1話 旅立ち ①
「おーい、用意はいいか」
大声で叫ぶ少年の名はシフォン、右腕には紅く綺麗な腕輪を付け、ハーフパンツの腰の後ろには銀で装飾されたナイフを差し、元気に両手を振っている。
「いつでもいいわよ」
返事に応えた少女の名はアン、漆黒の長い髪をなびかせ、少女とは思えない妖艶な色気を放ち、異国の物と思われる刀という剣を持ち手を振り返している。
その刀もまた珍しく、鞘も柄も全てが白く美しい。
シフォンが小舟を押して坂を下り、海へと着水、するとアンの左手の指輪に刀が吸い込まれて消える。
ザブーン
「よし!さあ荷物を乗せるぞ」
シフォンとアンは用意した食料と水を積み込み、45リットル位入るリュックをこれでもかってぐらいにパンパン詰め込んである荷物を1つ乗せて2人は小舟を乗り込んだ。
今、2人は3度目の航海に出ようとしていた。
「今回の船は自信作だ」
「そう言って3回目よ。まあ前よりも大きくてゆったり出来るからいいけど」
「だろ!今回は帆も大きくしたし、乗ろうと思えば10人は乗れるぞ!何度も調整したからな」
そして小舟を漕ぎ出した。
最初は2年前だっただろうか、作った船は100メートルぐらい進んだら浸水して沈没、次は1年前、およそ300メートル先の渦に巻き込まれて沈没、そして今回は上手く渦を回避して無事に出港した。
「「やったー!」」
まだ前回巻き込まれた渦を突破しただけでテンションは爆上がりしていた。
「ねぇシフォン」
2人は帆を張り、風になびかせながら暇を持て余していた。
「なんだ」
「所で1番近い大陸ってどのくらいで着くのかしら」
「知らん」
「まあそうよね」
そんな暇つぶしにもならない話を2人は寝ながら空の雲をボーッと眺めて話していた。
出港して5時間、辺りは見渡す限り地平線が広がっていて何をしていいか、何処に向かっているのか、何もわからないまま退屈な時間を過ごしていた。
「ん?」
影?こんな何もない所で?
「マジかよ!」
シフォンが気付いた時には既にアンは食料を入れていた木箱を15メートル横に投げ、その木箱の上に自分の刀だけ持って退避していた。
ザブーン
小舟は大型船にぶつかり、シフォンもろともひっくり返る。
◇ ◇ ◇
「おい!大変だ!!」
「どうした!」
「ふね…小舟だ!ぶつかるぅぅぅ」
あまりにも小さい船がこの大海原にいるとは思わず、ぶつかる手前まで気付く事が出来なかった。
いや、油断だったのかもしれないが、実際に転覆させてしまった。
「急げ!子供だ!早く救出するんだぁ!!」
乗組員は急いで縄梯子を下ろして助けに行く。
がしかし、焦っていて気が付かなかった。
まさか少し離れた所で女の子が浮いた木箱の上でありえないバランスで平然と立っている。
その女の子は我々が下ろした縄梯子を見て海の上を3歩、そう!走ったのだった。
思わず見惚れていて我に返ると女の子は船の上に乗り込んでいた。
「あっ、早く男の子を助けろ!」
その声を聞いた時には男の子もでかいリュックを背負って縄梯子を上っていた。
子供2人を救出?して甲板では女の子が笑っている。
「あはは、シフォンどんくさぁ〜い」
「しょうがないだろ!起きたら目の前にこの船がいたんだから」
「き、君たち、大丈夫かい?」
「助かったわ。ありがとう」
すると1人の立派な鎧を着た騎士が近づくと先ずは自己紹介と謝罪、気付くと説教していた。
「君たち、申し訳ない。我等はモンブラン王国騎士団、第一騎士団所属、この騎士団の団長をしているアーモンドだ」
「俺はシフォン、こいつがアン、よろしく」
「君たちはどうしてあんな所にいた?まあ聞きたい事はたくさんあるが…」
アーモンドが隣りにいる騎士からタオルを受け取ると、そのままシフォンに渡す。
「子供用の服は無いがそのままだと風邪をひく。そのタオルで濡れた身体を服といい」
シフォンが身体拭いている間にアンが成り行きを説明すると、そこから説教が始まった。
説教が始まっておよそ30分
「アーモンド!何をしている」
「これはガーナ様、実は・・・」
「アーモンド、何かあったのですか?」
そこにはガーナ宰相とモンブラン王国第一王女クリム=ド=モンブランが扉から出てきて立っていた。
すぐに膝をつき、頭を下げるアーモンドにクリム姫は顔を上げるよう伝えた。
「はっ、実は小さな小舟と衝突してしまい、子供2人を救出して話を聞いていた所でございます」
「お名前をお伺いして宜しいですか?」
「俺はシフォン」
「私はアンよ」
「わたくしはクリムです。宜しければ下の部屋が空いてますので、そちらで休んで下さい」
「姫!このような輩に部屋など…」
「良いのです」
「しかし…」
「ガーナ、ここは海の上です。行き場の無い場所でどうしろと言うのですか」
「だが…」
ガーナ宰相がブツブツと小声で言っている間に、クリムはアーモンドに2人を案内させた。
「ありがとなクリム」
「ありがとうクリム」
「ば、ばか!言葉を…」
「良いのです。それではシフォンにアン、後でお話を致しましょうね」
「おう!」
「おっおい!ばっ」
アンはクリム王女に手を振り、シフォンの声にアーモンドは戸惑いながらも2人を急いで部屋に連れて行った。
部屋に着くとアーモンドは疲れた顔で2人に注意した。
「いいかシフォンくんとアンちゃん、あの御方は我が国の第一王女様なんだよ。あまり無礼な事はやめてくれ」
「「は〜い」」
「本当に大丈夫か?」
「「は〜い」」
「…また後で来るから…頼むから大人しくしてろよ」
「「は〜い」」
バタン、
アーモンドが部屋から出ていった後、2人は今後の打合せをする。
確かにノープランだった。
島を出ることしか考えてなく、まさに3度目の正直、ようやくまともに出港したので喜んでいたが、出ることにしか頭が回っていなかったのだ。
「まあ、なんだかんだで最初の目的地が決まったな」
「モンブラン王国ね。先ずはそうねぇ〜、地図と情報、それとお金なか?一応昔兄さんがくれた金貨は持ってきたけど…使えるのかしら?」
「兄ちゃんの話だけでお金を使ったことねぇしな〜」
2人で今後を考えていると外から声とドアを叩く音が聞こえていた。
「クリム様、行ってはいけません!あのような輩のとこなど」
「良いのです。ガーナ、貴方はわたくしに過保護過ぎます。自分の部屋にお戻りなさい」
コンコン、
軽いノックと同時にクリム王女は部屋に入ってきた。
◇ ◇ ◇
「王女を見張れ。決して悟られずにな」
見張りを立たせてブツブツ言いながらにやりと笑い、暗闇に消えるように自室に戻っていった。
「クリムめ!あの小娘が!…まぁあと少しの辛抱だ」
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
これからもご愛読してもらえる様、頑張っていきたいと思います。
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