10話 モンブラン王国 ⑥
「そこまでだ」
戦いに夢中で気付かなかった。
近衛隊副隊長のグラセが騎士団1番隊を引き連れ、気配を消しながら全員逃さないように全ての逃げ道を塞いで立っていた。
「シフォンくん、アンちゃん、大丈夫だったかい」
その中には見慣れた人、アーモンドとグラにナディラまでもいる。
グラセ率いる1番隊総勢60名が山賊達を取り押さえに動き出した。
裏切った組員をどんどんと捕縛していく。
ただ戦い慣れた山賊は少し苦戦するも人数と戦術で徐々に押していくが、オレイとエットはそう簡単にはいかない。
グラセはオレイの所へ、アーモンドはシフォンの所へいく。
そして保護されたシャービーと組員は無事に保護されて、アンはグラセの所へ加勢しに行った。
◇ ◇ ◇
シフォン、ラクト、アーモンド対エット
エットの攻撃力もだか防御力も長けていて、先程からシフォンとラクトのパンチを何発も喰らいながら、攻撃力は全然落ちていない。
「シフォンくん、俺がいく」
確かに打撃に打たれ強くても、剣で斬られれば終わりだ。
アーモンドが剣を振るが掠る程度、しかも皮すら斬れていない状態で、ダメージでいうとほぼ0だった。
エットの氣は上半身に集中していて、高密度の氣が薄く皮膚を覆っている。
たとえ深く斬り込んでもアーモンドの剣では深手にはならないであろう。
それほどにエットとアーモンドの氣質に差がある。
なぜエットの氣が上半身に集中しているかは、おそらく長年自分よりもデカい魔物を相手にしてきたから、故意的に操作というよりも本能的にそう覚えたのだろう。
「くっ、厳しいな」
「おっさん、ちっと下がってな。オラァ〜」
ラクトが突っ込んでボディに渾身の一撃をぶち込むと、さすがのエットもダメージを少し喰らう。
だがダメージを与えた代償も大きく、そのままエットに鷲掴みされた。
苦しむラクト、隙かさずエットの顔面に向かいジャンプ、そしてシフォンの右ストレートが炸裂、同時にアーモンドがラクトを掴む手に深く斬り込んだ。
緩んだ手からラクトは自力で脱出して体制を整える。
アーモンドの加入によりどんどん押してきてはいるが、油断すれば一気に逆転される攻防が続く。
「おっさん、今度は足を狙え」
さっきからおっさんおっさんと、って言いたい所だがそんな状況ではない。
「おっさ…いや、わかった。今度隙が出来たら足元へ突っ込んでいく」
「シフォン!」
「わかってるって!俺に合わせろ」
「ったく、生意気だが頼りになる。行くぜぇ」
今度は二人同時に突っ込んでいく。
「ちょこまかとガキがぁーーー!」
エットの攻撃を躱すと今度は二人同時にボディへ、ラクトは右ストレートをシフォンは左ストレートを喰らわせた。
これにはエットも膝を着きそうになる。
「そこだぁ!」
エットが崩れそうな所を後からふくらはぎを狙って深く斬ると、堪らず両手両膝をついた。
「行くぜラクト」
「おう」
左右から挟むように今度はシフォンの右ストレートとラクトの左ストレートが炸裂した。
決まったと思ったが、まだ耐える。
まさにバケモノ!
「舐めんじゃねぇ〜」
立ち上がると斬られたふくらはぎは筋肉で塞がる。
最初に狙らわせたのはアーモンド、右肩を前に出して突進、一言でタックルしてきた。
それはもの凄いスピードで突っ込んで来る。
アーモンドは狙いすますように剣を振り上げ、そのまま力いっぱい斬りかかるが、剣と一緒にふっ飛ばされる。
エットの肩にはほんの少し傷が出来た程度でアーモンドは全身に打撲を受けて立ち上がれなくなった。
「後はチビ二人」
更に足に力を入れて踏ん張ると二人に向かって突進していく。
辛うじて二人は両サイドに分かれて躱すが、今度はラクトを照準を合わせる。
「シフォンより俺のほうが格下ってか。舐めんなよ!」
腰を落として右拳を強く握りしめる。
エットはお構いなしに右肩を突き出し突っ込んで来ると、ラクトはその右肩中心に渾身の一撃を入れる。
バチバチッ、バチバチッ、
お互いが一点に込めた氣が弾けるとラクトはぶっ飛ばされた。
「クソっ!まだまだぁーーー」
何とか立ち上がったラクトは更に深く腰を落として、更に右拳を強く握りしめる。
そう、今ある全ての力を込めた。
「まだ立ち上がるか。死にかけのガキが」
「へっ、舐めんなよ」
そして再度エットの右肩とラクトの右拳が打つかり合うと大きく氣が弾け飛んだ。
「ラクト!」
気付けばラクトはぶっ飛ばされた先で気を失っていた。
「さて、あと一人。テメェで終いだよぉ」
シフォンもラクトと同じ様に構えると同じように打ち合った。
「ぐっ、ぐっあ〜〜〜」
やはり飛ばされたのはシフォン、しかしラクトのお陰で威力は落ちていて、軽く飛ばされた程度で済んだ。
そして初めてエットの苦しむ顔が見れた。
「いってぇ〜、クソがぁ〜」
「へへっ」
ラクト、そしてシフォンの拳が同じ所に三度も叩き込まれている。
その肩の中心は赤く腫れ上がり、ほぼ使い物にならなくなっていたが、エットにも山賊としてのプライドがある。
自分の一番の武器である右肩に全力を込める。
その姿を見たシフォンも全ての力を込めると更に炎が右腕を包み込んだ。
「うぉぉぉぉぉ」
炎の威力が増していく。
「グヘ、テメェのそれは宝具か」
笑いながら宝具を見つめる。
「だったらなんだ」
「グヘグヘ、テメェを殺してその宝具は俺様がいただくぅぅぅぅぅ」
宝具があればワンランク上の強さが入る。
ガキ1人始末するだけで手に入る。
その思いが容赦なくシフォンに襲いかかった。
「「これで終わりだぁーーー」」
シフォンとエットの言葉が重なると同時に右肩と右拳が打つかり合った。
30秒程だろうか。
どちらも引かない打つかり合いから動き出した。
「お前の負けだぁーーー!」
エットの肩から全身に炎が包み込まれて吹き飛び、仰向けになり気絶した。
その姿を見たシフォンは拳を上に突き上げる。
「よっしゃーーー!」
遂にエットを倒した。
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。
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