ
「ギギ、優男と女のガキ。ギギ、ギギ、ギギ、俺様の前に立つ?笑いが止まらねぇよ。ギギ」
剣を前に突き出すと、一瞬、風が剣にまとわりつくような感じがした。
「ギギ、なるほどなるほど」
もの凄い速さで間合いをつめると、右回し蹴りから回転しての左足のかかと落とし、オレイも最初の右回し蹴りは防御するが、かかと落としは左肩に喰らった。
「ギギ、ただの優男とガキじゃねぇってことか。だが」
二人めがけて首切り包丁が襲いかかるが、辛うじて躱して体制を整える。
「ギギ、まだ足りない。ギギ」
シャービーの一撃で沈むくらいだからと思っていたがそれは間違っていた。
シャービーの強さが異常なだけで、オレイは間違いなく格上、眼の前で剣を振っただけで冷や汗が出てくる。
「アンさん、少し下って下さい。ここは私が行きましょう」
少し風が出てきた様に思える。
その場で剣を振るうと風を切り裂くような音と同時に離れた場所にいるオレイの体に少し切り傷ができた。
オレイが氣合いを入れると、体はどす黒くなり傷口が一瞬で塞がってしまった。
構わずグラセは剣を振るうが、今度は傷一つ付かない。
「ギギ、おいおい何だ何だぁ〜そのそよ風は」
グラセはなぜ一人で挑もうとしているのか?
それは剣と剣の戦い、いや殺し合いになるからと言うのもあるが、アンの観察力を期待していた。
もし勝てないとしても打開策を彼女は練れると踏んでいる。
それは一度剣を交わしたから理解していた。
アンはシフォンに負けない為に努力してきた事が3つあった。
1つは誰にも負けない観察力、感覚派のシフォンを相手にするには同じ事をしても勝てないから観察力と洞察力を同時に養ってきた。
そしてもう1つは蹴りの威力を最大限に活かす為の体幹、力ではシフォンに勝てない、いや女では男に力で勝てないが、蹴りの威力は使い方によっては拳の2倍にも3倍にもなると言われている。
最後に氣のコントロールである。
氣というのは奥深い。
使い方次第で…
だからアンは今、二人の戦いを見ながら氣を練りながら集中していた。
「ギギ、どうしたどうした」
バカでかく重い首切り包丁を小枝を振るかのようにブンブンとぶん回しているオレイに対してグラセはその首切り包丁を上手く捌き続ける。
力ではオレイ、技ではグラセ、お互い一歩も引かない。
なかなか魔力を込める時間をくれない。
このままだとただ体力を削られるだけだ。
後一歩踏み込むしかないか。
グラセは神経を使いながら超接近戦に持ち込むと、やはり大振りの首切り包丁が不利になる。
ここまで踏み込んでもようやく浅い切り傷をつけられる程度で、魔力が足りてない。
それに比べて首切り包丁の一撃が捌くのに重すぎてキツイ。
どうやらグラセは選択をミスったようだ。
「ギギ、ギギ、ギギ」
「くっ」
徐々に劣勢になってきたグラセ。
一旦間合いがほしい。
「ギギ、先ずは一つ目の首だぁ〜」
「し、しまった!」
弾け飛んだ。
弾け飛んだのは首切り包丁だった。
「俺様の首切り包丁。ギギ、やるねぇ」
アンがグラセの首を狙った首切り包丁を下から蹴りあげた。
氣の乗った流れるような蹴りは首切り包丁を宙に飛ばすと、オレイは落ちてきた首切り包丁を上手くキャッチした。
「好機!」
グラセの剣の先から風が螺旋状に渦巻くと、オレイの右肩関節に渾身の突きを放った。
その突きは宙に浮いた首切り包丁をキャッチしたと同時に関節に喰い込むが、5センチちょっと入っただけでダメージは与えたがそれだけだった。
刺さった剣は抜けずにオレイの左裏拳でグラセを吹き飛ばすと、追い打ちに首切り包丁がグラセを襲う。
だがアンが刺さったグラセの剣の柄めがけて蹴りを放つと、グラセの剣は関節を貫通した。
「ぐあああああ、ハァハァハァ、ギギ、ギギ」
首切り包丁を手放すと声を上げ、そのまま左手でアンの足を掴み、アンを武器のようにぶん回して倒れているグラセを叩く。
そしてニ度三度と地面にアンを叩きつけると、アンは指輪から刀を出してグラセに投げ渡した。
グラセは最後の力を振り絞り、刀で斬り下ろした。
「ぐぎゃぁぁぁ、ハァハァハァ、クソがぁぁぁ」
オレイは左手でグラセの顔面を掴み、そのまま地面に叩きつけると、目の前でアンが拳を構えていた。
体中は切り傷でボロボロ、普通の人なら骨は砕かれ、肺や内臓に刺さり死んでいる。
だが内氣を練り、筋肉や骨を強化して耐えていた。
いや、意地で立ち上がっていた。
アンは賭けに出る。
「【空震掌】はぁぁぁっ、はあーーーーー!」
その足は大地をしっかりと踏み、大地から足へ、足から腰へ、腰から肩へ、肩から肘へ、肘から手首へ、手首から拳へ、全ての氣力を全身を使い拳に乗せて一気に解放した。
普通の人の目にはただ拳を押し当てて、強めに押したようにしか見えないが、解放した氣はオレイの内臓に直接ダメージを与える。
オレイは目、鼻、耳、口から血を流して倒れた。
アンはゆっくりと膝を着き、小さく拳を握りしめた。
「私達の勝ちよ」
◇ ◇ ◇
エット、オレイが倒れて周りの山賊達などもどんどん騎士団に捕まっていく。
「クソっ!何でこんな目に合わなきゃいけねぇんだ」
ガトーは何とか逃げようにも、既に逃げ道はなく、目の前には運ばれているシャービーを見つける。
「テメェさえいなければ、テメェさえいなければ」
短剣でシャービーに襲いかかるも、
ぐべっ
「ガトー、まだあんたを殴る力ぐらいはあるさね」
呆気なくガトーも捕まり、事件も解決した。
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。
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